みなさん、このページのトップの写真にあるワインレッドとアイボリーホワイトのリボンは何を現しているかご存じでしょうか?
これはBurgundy ivory white ribbonといって、頭頸部癌啓発のためのリボンだそうです。乳癌のピンクリボン運動と同じようなものですね。
耳鼻科医は頭頸部外科医
最近のYahoo!ニュースでも取り上げられましたように、日本耳鼻咽喉科学会が名称を変更して日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会となりました。
とても長〜い名前になりました。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会(にほんじびいんこうかとうけいぶげかがっかい)。漢字で14文字、ひらがなで21文字、漢字の画数は130画です!
それはさておき、耳鼻咽喉科の守備範囲は狭いようで広く、多岐に渡っているなと改めて思います。1mm単位の細かい手術もあれば、豪快に腫瘍を切除する手術もあります。外科系かと思ったら、内科的な診療もあって、癌を相手にしたかと思えば、聞こえや匂い、発声など感覚や機能も改善させます。
耳鼻咽喉科医の守備範囲は、目と脳みそ以外の鎖骨より上全部なのです。
頭頸部癌について
頭頸部にも癌が出来るのですが、癌全体の数%程度と言われており、あまりメジャーではありません。しかし最近は芸能人が癌との闘病をいろいろなメディアで告白しています。堀ちえみさんは舌癌になられて治療をされ、復帰して歌を歌っていました。つんく♂さんは、喉頭癌になられて治療で喉を失って声をだせなくなっても、みんなに希望を与えてくれています。ですので、頭頸部癌も少し身近になってきているかもしれません。
頭頸部癌はどんなところにできるのでしょうか。口の中(口腔癌、舌癌)、鼻の中(鼻腔癌)、のどの中(咽頭癌、喉頭癌)、くび(甲状腺癌)、耳の中(外耳道癌)など、ありとあらゆる場所に出来ます。
その治療は、腫瘍が出てきた場所や進行具合、腫瘍の種類、転移の有無によって様々であり、医師はそれをよく評価して、患者さんと相談の上で治療方針を決めます。
おおざっぱに言うと、放射線療法、化学療法、手術療法の3つを単独で行ったり組み合わせて行ったりするのが一般的な治療になります。
癌細胞というのは、一度やっつけてもまた同じ場所に再発することもありますし、遠い所へ転移してしまうこともありますので、それをどうやって制御していくかが大事になります。
再発・転移頭頸部癌の治療
最初の治療を行っても、残念ながら再発したり転移をしてしまう方もおられます。その場合に、どのような治療をするかはもっと難しい問題です。
下に示した論文は、日本のある施設で治療を行った再発・転移の頭頸部癌患者についてまとめた研究で、どのような人が生存期間が長くなる(短くなる)のかということを調べたものです。
それによると、局所再発(もともと腫瘍があった場所に再発した病変)が周囲の血管や神経などに入り込んでいて、手術をしたり放射線を当てたりして根治することができないような場合、生存期間が短くなるという結果でした。一方で転移(肺とか骨などに飛んでいった腫瘍)があることは、生存期間を短くする因子にはならなかったという結果でした。
遠隔転移より局所再発した病変のほうが悪さをしていることになります。胃がんや大腸がんなどは局所再発があまり生存期間に影響を与えないという報告もありますので、頭頸部癌に特有のことなのかもしれません。
確かに、頭頸部はお腹や胸などの体幹部とくらべて小さな場所ですし、そこには頭と身体を結ぶ血管や神経、食道、気管、筋肉などがたくさんあります。身体のライフラインがたくさんあるといってもいいでしょう。ですから、少し腫瘍ができただけでもそのライフラインを障害してしまえば、命にかかわるような大変なことが起きるのは想像に難くありません。
首にしこりができたら、口内炎が治りにくかったら、声がかれてきたら、早めに耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診してください。
早期発見、早期治療が大事です!

今回参考にした論文は、
Nishimura A, et al. Incurable locoregional disease is a strong poor prognostic factor in recurrent or metastatic squamous cell carcinoma of the head and neck. Int J Clin Oncol. 2021; Epub ahead of print.
doi: 10.1007/s10147-021-01965-1.
です。
Research Question:
再発・転移性の頭頸部扁平上皮癌における局所病変と遠隔転移の予後への影響はどれほどか。
方法:
デザイン:
後ろ向きコホート研究
対象:
2006年8月から2019年12月までに静岡県立がんセンターで
緩和化学療法を受けた再発・転移性頭頸部扁平上皮癌(RM-SCCHN)患者
組み入れ基準
1)ECOG(米国東海岸癌臨床試験グループ)の Performance status(PS)が0~2
2)組織学的に扁平上皮癌と確認された
3)口腔、中咽頭、下咽頭、喉頭のいずれかが原発
除外基準
1)5年以内に重複癌が発症した場合
2)上皮内癌や粘膜内腫瘍
予後因子の候補:
年齢、性別、原発部位、喫煙状況、ECOG PS、プラチナ製剤耐性、
根治治療終了後からRM-SCCHNと診断されるまでの無病期間(DFI)、
遠隔転移の部位数、転移部位、難治性局所病変の有無
その他の因子:
治療前の要因:放射線治療、化学療法、外科治療の履歴
治療の因子:セツキシマブと免疫チェックポイント阻害剤の使用歴
評価項目:
全生存率(OS)と予後因子の関連を、Cox比例ハザードモデルを用いて評価した。
結果:
- RM-SCCHN患者として確認された223名のうち、156名がこの研究に組み入れられた。
- 年齢の中央値は66.5歳(範囲:26~82歳)、追跡期間の中央値は12.1カ月(範囲:1.9-63.5カ月)であった。
- 原発部位は、口腔が45名(28.8%)、中咽頭が31名(19.9%)、下咽頭が54名(34.6%)、喉頭が26名(16.7%)であった。中咽頭がん患者31名のうち10名がヒトパピローマウイルス(HPV)陽性であった。
- 87名(55.8%)が局所病変、120名(76.9%)が遠隔転移を有していた。局所病変の87名のうち、54名(62.1%)が難治性(治癒不能)とされた。
- 全生存期間の中央値は12.4カ月(95%CI:10.1-15.1カ月)であった。
- 以下の因子が予後と関連していた。
- 治癒不能な局所病変(ハザード比 [HR]: 2.31、P=0.007)
- 肝転移(HR: 2.84、P=0.006)
- DFI>13カ月(HR: 0.51、P=0.041)
- セツキシマブの使用(HR: 0.59、P=0.007)
- 免疫チェックポイント阻害剤の使用(HR: 0.56、P=0.006)
- 遠隔転移部位の数は、OSとは関連しなかった。
- 治癒不能な局所病変を有する患者は、治癒可能な局所病変を有する患者よりも生命を脅かすイベントが多かった(66.7% vs. 18.2%、P<0.01)。イベントの内訳は、腫瘍からの出血25名、腫瘍の感染11名、気道閉塞7名、中枢神経系浸潤2名、嚥下障害2名であった。
結論:
RM-SCCHNにおいて、治癒不能な局所病変の存在は予後に大きな影響を与えるが、遠隔転移部位の数は予後に影響を与えなかった。また、肝転移は予後不良因子であった。