研究を評価するときに、バイアスを評価することはとても大事なことです。
バイアス(Bias)とは、
研究の結果や推定結果が、真の値からずれてしまうこと、
あるいは、そのようなことが起こる過程
を言います。
バイアスは、データ収集、解析、解釈、出版など、研究のどのような過程でも起きうるものです。
まったくバイアスがない研究というのは、おそらく不可能ですが、できるだけバイアスがない研究にすることが求められます。そのために大事なのが、研究を始める前の研究デザインです。研究デザインをうまくおこなうことで、バイアスを最小限にし、質の高い研究をすることができます。
また、システマティックレビューやメタアナリシスなど、いくつかの研究をまとめて解析する場合には、バイアスの評価は不可欠です。
バイアスにはどのようなものがあるのでしょうか。(いろいろな種類のバイアスがあるので、網羅できていませんが……。)
選択バイアス (Selection Bias)
研究の対象となった集団が、母集団を正しく代表できていないときに起こるバイアスです。主なものは以下の通りです。
自己選択バイアス (Self-selection Bias):
臨床試験の参加者を募ると、健康に自信のある人が集まりやすかったり、
疾患への関心が高い人が集まりやすかったりと参加者の意志が反映される。
未回答者バイアス (Non-respondent Bias):
調査に回答(あるいは受診)してくれる人と回答(受診)してくれない人と
の間で違いがある。
例えば、胃がん検診受診者よりも未受診者の方が、胃がんによる死亡率が
高い。
Neymanバイアス (Neyman’s Bias):
症例対照研究の場合、病院を受診した人から研究対象者を選ぶことが多い
ため、来院する前に死亡してしまうことがある疾患や、来院しなくても
治ってしまうような疾患では正しい比較ができない。
Berksonバイアス (Berkson’s Bias):
病院の患者だけを調査対象とすると、一般の人よりも有病率などが高くな
る。また病院の種類や規模、専門性によって、患者特性に偏りが出る。
脱落バイアス (Losses to Follow Up):
長期追跡調査では、死亡、転居、同意撤回などで脱落が発生する。
脱落が、調査の目的や方法と関連がある場合には、結果がゆがんでしまう。
情報バイアス (Infomation Bias)
測定の仕方に問題があるためにバイアスが生じる場合です。主なものは以下の通りです。
観察者・質問者バイアス (Observer/Interviewer Bias):
対象症例への介入やアウトカムの情報が先入観となり、データ収集に
影響を与えてしまう。
報告バイアス (Reporting Bias):
飲酒歴や喫煙歴などの自己申告は、過少申告される傾向がある。
思案バイアス (Rumination Bias):
回答者が質問の内容に思いをめぐらして、大袈裟に回答したり、都合の
良い回答をしたりしてしまう。
想起バイアス (Recall Bias):
過去に起こったことを質問した場合、人によってその正確さが異なる。
測定バイアス (Measurement Bias):
測定装置に問題がある場合、あるいは測定する人によって測定法に
違いが出てしまう。
出版バイアス (Publication Bias)
研究結果を公表する際に生じるバイアスです。
一般的には、否定的な結果が出た研究は、肯定的な結果が出た研究に比べて公表されにくいというバイアスです。
これに類似したものに以下のようなものがあります。
言語バイアス (Language Bias):
有意な結果が出た研究は、自国の言葉よりも英語で報告される傾向がある。
インパクトファクターバイアス (Impact Factor Bias):
有意な結果が出た研究は、よりimpact factorの高い雑誌に掲載される
傾向がある。
引用バイアス (Citation/References Bias):
有意な結果が出た研究の方が、頻回に引用される傾向がある。
まとめ:
バイアスは研究のあらゆる段階で起こりうる。
研究を計画する段階で、できるだけバイアスが生じないようにすることが重要である。
文献:
Sackett DL. Bias in analytic research. J Chronic Dis. 1979; 32 (1–2): 51–63. doi: 10.1016/0021-9681(79)90012-2
★この論文では、56種類のバイアスがあげられています。
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