耳管という言葉はあまり聞き慣れない言葉かもしれません。
耳管というのは、耳と鼻をつなぐトンネルを言います。耳管は、ふだんは閉じているのですが、あくびをしたり唾を飲んだときに開いて、耳の中の気圧を調節しています。
高い山に登った時に耳の中がツーンとすることがあります。その時に、あくびをしたり唾を飲むと、耳管が開いて、ツーンとしなくなる経験をしたことがあるかもしれません。
耳管が開いて、外気と耳の中の圧が同じになったために、ツーンが無くなったのです。
耳管の働きが悪くなる病気もある
どんな臓器にも病気があるように、耳管にも病気があります。
大きく分けると、耳管が狭くなる耳管狭窄症と、耳管が開きっぱなしになる耳管開放症の2つがあります。
詳しい解説は、私の勤務する病院のホームページに書かれてありますので、ぜひご参照ください。
耳管(じかん)の病気|対応分野・医療機器のご紹介|耳鼻咽喉科|診療科のご案内|外来診療を受ける方へ|真生会富山病院(富山県射水市)
耳管(じかん)の病気 耳管とは 耳と鼻をつなぐ管を耳管と言います。耳管は耳の気圧を調節する働きがあり、高い山に登った時などの耳のふさがりが、あくびをしたり、つばを飲み込むと治るのは、耳管が開いて、空気を出し入れするからです。 耳管は通常、閉じており、あくびやつばを飲み込んだ時に開くのですが、それらの動作をしても開かない状態を耳管狭窄症、常に開いた状態を耳管開放症と言います。 耳管狭窄症について
耳管開放症の症状
耳管開放症の症状は、以下のような特徴があります。
・自分の声や呼吸音が耳に響く。
・耳がふさがったような感じがする。
・ベッドに横になったり、頭を下げると症状が消える。
・鼓膜が呼吸と一緒に動く。
経験したことがない人は、あまりたいしたことのない症状のように思うかもしれません。しかし、ずっと耳栓をして生活することを想像してみてください。
ずっと自分の声が響いていたり、耳がふさがった状態が続いていると、大変なストレスになり、患者さんは耳鼻咽喉科を受診されます。
耳管開放症は、急に体重が減ったり、ホルモンバランスの異常があったりすると起きると言われており、生活改善や内服などで良くなることも多いですが、中には、なかなか症状が改善しない方があります。
耳管開放症に対する手術治療
なかなか治らない場合には、開きっぱなしの耳管にシリコン製のピン(耳管ピン)を入れる方法があります。
下に示した論文は、日本の多施設における耳管ピン挿入術の成績を調べたものです。
耳管開放症に耳管ピンを入れるほど難治性の患者さんはそんなに多くないので、30名程度の少人数のデータですが、耳管ピン挿入で8割の患者で症状が改善したことが示されています。
もし、耳がふさがった感じがする、自分の声が響くという症状がありましたら、耳鼻咽喉科を受診してみてください。
今回参考にした論文は、
Ikeda R, et al. Efficacy of a silicone plug for patulous eustachian tube: A prospective, multicenter case series. Laryngoscope. 2020; 130(5): 1304-1309.
doi: 10.1002/lary.28229
です。
Research Question:
難治性耳管開放症に対するシリコンプラグ挿入術の有効性と安全性を調べる。
方法:
デザイン:
多施設共同、前向き症例集積研究
対象:
6カ月の保存的治療に抵抗性の耳管開放症患者 30名
介入(手術):
シリコンプラグ(耳管ピン)を経鼓膜的に耳管に挿入する
主要評価項目:
Patulous eustachian tube Handicap Inventory-10(PHI-10)
による症状スコアの変化
副次的評価項目:
術後3カ月後の耳管機能検査(音響耳管法、耳管鼓室気流動体法)、
鼓膜の呼吸性動揺、鼻から外耳道に伝わる音声の聴診
結果:
- 28名で治療の有効性が、27名で安全性が解析できた。
- PHI-10スコアの変化は、以下の通りであった。
- 術前:34.4±4.2
- 術後3カ月後:6.4±9
- 術後6カ月後:5.7±8.6
- 23例(82.1%:95%信頼区間 63.1-93.9%)が治療成功と判定した。
- 合併症は、滲出性中耳炎 5例(17.2%)、鼓膜穿孔 4例(13.8%)、耳鳴によりプラグを抜去 1例であり、重篤な合併症は認められなかった。
結論:
難治性耳管開放症に対するシリコンプラグ挿入の有効性と安全性を明らかにした。