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★繰り返す小児の中耳炎に鼓膜チューブは有効か?

 耳鼻咽喉科には、赤ちゃんからお年寄りまで、幅広い年齢の方が受診されます。

 小さいお子さんがかかりやすい病気に、急性中耳炎があります。皆さんの中にも、小さいころ耳が痛くなって熱が出て、耳鼻咽喉科を受診したことのある方もおられるのではないでしょうか。

 今回は急性中耳炎について取り上げたいと思います。

急性中耳炎とは

 急性中耳炎とは、鼓膜の奥(中耳)に細菌やウイルスが入って、炎症を起こすことを言います。

 そうなると、耳が痛くなったり、耳が聞こえづらくなってつまった感じになったり、熱が出たりします。ひどくなると耳だれが出てくることもあります。

 また、小さなお子さんだとそのような症状を上手く表現できないため、何となく機嫌が悪いとか泣き止まないなどという症状しかわからない場合もあります。

 耳鼻咽喉科に来られると耳の中を診察します。耳の中の様子をみれば、急性中耳炎だということはすぐにわかります。

 下の写真にありますように、鼓膜が真っ赤になって、膨らんで、鼓膜の向こう側に白色の膿が透けて見えたりします。

急性中耳炎はなぜ子供に多いのか?

 耳の中に細菌やウイルスが入り込むのですから、急性中耳炎はいわば「耳の風邪」と言えます。それらの細菌やウイルスはどこからやってくるのでしょうか?

 よく皆さん勘違いしているのですが、耳かきをしすぎたり、お風呂やプールで耳に水が入ったりすることによって、耳の穴から細菌やウイルスが入って中耳炎になると思っている人が多いようです。

 しかし、耳の穴(外耳)と耳の中(中耳)とは鼓膜という膜によって隔てられていますので、簡単には入りません。ではどこから入ってくるのでしょうか。それは耳管です。

 耳管は鼻と中耳をつなぐトンネルのようなもので、中耳の中の圧力を調節しています。高い山に登ってツーンとなったときに、耳抜きをするとそれが改善するのは、耳管を伝って鼻の空気が入り込んでいくからです。

 子供は大人と比べて、耳管が短く未熟なのです。ですから、風邪をひくと耳管を通って耳の中に細菌やウイルスが入りこみやすくなります。子供が中耳炎になりやすいのはこのためです。

急性中耳炎の治療

 急性中耳炎は軽症であれば特に薬を飲まなくても自然と良くなってきます。風邪が自然と治るのと同じです。しかし、症状が強い場合には抗菌薬を使うことがあります。

 多くの場合は、中耳炎をしつこく繰り返すことはなく、症状が出たときにその都度治療をすれば、それで落ち着いていきます。

繰り返すしつこい中耳炎への対処について

 しかし、中にはしつこく繰り返す場合があります。これを反復性急性中耳炎と言います。

 反復性急性中耳炎に行う治療として、鼓膜を切開して小さなチューブを入れる方法があります(鼓膜チューブ留置)。他には、十全大補湯という漢方薬も効果があると言われています。

 鼓膜チューブ留置がどれくらい効果があるのかということについては、以前から議論が続けられています。

 今回、下に示した論文は医学界では超有名な雑誌に最近発表された論文です。反復性急性中耳炎の子供を、鼓膜チューブ留置を行う場合と行わない場合とにランダムに振り分けて、その効果を比較したものです。

 その結果は、両者に有意な差はなかったという結果でした。ただ、この結果から「チューブ留置をしてもしなくても変わらないのか」と単純に解釈することはできなさそうです。

 よく読んでみると、鼓膜チューブを留置しないと振り分けられた子供121人のうち54人で結果的に鼓膜チューブが留置されているからです。これは、研究の取り決めに従って、治りが悪かったからチューブを留置したという場合もあれば、親の希望で取り決めに反してチューブを留置した場合も含まれます。

 ですので、鼓膜チューブの効果については、他の研究結果も踏まえてしっかり議論していく必要があるでしょう。

 中耳炎でお困りの場合には、ぜひ耳鼻咽喉科を受診してください。

 

今回参考にした論文は、
Hoberman A, et al. Tympanostomy Tubes or Medical Management for Recurrent Acute Otitis Media. N Engl J Med. 2021; 384(19): 1789-1799.
doi: 10.1056/NEJMoa2027278.
です。

Research Question:

 再発性急性中耳炎の小児に対する鼓膜切開チューブの留置の効果はどれだけか。

方法:

 デザイン:
  ランダム化非盲検比較試験
 対象:
  再発性急性中耳炎の生後6ヵ月から35ヵ月の小児(2015年12月〜2020年3月)
  ・再発性急性中耳炎の定義
    6ヵ月以内に3回以上の急性中耳炎エピソードを経験した児
    あるいは
    12ヵ月以内に4回以上の急性中耳炎エピソードを経験し、
    その前の6ヵ月以内に1回以上のエピソードを経験した児
 介入:
  鼓膜チューブ留置術を受ける群(鼓膜チューブ群)
  抗菌薬投与を含む保存的治療を受ける群(保存的治療群)
  に無作為に層別割付
  (年齢別(6~11か月、12~23か月、24~35か月)、
   週に10時間以上、3人以上の子どもと接触しているかどうかで層別化)
  ★保存的治療群では治療がうまく行かない場合に鼓膜チューブを留置できるとした。
 主要評価項目:
  2年間で児1人あたりの急性中耳炎の平均エピソード数(率)

結果:

  • 250人が登録された。すべての児が肺炎球菌結合型ワクチンを接種していた。
  • 250人のうち、229人(92%)が1年間追跡でき、208人(83%)が2年間追跡できた。追跡調査期間の中央値は1.96年であった。
  • intention-to-treat解析によると、急性中耳炎発症率(平均±標準偏差)は、鼓膜チューブ群で1.48±0.08、保存的治療群で1.56±0.08であった(リスク比:0.97 [0.84-1.12]、P=0.66)。
  • 鼓膜チューブ群129人のうち13人(10%)は結果的に鼓膜チューブ留置を行わなかった。
  • 保存的治療群121人のうち結果的に54人が鼓膜チューブ留置を行われた。その内訳は、急性中耳炎が頻繁に再発したために試験プロトコルに従って行われたものが35人(29%)、保護者の要望により行われたものが19人(16%)であった。
  • 上記を踏まえて、per-protocol解析も行った。
  • per-protoclo解析では、急性中耳炎発症率(平均±標準偏差)は、鼓膜チューブ群で1.47±0.08、保存的治療群で1.72±0.11であった(リスク比:0.82 [0.69-0.97])。
  • 副次的な評価(以下の数値は、鼓膜チューブ群 vs. 保存的治療群であらわす)
    • 鼓膜チューブ留置のほうが有利だった点
      • 急性中耳炎の初回エピソードまでの期間が長かった(4.34ヵ月 vs. 2.33ヵ月、ハザード比:0.68 [0.52-0.90])。
      • 治療失敗の規定基準を満たした子どもの割合が少なかった(45% vs. 62%、リスク比:0.73 [0.58-0.92])。
      • 鼓膜チューブからの耳漏以外の中耳炎関連症状を呈した日数(1年あたり)が少なかった(2.00±0.29日 vs. 8.33±0.59日)。
      • 抗菌薬の全身投与を受けた日数(1年あたり)が少なかった(8.76±0.94日 vs. 12.92±0.90日)。
    • 保存的治療のほうが有利だった点
      • 耳漏の発生日数(1年あたり)が短かった(7.96±1.10日 vs. 2.83±0.78日)。
    • 両群で実質的な差が認められなかった点
      • 急性中耳炎エピソードの頻度分布、重症エピソードの割合、起因菌の耐性、児のQOL、親の満足度など。
  • 試験に関連した有害事象は,試験の副次的評価項目に含まれていた症状に限られた。
  • []内は95%信頼区間。

結論:

 生後6~35ヵ月の再発性急性中耳炎患者において、2年間の急性中耳炎エピソードの発生率は、鼓膜チューブ留置によって保存的治療よりも有意に低下することはなかった。

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