今日は私の名前“ジェスレッ君”の由来となったJESRECスタディについて紹介したいと思います。
これは副鼻腔炎について調べた研究です。実は副鼻腔炎と一口に言っても、治りにくい(しつこい)副鼻腔炎とそうでない副鼻腔炎とがあります。
そもそも副鼻腔炎って何なのでしょうか。そして治りにくい副鼻腔炎の実態は?
副鼻腔炎とは
副鼻腔炎とは、副鼻腔に鼻水や膿がたまったり、副鼻腔の粘膜がはれる病気です。副鼻腔炎になると、鼻づまりや鼻水、後鼻漏などの症状が出たり、場合によっては頭痛やほっぺたの痛みが出ることもあります。
副鼻腔とはどんな場所なのでしょうか。下の図にあるように、鼻の周りにはたくさんの空洞があります。それが副鼻腔です。
副鼻腔は普段は空気が入っていて何もたまっていませんが、そこに炎症がおきると副鼻腔炎になります。副鼻腔炎については以前も記事にしましたので読んでみてください。
★慢性副鼻腔炎が悪化する原因は? | 耳鼻咽喉科医の独り言
鼻の中は狭い空間しかないように思っている人が多いかもしれませんが、実は鼻の周りにはたくさんの空洞があります。これが 副鼻腔です。 この副鼻腔の粘膜がはれたり、鼻水がたまったりするのが 副鼻腔炎です。…….
端的に言えば、風邪をひいた後にこじれてなるのが急性副鼻腔炎です。それが長く続くと慢性副鼻腔炎と言われます。
今日のお話は長く続く慢性副鼻腔炎のお話です。
昔ながらの慢性副鼻腔炎とは?
慢性副鼻腔炎にも大きく2種類あります。普通の慢性副鼻腔炎と好酸球性副鼻腔炎です。
普通の慢性副鼻腔炎は、「蓄膿」と言われることもありますが、風邪をひいた後にこじれて長引いて、副鼻腔に膿がたまってしまう病気です。昔はよく黄色い鼻水をたらしたはな垂れ小僧がよくいましたが、それです。昔の日本はこんな蓄膿が多かったんですね。
副鼻腔には鼻への出入り口があるのですが、その出入り口の粘膜がはれてしまって通りが悪くなると、副鼻腔にどんどん膿が溜まっていきます。その溜まった膿が鼻から出てきたり、鼻の奥にたれ込んだりします。
このような昔ながらの副鼻腔炎は、マクロライドという抗菌薬を少量内服する治療や、手術法の発達によって、かなり治りやすい病気になりました。
これで副鼻腔炎はやっつけられた!と思っていたら、そうは問屋がおろしませんでした。
治りにくい・しつこい慢性副鼻腔炎とは?
マクロライドの少量投与を行っても、手術をしっかり行っても、また副鼻腔炎が再発してしまう人が一定の割合でおられることが最近になって注目されるようになりました。
それが好酸球性副鼻腔炎です。鼻の中にある腫れた粘膜(鼻茸)を顕微鏡で見てみると、粘膜の中に好酸球という細胞が多くあることがわかったため、好酸球性副鼻腔炎と言われるようになりました。
そこで、好酸球性副鼻腔炎とはどんな病気なのかを調べて、手術をする前にそれを診断できる診断基準はできないか、ということで調べられたのがJESRECスタディです。
その内容について書かれたのが下に挙げた論文です。この研究は日本全国の15の施設で行われた副鼻腔炎の手術患者を3,000人以上集めて、その特徴を調べた研究です。
その結果、当初予想していたように鼻茸の中に好酸球が多く含まれている人(1視野70個以上)は再発しやすいということが分かりました。そこで、鼻茸の中に好酸球が1視野70個以上含まれている人を好酸球性副鼻腔炎と定義することにしました。
そして、それを予測する要素としては、両側に病変があること、鼻茸があること、CTで篩骨洞という鼻の真ん中あたりの空洞に影が多くみられること、採血で好酸球の数が多いことが挙げられて、それを元に診断スコアであるJESRECスコアが作られました。
さらに、喘息やアスピリン不耐症、痛み止めや熱冷ましに対するアレルギーがある人はより治りにくい・再発しやすいということもわかり、重症度も分類できるようになりました。
これらの結果を基に、好酸球性副鼻腔炎は厚生労働省指定の難病に指定されました。
好酸球性副鼻腔炎(指定難病306)
好酸球性副鼻腔炎は、両側の鼻の中に多発性の鼻茸ができ、手術をしてもすぐに再発する難治性の慢性副鼻腔炎です。一般的な慢性副鼻腔炎は、抗菌薬と内視鏡を用いた手術でかなり治りますが、この副鼻腔炎は手術をしても再発しやすく、ステロイドを内服すると軽快する特徴があります。すなわち、ステロイドが最も有効な治療法です。しかし病気自体は、生命に危険を及ぼさないので、ずっとステロイドを服用することは避けた方が…
好酸球性副鼻腔炎の方は、手術をしたからといって安心せず、続けて通院して治療をされることをお勧めします。分からないことがあれば、よく主治医の先生に相談をしてください。
今回参考にした論文は、
Tokunaga T, et al. Novel scoring system and algorithm for classifying chronic rhinosinusitis: the JESREC Study. Allergy. 2015; 70(8): 995-1003.
doi: 10.1111/all.12644.
です。
Research Question:
日本における難治性の慢性副鼻腔炎(CRS)の診断基準・診断アルゴリズムを作成する。
方法:
デザイン:
多施設後方視的研究
(Japanese Epidemiological Survey of Refractory Eosinophilic Chronic Rhinosinusitis:JESREC study)
対象:
2007年1月〜2009年12月に、15の施設で内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)を施行された慢性副鼻腔炎患者
解析:
Cox比例ハザードモデルを用いて再発リスクを推定した。
多重ロジスティック回帰モデルを用いて、ROC曲線を作成し、難治性CRSの診断基準を作成した。
結果:
- ESSを受けた3,241例中、適合基準を満たした1,716例を解析した。
- 鼻茸組織中好酸球数が70個/高倍率視野(HPF)以上の群は、それ未満の患者と比べて有意に再発しやすかった。
- そこで、鼻茸組織中好酸球数が70個/HPF以上の慢性副鼻腔炎を好酸球性副鼻腔炎(ECRS)と定義した
- 多重ロジスティック回帰モデルを用いてECRSを術前に診断するJESRECスコアを作成した。JESRECスコアのカットオフ値は11点(感度83%、特異度66%)であった。
- 血中好酸球増多(5%以上)、CTで篩骨洞優位の病変があること、気管支喘息やアスピリン不耐症、NSAID不耐症の合併があることは、再発リスクと有意に関連していた。
- これらの結果を基にECRSの重症度を診断するアルゴリズムを作成した。この分類は鼻茸の再発予後に有意に相関していた。
結論:
ECRSの診断基準・アルゴリズムを作成した。これは鼻茸再発の予後と有意に相関していた。このアルゴリズムは、ESSや生検を行う前にCRSの難治性を評価をすることができ、有用である。