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★早期の口腔癌、頸部郭清術やるべきか、やらざるべきか?

 みなさん、口腔癌って知っていますか?あまり聞いたことがないかもしれませんね。

 口腔癌とは口の中にできた癌をいいますが、口腔癌のほとんどは舌癌ですので、舌癌と聞けば少しイメージがわきやすいでしょうか。

 堀ちえみさんがかかったのも舌癌です。大変な治療を乗り越えて無事に回復され、歌をテレビで歌っているのを見て、大変感動したのを覚えています。

 今日は、口腔癌の話を取り上げたいと思います。

口腔癌を治療する耳鼻咽喉科

 口の中にできものが出来たときには、何科を受診すればよいのでしょうか。

 ぜひ耳鼻咽喉科を受診してください。

 耳鼻咽喉科をもう少し詳しく表現すると「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」となります。日本耳鼻咽喉科学会も学会の名称に「頭頸部外科」という名前を追加しようと動き出しています(こちらを参照)。

 耳鼻咽喉科の守備範囲は、鎖骨より上のうち、脳みそと眼を除いた全てなのです。耳鼻科と聞くと、耳や鼻だけを想像しがちですが、口やのどに出来たできものや、首のできものにも対応します。

 以前のブログでも「首にしこりができたら耳鼻咽喉科を受診しましょう」と書きました。

口やのどの癌は首に転移する

 ではなぜ、耳鼻咽喉科は口やのどにとどまらず、首まで担当するのでしょうか。

 それは、口やのどにできた癌は、進行していくと首のリンパ節に転移をするからです。

 下の図にはガイコツが描かれていますが、その首のまわりに緑の丸と線が編み目のように張り巡らされているのがわかると思います。丸いのがリンパ節、線がリンパ管です。


 リンパ節やリンパ管は全身に張り巡らされていますが、そこにはリンパ液という液が流れています。

 もし口やのどの中に癌ができると、その癌細胞がリンパの流れに乗って、一番近い首のリンパ節に転移してしまう可能性があるのです。つまり、口やのどの癌が進行すると首のリンパ節が腫れるのです。

 ですから、癌の治療はおおもとの口やのどのできものだけを治療するだけではダメで、首の治療もしないといけないのです。耳鼻咽喉科医は、頭頸部外科医でもあるのです。

頸部郭清術とは

 もし首のリンパ節に癌が転移した場合、手術で治療するときに、腫れた所だけをちょこっとくりぬけば良いというわけではありません。その周りにも癌の細胞が及んでいるかもしれませんから、広く切除しないといけません。

 しかし、首には大事な血管や神経、筋肉などがありますから、それらを避けてリンパ節や周囲の脂肪を残らず取ってこないといけません。それが頸部郭清術です。

 頸部郭清術を適切に行えば、それによって癌を制御することができますが、一方で首の広い範囲にメスを入れますので、場合によっては首や肩の動きに障害が出たりします。ですから、適切な患者さんに適切な手術を行うことが求められます。

 下にあげた論文は、早期の口腔癌で、しかもまだ首のリンパ節が腫れていない患者さんに、予防的に頸部郭清術を行ったほうが良いのか、事前にキーとなるリンパ節(センチネルリンパ節)を検査して癌があったときだけ頸部郭清術を行ったほうが良いかを比べた研究です。この研究は日本発の多施設での研究です。

 乳癌の治療ではセンチネルリンパ節の検査を行うことがよく行われていますが、首の場合にはリンパの流れがもっと複雑にからみあっているので、センチネルリンパ節の検査が有効かどうかというのは、以前から議論なされています。

 もしセンチネルリンパ節の検査を前もって行って癌がないと分かれば、不要な頸部郭清術をしなくて済みますので、患者さんにとってメリットになります。かといって、手術をしないことで癌が再発してしまったのでは元も子もありません。

 今回の研究結果は、どちらの方法も生存率に差はなく、センチネルリンパ節の検査を先行するほうが首の機能障害が少なかったという結果でした。

 今回の研究の結果はまだまだ議論が必要だと思いますが、日々治療を向上させていくことは私たち医師の使命だと思います。

今回参考にした論文は、
Hasegawa Y, et al. Neck Dissections Based on Sentinel Lymph Node Navigation Versus Elective Neck Dissections in Early Oral Cancers: A Randomized, Multicenter, and Noninferiority Trial. J Clin Oncol. 2021: JCO2003637. [Epub ahead of print.]
doi: 10.1200/JCO.20.03637.
です。

Research Question:

 早期口腔扁平上皮癌に対して、待機的頸部郭清術を行った患者と、センチネルリンパ節生検後に頸部郭清術を選択した患者を比較する。

方法:

 デザイン:
  非盲検ランダム化比較試験
 対象:
  組織学的に確認された前治療歴のない口腔扁平上皮癌(OCSCC)患者
  年齢18歳以上
  UICC TNM分類第7版でT1〜2、N0、M0、進達度が4mm以上
  (日本の16施設による多施設共同研究)
 介入:
  対照群:待機的頸部郭清術を行う(eND群)
  介入群:センチネルリンパ節生検を行い、陽性の場合に、即時にあるいは
      二期的に頸部郭清術を行う(SLNB群)
 評価項目:
  主要評価項目:3年全生存率 (非劣性マージンは12%)
  副次的評価項目:術後の頸部機能や合併症、3年無病生存率

結果:

  • eND群に137例、SLNB群に134例が無作為に割り付けられた。
  • 病理学的に転移陽性であったリンパ節は、eND群で24.8%(34例)、SLNB群で33.6%(46例)に認められた(P=0.190)。
  • 3年全生存率は、SLNB群で87.9%(95%信頼区間[CI]下限値: 82.4%)であり、eND群の86.6%(95%CI下限値: 80.9%)と比較して非劣性であった(P<0.001)。
  • 3年無病生存率は、SLNB群で78.7%(95%CI下限値: 72.1%)であり、eND群の81.3%(95%CI下限値: 75.0%)と比較して非劣性であった(P<0.001)。
  • SLNB群の頸部の機能性スコアは、eND群に比べて有意に良好であった

結論:

 SLNBで治療方針を決定された頸部郭清術は、早期OCSCC患者において生存率が悪化せずに、eNDの代替となり得て、術後の頸部の障害を軽減する可能性がある。

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