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新型コロナ:「重症化した人の6割がワクチン接種済」って本当?!〜シンプソンのパラドックス〜

 新型コロナウイルスの蔓延が全国的に広がって、また大変な状況になってきています。ますます、多くの人に迅速にワクチンを接種することがのぞまれます。

 ワクチンの効果や安全性については、いろんな情報が飛び交っています。そんなときに、表面に見えている数値だけを見て、判断してしまいがちです。

 今回は、少し頭の体操をしながら、データの読み方について勉強してみましょう。

シンプソンのパラドックス

 突然ですが、シンプソンのパラドックスをご存じでしょうか。

 詳細はWikipediaに書いてありますが、1951年にE.H.シンプソンによって記述された統計のパラドックスです。

 難しい説明はこの際抜きにして、下の図を用いてイメージしてみましょう。


参考文献2より引用)

 (これから述べる例は、あくまで仮想的なもので実際のデータではありません)
 例えば、このグラフの横軸が「喫煙本数」としましょう。右にいくほど喫煙数が多くなります。そして、縦軸が「肺年齢」としましょう。上に行くほど肺年齢が若い(肺の働きが良い)とします。

 データを集計してみたら、左側の黒い点のグラフが書けたとします。この黒い点の傾向を線であらわすと、右肩上がりの線が書けます。つまり、喫煙数が多いほど(右にいくほど)、肺年齢が若い(上に行く)ということになり、ちょっと違うような感じがしますよね。

 ところが、このデータを男性(青)女性(赤)に分けてみたら、右側のグラフのようになりました。そして、性別ごとに線をひいてみると、喫煙本数が多いほど(右にいくほど)、肺年齢が高くなる(下にいく)ということになり、現実をあらわすことができました。

 男性と女性で喫煙本数に大きな違いがあったために、男性と女性を一緒くたにしてグラフを書いてしまうと、真実とは反対の解釈をしてしまうことがあるのです。

 これがシンプソンのパラドックスです。

実例:イスラエルの新型コロナ重症者とワクチン接種の関係

 では、最近発表されたデータを使って、シンプソンのパラドックスの実例を見てみましょう。

 下に示したリンク先に書かれてある内容を、かいつまんで解説してみます。これは、世界の中でも先陣を切ってワクチン接種を行ったイスラエルのデータです。

 そのデータを見ると、重症となって入院した患者さんの数は、非接種者が214人接種者が301人となっています。「えっ?重症者の6割がワクチン接種者なの?ワクチンの効果はないんだなぁ!」と思われるかもしれません(下の表)。

 これでは考察が不十分ということは大抵の人は気づかれると思います。まだパラドックスは始まっていません。それ以前の問題です。

 つまり、何人の人に対して214人なのか、301人なのかがわからないと議論はできませんね。

 次の表にあるように、イスラエル国内の非接種者と接種者の割合は18.2%78.7%なのです。ですから、単純に214人と301人を比べるのはよくありません(注:18.2%と78.7%を足しても100%にならないのは不明な人などがいるからです)。

 そこで、10万人あたり何人が重症になったかを求めてみますと、

非接種者は 214人/1,302,912人×10万人 = 16.4

接種者は 301人/5,634,634人×10万人 = 5.3

となります。ですから、ワクチンを打っていなければ16.4人が重症になったところを5.3人にすることができたのですから、ワクチンの予防効果は (1-5.3/16.4) ×100 = 67.5%となります。

「でも待てよ?ワクチンの重症化予防の効果は8割とか9割じゃなかったっけ?」と思われるかもしれません。

 そうです、これからパラドックスが始まるのです!

 イスラエルのワクチンの接種率は年齢によって大きく異なるんですね。そして、重症化しやすいリスクも年齢によって異なります。そのことをしっかり考慮しないと、予防効果を過小評価してしまうことになります。

 そこで、50歳以上と50歳以下とで分けて考えてみましょう。それが次の表です。

 50歳以下の人の接種率が73.0%なのに対して、50歳以上の接種率は90.4%であり大きく異なります。

 一方、非接種者の重症化の人数(10万人あたり)をみると、50歳以下が3.9人に対して、50歳以上は91.9人とこれまた大きく異なります。

 これらがパラドックスを引き起こすタネとなっているのです。

 ですから、年齢層別に分けて調べてみましょう。すると、重症化の予防効果は50歳以下で91.8%、50歳以上で85.2%となります。

 まとめて計算すると67.5%なのに、2つのグループに分けて計算するとそれぞれ85%以上になる。不思議ですねぇ。これがパラドックスです。

 さらに年齢を細かく分けて調べてみると、次の表のようになり、重症化の予防効果はいずれの年齢層でも80%以上はあることがわかります。

シンプソンのパラドックスから得られる教訓

 ここまで読んでくださった皆さん、お疲れ様でした。数字ばかりで疲れたかもしれませんね。

 皆さんが何かのデータを見たとき、それをそのまま鵜呑みにするのではなく、その背景に隠れている様々な要因を踏まえて考えることが大事だ、ということがわかりますね。

参考文献

  1. Israeli data: How can efficacy vs. severe disease be strong when 60% of hospitalized are vaccinated? [リンク]
  2. Simpson’s Paradox and Interpreting Data -The challenge of finding the right view through data- [リンク]

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