メタアナリシスとは、これまで行われてきた同様の研究(たいていはランダム化比較試験 [RCT])の結果を統計的に統合して、より高い見地から分析する方法です。
例えば、降圧薬のA薬とB薬とを比較したRCTが過去に10件あったとします。その10件を統合して、どちらの薬が効果があるかを解析するときに、メタアナリシスを用います。
さて、最近はネットワークメタアナリシス(NMA)という解析法が行われるようになってきました。Pubmedで”network meta-analysis”で検索すると、下のグラフに示すように、NMAを用いた論文が年々増えてきています。
ネットワークメタアナリシスとは
例えば、研究者が注目している2つの降圧薬(A薬とB薬)があったとしましょう。どちらが効果があるか調べたいのですが、検索してみると、A薬とB薬とを直接比較した研究は10個でした。
しかしよく調べてみると、他の降圧薬(C薬、D薬)とA薬やB薬とを比較した研究もいくつかあることが分かりました(下図)。
普通のメタアナリシスを行う場合は、A薬とB薬とを直接比較した10個の研究のみしか使えず、他の12個の研究の情報は使うことが出来ません。
しかし、B薬とC薬、C薬とA薬を比べた研究をうまく解析すれば、間接的にA薬とB薬との関係を調べることができます(間接比較)。これはD薬についても同じです。
それを解決して、これら全ての情報を用いて、A薬とB薬の効果を比較しようというのがNMAです。
先ほどの図を書き直してみると下図のようになります。このような図はネットワークプロットと呼ばれます。丸の大きさや線の太さは、研究のサンプル数を表しています。
NMAよって、より多くの研究の情報を用いて、薬の効果を評価できることになります。
SUCRAによる順位付け
ベイズ流の方法論を用いたNMAでは、知りたいアウトカムに関して各治療が最善の治療となる確率を推定することができ、その確率の高さに順位を付けることができます。順位を付ける方法として surface under the cumulative ranking(SUCRA)が知られています。
この方法は、横軸をベイズ流の推定でのシミュレーション 1 回ごとの順位、縦軸をシミュレーション回数に対する横軸の順位及びそれよりも良い順位となる割合としてグラフを書きます。(これだけの説明では説明不足ですが、今回は概説ということでご容赦を)
SACRAはこれらに基づいて作図された曲線の下側の面積で定義され、この値の大きい順に順位が与えられます。
この順位は非常にわかりやすい指標ですが、単純な指標なだけにその解釈には注意を要することも理解したうえで評価をしましょう。
ネットワークメタアナリシスの注意点
こう聞くと、NMAは重宝な解析だと思われるかもしれませんが、以下の点に注意をしなければなりません。
- 類似性のチェック(類似性←→異質性)
- 通常のメタアナリシスと比べて、より多くの研究が解析の対象となりますので、それぞれの研究の試験デザイン、対象集団、評価するアウトカムが十分に類似しており、バイアスが少ないことをチェックしなければなりません。
- 一致性のチェック(一致性←→不一致性)
- NMAは直接比較と間接比較という異なる方法で2つの薬剤を比較することができます。例えばA←→Bが直接比較、A←→C←→Bが間接比較です。
その両者の比較法でAとBの違いを調べたときに、矛盾が起きていないかということをチェックしなければなりません。
- NMAは直接比較と間接比較という異なる方法で2つの薬剤を比較することができます。例えばA←→Bが直接比較、A←→C←→Bが間接比較です。
- 批判的な吟味を行う
- 多くの比較を行うことによって、いろいろな結果が出てきますが、自分の都合の良い結果だけを拾い上げたり、都合の悪い結果を無視したりしないよう、批判的な吟味を行うことが必要です。
結論:
NMAは、治療法を比較する上で強力なツールになるが、メタアナリシスと比べると異質性や不一致性など不確実な要素が増えるため、注意が必要である。
文献
Salanti G. Indirect and mixed-treatment comparison, network, or multiple-treatments meta-analysis: many names, many benefits, many concerns for the next generation evidence synthesis tool. Res Synth Methods. 2012; 3(2): 80–97.
doi: 10.1002/jrsm.1037
Salanti G, et al. Graphical methods and numerical summaries for presenting results from multiple-treatment meta-analysis: an overview and tutorial. J Clin Epidemiol. 2011; 64(2): 163–171.
doi: 10.1016/j.jclinepi.2010.03.016
1件のピンバック
★顔面神経麻痺の治療法について | 耳鼻咽喉科医の独り言