Twitter、Facebook、Instagram……とSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)は多くの人が利用しており、もはや日常生活の一部となっているのではないでしょうか。
インターネットが普及し始めた頃、ネットサーフィンという言葉も使われましたが、まさにネット上の情報の波は次から次へとやってきて、その膨大な波を乗り越えていかなければなりません。
SNSで発信される医学・医療の情報も例外ではありません。
特に病気になった方は不安が強いですから、藁にもすがる気持ちでネット情報を検索します。しかし、押し寄せるたくさんの医療情報は玉石混淆であり、どれが正しいのかを見極めないと、場合によっては大事な健康を害してしまうかもしれません。
コロナ禍になり余計に増したSNS情報への不安:インフォデミック
新型コロナウイルスの蔓延によって外出が制限される中、以前と比較してSNSなどのメディアを活用する機会が増えました。
その一方で、これらのメディアから得られる情報が本当に正しいのかわからなくなっており、下のリンクに示した調査では、Z世代(18〜24歳)の8割以上の人が「SNSなどのメディアから得られる情報が正しいかどうかわからない」と回答したそうです。
また、誤った情報に動かされて、トイレットペーパーの不要な買いだめなどの行動をおこしてしまった人も2割以上いたようです。
インフォデミック (infodemic) という言葉は、情報 (information) とエピデミック (epidemic) を合わせて作られた造語です。使われるようになったのは最近のことだと思いますが、まさに新型コロナウイルスの蔓延と同じように情報も急速に拡散されていきます。
その中に不確かな情報が多く含まれていることにも注意を払わなければなりません。
論文の紹介:中耳炎についての動画を例に
下に示した論文は、Facebookの中で発信されている中耳炎についての動画を網羅的に調べて、その信頼性などを調査したものです。
3人の専門家がそれぞれ独立に動画を評価し、それを集計した結果、診療ガイドラインに示されているような標準的な治療を説明している動画や、必要な内容を網羅している動画はほとんどなく、複数の専門家が信頼性が高いと評価した動画は62本のうち5本(8%)しかありませんでした。
また、内容が充実しているもの、編集がしっかりしているものほど信頼性も高いことがわかりました。
一方、多くシェアされているからといって、必ずしも信頼性が高いとは言えないことも示されました。
正しい情報を得るために
この研究は中耳炎についてのものですが、他の病気の情報ついても同様であることが推察されます。
このような結果を踏まえると、SNS上の情報をすぐに鵜呑みにするのは危険だといえるでしょう。
- どんな人が発信しているのか。
- 情報の根拠はどこにあるのか。
- 文献が示されているか。
- 情報の正しさをむやみに決めつけず、その功罪や要否を論じているか。
- わかっていないことは、わかっていないと明示されているか。
- リンク先は信頼がおけるサイトか。
このような内容をよく吟味して、最終的には信頼できる主治医とよく相談して治療をしていくのが大事だと思います。
情報の波に上手く乗れるサーファーになれるといいですね。

今回参考にした論文は、
Kahn CI, et al. Assessing the Educational Quality of Facebook Videos as an Informative Resource on Otitis Media. Otolaryngol Head Neck Surg. 2021; 164(1): 110-116.
doi: 10.1177/0194599820933887.
です。
Research Question:
Facebook上の中耳炎についての動画の質と信頼性を分析し、それが重要な教育ツールとみなされるかどうかを調査した。
方法:
デザイン:
Facebookの動画コンテンツを横断的に分析
方法:
中耳炎というキーワードで動画検索を行うために、新しいFacebookアカウントを作成した。
動画の対象基準:
患者または保護者への中耳炎教育を目的とした動画
言語は英語、シェア数が1以上の動画
「耳の感染症」「耳の感染症を治療する方法」「耳の感染症治療」「中耳炎」
「中耳炎の治療方法」「中耳炎治療」のキーワードで検索した。
評価:
以下の3つのスコアを用いて評価した。
・信頼性スコア:過去YouTube動画を評価するのに用いたDISCERN基準を修正したもの
・内容スコア:内容の網羅性や正確性について
・制作品質スコア:コンテンツの編集の品質
評価した。
3人の評価者によって独立に評価された。
結果:
- 合計364本の動画がスクリーニングされ、62本の動画が本研究の基準に適合した。
62本のうち、平易な用語を使用したものは40本(65%)あり、医学的な専門用語を使用したものは22本(35%)あった。 - 動画の視聴回数はさまざまで24回~304,820回(平均 9,975回)であった。
- 62本のうち49本(79%)が教育的な動画であると判断されたが、動画の質には大きなばらつきがあり、3人の評価者のうち少なくとも2人の評価者が満点の信頼性スコアをつけた(信頼性が高いと判断した)動画は5本のみであった。
- 内容スコアに関しては、あらかじめ評価項目として設定していたすべての内容を網羅している動画はなかった。
- Facebook上の中耳炎の動画の56%は、現在のガイドラインに言及することなく、補完的な治療や代替医療に焦点を当てていた。これらの内容は、十分に研究されておらず、論文化されていない内容であった。
代替医療に言及した動画の54%(19本)においては、少なくとも2人の評価者による信頼性スコアで中等度の信頼性があると評価されたが、高い信頼性があると評価された動画はなかった。 - 動画の29%は、中耳炎に対する外科的治療の選択肢に言及していた。
- 動画の内容スコアと信頼性スコアの間には、強い正の相関を認めた(r = 0.8419、P < 0.001)。
- 動画の制作品質スコアは、信頼性スコアと内容スコアの両方に弱い正の相関を示した(それぞれ、r = 0.3693, P = 0.00156:r = 0.2938, P = 0.0102)。
- 一方、動画の信頼性スコアや内容スコアとシェア数の間には、相関関係は認められなかった(それぞれ、r = -0.078, P = 0.2733:r = -0.142, P = 0.1359)。
結論:
Facebookに掲載されている中耳炎の動画の大半は、教育的価値に乏しいものである。臨床医は中耳炎に関する動画の存在と、患者や保護者が触れる情報の質を知るべきである。