新型コロナウイルスのことで、日々のニュースはもちきりですが、冬の感染症といえば、インフルエンザを忘れてはいけません。
「そういえばそうだった。インフルエンザがあったの忘れてた」
という人もいるかもしれません。
今年は少なかったインフルエンザ
あくまで私の感想ですが、確かに今年はインフルエンザの方を外来であまり診なかったなという印象です。
そう思っている医師の方も多いかもしれません。
下に示した論文は、国立感染症研究所に集められたデータを元に、いつものシーズンと今シーズンとのインフルエンザ感染症の動向について比較をしたものです。
この論文の結果からもインフルエンザ感染症は今年は少なかったことがわかります。
なぜ少なかったのか
では、なぜインフルエンザが今年は少なかったのでしょうか。
この論文ではどのように考察されているでしょうか。
インフルエンザの活動性は、その年の気温や、流行したインフルエンザウイルスの型(その病原性の強さ)の影響を受けると考えられますが、今シーズンは、新型コロナウイルス対策として、以下のような対策が取られたことも影響している可能性があります。
・学校の休校
・大型イベントの中止
・リモートワークの推進
・マスクや手洗いなど、感染予防対策に対する意識の変化
・新型コロナ感染を恐れた病院への受診控え
・医師のインフルエンザ検査に対する考え方の変化
これらのことがどれだけ影響を及ぼしたのかということについては、のちのち検証していく必要がありますが、新型コロナ対策はインフルエンザの予防にも関連していることは、大いに考えられると思います。
これからも油断せず、各自のできる感染予防対策に心がけましょう。
今回参考にした論文は、
Sakamoto H, et al. Seasonal Influenza Activity During the SARS-CoV-2 Outbreak in Japan. JAMA. 2020; e206173.
doi: 10.1001/jama.2020.6173
です。
Research Question:
SARS-CoV-2の流行した2019/2020年シーズンのインフルエンザの流行は、過去5シーズンと比較して変化があったか。
方法:
使用したデータ:
日本全国のおよそ5000施設の病院や診療所における定点観測データ
(小児科 60%、内科・総合診療科 40%)
臨床症状や検査所見に基づいて医師が診断した季節性インフルエンザ
の症例数
→国立感染症研究所に集められた上記データを解析した。
定点症例数からの罹患者数の推計方法はここを参照。
期間:
2014/2015年から2019/2020年
その年の第40週〜翌年の第11週までを1シーズンとし6シーズンを比較。
(2019/2020年シーズンは2019/9/30-2020/5/15まで)
比較:
2014/2015〜2018/2019年のシーズンと、2019/2020年シーズンとの
インフルエンザの活動性の比較には、「差分の差分法」回帰モデルを
用いた。
PCR検査:
当該施設の約10%からPCRサンプルが提供された。
これらのデータから、それぞれのシーズンで優勢だったサブタイプを評価
した。
また、年齢別(15歳未満、15-54歳、55歳以上)の症例の分布を比較した。
結果:
- 8,414,693例のインフルエンザ患者(2019-2020年シーズンは981,373例)のデータが集積された。
- すべてのシーズンにおいて、年末に向けて増加した。
- 2014/2015〜2018/2019年のシーズンでは、翌年第4〜6週にピークを迎えたが、2019/2020シーズンでは年初にプラトーになり、第5週以降は減少した(下図)。
- 差分分析では、2014/2015〜2018/2019年のシーズンと比較して、2019/2020年シーズンでは3〜7週目でインフルエンザの活動性が有意に低かった。
- PCR検査の結果は、51,847検体が得られた。
- それぞれのシーズンで優勢だったサブタイプは上図に書かれている。
- PCR検体を年齢別で比較すると、2019/2020年シーズンは2014〜2019年のシーズンと比較して15歳以上の割合が低かった。
結論:
日本における2019/2020年シーズンの季節性インフルエンザの活動性は、例年よりも低かった。
アイキャッチ画像はTomoharu photographyさんによる写真ACからの写真を使用しました。