のどに出来る癌で最近増えてきたのは、中咽頭癌です。
中咽頭癌といっても、なかなかなじみのない癌かもしれませんが、扁桃腺や舌の付け根あたりにできる癌を言います。
のどの癌といえば、タバコやお酒が原因と思われると思います。もちろん間違いではありませんが、中咽頭癌についてはそれ以外の原因があります。
それはウイルスです。ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスで、子宮頸癌の原因にもなっていると言われています。
以前、ブログにも書きましたので、こちらも是非ごらんください。
★中咽頭癌に関連するウイルスとは? | 耳鼻咽喉科医の独り言
のどにできる癌は、癌全体の中では少ない部類に入りますので、皆さんはなじみがないかもしれません。 のどにできる癌の中で、以前は喉頭癌が一番多かったのですが最近は減ってきています。これは喉頭癌の原因であるタバコを吸う人が減ってきたことによると思われます。 …
ウイルスが原因の癌はまるで違う病気
中咽頭癌は、HPVが関与しているものと、関与していないものと2つに分けられて、両者はあたかも別の病気のような振る舞いで、治り方に差があるため、今では別の病気として扱われています。
HPVが関与している中咽頭癌は、喫煙していない人でも発癌することが多いですが、HPVが関与していない中咽頭癌よりも一般的には治りが良いと言われています。
ウイルスが原因の癌でも喫煙はリスク
「なら喫煙は関係ないのか?」というとそうでもないようです。
下に示した論文は、HPV関連中咽頭癌の予後が喫煙によって影響されるかを調べた研究です。
それによると、喫煙が多い人ほど生存率が低いことがわかりました。
しかも、進行癌よりも早期癌のほうが喫煙の影響を受けることもわかりました。
喫煙は百害あって一利なし。禁煙しましょう!
今回参考にした論文は、
Chidambaram S, et al. Prognostic Significance of Smoking in Human Papillomavirus-Positive Oropharyngeal Cancer Under American Joint Committee on Cancer Eighth Edition Stage [published online ahead of print]. Laryngoscope. 2020.
doi: 10.1002/lary.28659
です。
Research Question:
ヒトパピローマウイルス(HPV)陽性の中咽頭扁平上皮癌(OPSCC)における、喫煙の予後に与える影響はどれくらいか。
方法:
デザイン:
後向きコホート研究
対象:
1997年〜2017年までに三次医療機関を受診したHPV陽性OPSCC患者 317名
主要評価項目:
5年全生存期間
因子:
喫煙状況:10 pack-year未満と10 pack-year以上で分類
★pack-year = 一日の喫煙数[箱] × 喫煙年数[年]
病期:AJCC 第8版による病期分類
解析:
喫煙状況別および病期別でKaplan-Meier法を用いた。
喫煙と病期の独立した効果についてはCox比例ハザードモデルを用いた。
結果:
- 10 pack-year以上の喫煙者は、10 pack-year未満の喫煙者よりも5年全生存率が悪かった(93.6% [89.7-97.8] vs. 82.3% [76.0-89.1])。
- AJCC-8の臨床病期で層別化した場合、I期において10 pack-year未満の喫煙者(98.7% [96.3-100.0])のみが、10 pack-year以上の喫煙者(84.8% [76.4-94.1])と比較して5年全生存期間が有意に良好であった。
- 多変量解析では、AJCC-8の臨床病期(ハザード比[HR]:2.52 [1.16~5.46])および病理学的病期(HR:5.21 [1.47-18.5])を調整した場合、10 pack-year以上の喫煙は死亡ハザードの増加と関連していた。
いずれの解析においても、III期の患者はI期の患者よりも生存率が悪く、喫煙は病期が低いほど影響が大きかった。 - []内は95%信頼区間。
結論:
喫煙は HPV 陽性 OPSCC の予後を悪化させる因子であり、AJCC-8 の臨床病期と相互に関連がある。治療を計画したり、治療の強度を抑制する試みを検討する際には、喫煙の影響を理解することが重要である。