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★耳鼻咽喉科の術後出血は何がこわいか

 コロナ禍の第一波が落ち着いてきたため、件数を減らしていた手術も数が増えて来ました。

 今日のお話は、術後の出血についてです。

術後の出血

 執刀医は、手術中に切断する血管を糸でしばったり、電気メスで焼いたりして、一つ一つ血を止めながら手術を行っていきます。

 いかに出血量を抑えて手術を行うかが、執刀医の腕の見せ所といっても過言ではありません。上手い先生の手術を見学することがありますが、共通した特徴は術野が赤くない(出血が少ない)ということです。

 手術が終わった後も執刀医は気を抜くことができません。病室に帰ってから、創部の中の止めたはずの血管から再度出血してしまうことがあるからです。

 もちろんそんなに頻繁に術後出血をすることはありませんが、どれだけ上手く手術を行っても、ある一定の割合で術後出血はおこるものです。
 

耳鼻咽喉科の術後出血は窒息のリスクあり

 我々耳鼻咽喉科の手術でも術後出血はあります。

 おなじ術後出血でも、他の科の手術と大きく異なるのは、出血が止まらないと窒息をしてしまうリスクがあるという点です。

 扁桃摘出術(扁桃せんを取る手術)の術後に出血をすれば、のどの中に血液が充満して窒息してしまいます。

 甲状腺などくびの手術の術後に、創の中で出血をすれば、首がはれて、のどもむくんでしまい、窒息してしまいます。

 ですから、耳鼻咽喉科の術後に出血があった場合には、すぐに対応しなければなりません。

周術期の出血を減らすには

 周術期(術中、術後)の出血を減らすにはいろいろな対策がありますが、その1つの選択肢になるかもしれない研究結果をご紹介します。

 下に示した論文は、術前にトラネキサム酸という止血剤を静脈注射することで、周術期の出血を減らせるかをしらべた研究を集めてきてまとめたものです。

 その結果、術前にトラネキサム酸を注射すると、周術期の出血を減らすことができることが分かりました。

 今回の内容は、一般の方には少しマニアックな内容だったかもしれませんね。もし耳鼻咽喉科で手術を受ける方がおられたら、少し不安に思われるかもしれませんが、万全の体制で手術を行いますので、よく主治医とお話をして安心して手術を受けるようにしてくださいね。

今回参考にした論文は、
Heyns M, et al. A Single Preoperative Dose of Tranexamic Acid Reduces Perioperative Blood Loss: A Meta-analysis [published online ahead of print]. Ann Surg. 2020.
doi: 10.1097/SLA.0000000000003793
です。

Research Question:

 術前にトラネキサム酸(TXA)を単回静脈内投与したら、周術期の出血は減るか。

方法:

 デザイン:
  メタアナリシス
 検索:
  Cochrane Handbookに準拠して、Medline、Cochrane Central、
  Embaseを2018年11月に検索した。 
  検索語は“Tranexamic Acid” AND “Intravenous”とし、成人を対象と
  したランダム化比較試験に限定して検索した。
 研究の登録基準:
  ・術前に単回のTXAのボーラス投与をしている
  ・術中及び術後24時間までの周術期出血量が評価されている
 主要評価項目:
  周術期の出血
 副次評価項目:
  静脈血栓塞栓症の合併症、輸血必要量および投与量
 研究の質の評価:
  Cochrane Collaboration risk-of-bias toolを用いて、
  2名のレビュアーによって評価した。

結果:

  • 1,906件の論文がスクリーニングされ、57 件が基準を満たした。
  • 内訳は整形外科手術(27件)、産婦人科手術(16件)、口腔顎顔面・耳鼻咽喉科手術(10件)、心臓外科手術(3件)、急性熱傷の再建に焦点を当てた形成外科手術(1件)であった。
  • 専門分野によらない全症例(5,698例)において、周術期の推定出血量はTXAを投与された患者の方が低く、標準化平均差は-153.33mL [-187.79 to -118.87]であった。
  • TXA を投与された手術患者では輸血のオッズが 72%減少した(オッズ比:0.28 [0.22-0.36])。
  • TXA の投与量は、15 mg/kgが最も頻度が多かった。
  • 静脈血栓塞栓イベントの発生率はTXA群と対照群で差はなかった
  • []内は95%信頼区間。

結論:

 術前TXA静脈投与は、様々な外科領域において、血栓塞栓イベントのリスクを増加させることなく、周術期の出血量と輸血必要量を減少させた。

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