アレルギーはもはや国民病とも言ってもいいくらい、近年増えてきました。
アレルギー性鼻炎、花粉症も年々患者数が増えてきています。何とかアレルギーを予防できないか、特にお子さんをお育てのお父さんお母さんは思われているのではないかと思います。
今回は、ビタミンDを取り上げてみましょう。
ビタミンDとは
ビタミンDは、カルシウムを身体に吸収し、骨の成長を促進し、血中のカルシウム濃度を調節する重要な栄養素です。健康な骨を維持するために欠かせないビタミンです。
ビタミンDのうち、次の2種類が栄養として重要です。
- ビタミンD2(エルゴカルシフェロール):植物や酵母が作る前駆体から合成され、高用量のサプリメントに通常使われます。前駆体はキノコに多く含まれています。
- ビタミンD3(コレカルシフェロール):ビタミンDの中で最も活性の高い型です。日光浴をしたときに、皮膚の中でつくられます。摂取源となる食品としては、主にシリアルや乳製品などの栄養強化食品、魚の肝油、脂の多い魚、卵黄、レバーなどです。
ビタミンDは脂溶性ビタミン(脂肪に溶けるビタミン)です。ですから、身体に吸収されるためには、多少の脂肪とともに食べる必要があります。そして、先ほど書きましたように、日光浴で作られるビタミンでもあります。
身体の中に入ったビタミンDは主に肝臓に蓄えられます。これらのビタミンD2とD3は、体内では活性を示しません。どちらの型も肝臓と腎臓で処理(代謝)され、活性型 ビタミンD(カルシトリオール)に変換されます。下の図の1,25(OH)2Dがそれです。
活性型ビタミンDは、小腸でのカルシウムとリンの吸収を促進します。カルシウムとリンはいずれも骨に取り込まれて骨を強くして骨密度を高くします。ですから、骨の形成、成長、修復に必要不可欠です。
ビタミンDの種々の病気に対する関連は?
ビタミンDが、いろいろな病気の発症に影響を与えているのではないかということは、以前からいろいろ研究がなされています。しかし、良い結果もありますが、逆の結果も出てきたりして、はっきりとしたエビデンスがあるものはあまりありません。
例えば、癌の予防については、約1200人の女性を対象に行われたランダム化比較試験では、ビタミンDの摂取により癌の発症率が減少しました(Lappe JM, et al. Am J Clin Nutr. 2007; 85(6): 1586-91.)。一方、アメリカ国立癌研究所が行った17歳以上の約17000人を対象に行った研究では、血中ビタミンD値と全癌死亡率との間に関連は認められませんでした(Freedman DM, et al. J Natl Cancer Inst. 2007; 99(21): 1594-1602.)。
また、ビタミンDがインフルエンザを予防したという研究を元に、COVID-19にも効果があるのではないかといくつか研究がなされていますが、これもまだ確定的な結論は出ておらず、コクランレビューや国立健康・栄養研究所は、ビタミンDのCOVID-19に対する治療効果や安全性を判断するのに十分なエビデンスはなく、根拠のない情報に注意を促しています。
めまいとビタミンDの関連については、以前書きましたので読んでみて下さい。
ビタミンDとアレルギーとの関係
では、アレルギーについてはどうなのでしょうか。
やはりこれも効果ありというものと、そうではないものといろいろです。
妊娠中にお母さんがビタミンDを摂取すると、生まれてくる子供の3歳までの喘息発症リスクを減少させるという報告があります(Roth DE, et al. BMJ. 2017; 359: j5237.)。
一方で、幼児期にビタミンDサプリメントを摂取すると、成長後にアトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎になるリスクが高まるという報告があります(Hyppönen E, et al. Ann N Y Acad Sci. 2004; 1037: 84-95.)。
今回、下に示した論文では、血中のビタミンD値が低い喘息の子供にビタミンD3をサプリメントとして摂取させても、血中のビタミンD値は上昇したものの、ダニやゴキブリなどのアレルギー感作を予防できる証拠はみつかりませんでした。
ある薬や栄養素について、「これさえ飲めば治ります」という情報には慎重になっていただきたいと思います。逆に「効果がなかった」という情報を得ても、それで全てを否定することはできません。
エビデンスというものは、多くの研究を集積して構築されるものなのです。適正な情報を集めることが大事ですね。
今回参考にした論文は、
Rosser FJ, et al. Effect of vitamin D supplementation on total and allergen-specific IgE in children with asthma and low vitamin D levels. J Allergy Clin Immunol. 2021: S0091-6749(21)00902-7. Epub ahead of print.
doi: 10.1016/j.jaci.2021.05.037.
です。
Research Question:
血中ビタミンD値が低い喘息の小児において、ビタミンD投与がIgEレベルを低下させるか。
方法:
デザイン:
多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験
対象:
Vitamin D Kids Asthma Studyに参加した、血中ビタミンD値の低い喘息の患児
介入:
介入群:ビタミンD3サプリメントを投与
対照群:プラセボを投与
評価項目:
割付時と終了時の総IgE値、ヤケヒョウヒダニ特異的IgE値(Der p)、
チャバネゴキブリ特異的IgE値(Bla g)を測定
解析方法:
多変量線形回帰
結果:
- 研究参加者は174名であった。
- 追跡期間は平均316日であった。
- 研究終了時には、ビタミンD群では、プラセボ群に比べて血中ビタミンD濃度が30ng/mL以上となった児が多かった(87% vs. 30%、P < 0.001)。
- 多変量解析では、ビタミンD3の補給は、総IgE値、Der p特異的IgE値、Bla g特異的IgE値の変化に有意な影響を及ぼさなかった。
結論:
ビタミンD3の補給は、プラセボと比較して血中ビタミンD値が低い喘息児の総IgE、ダニに対するIgE,ゴキブリに対するIgEの血清レベルに有意な影響を及ぼさなかった。