脳卒中になると手足が動きづらくなりますが、それだけではなく口やのども動かしづらくなります。
そうなるとしゃべったり、食べたりすることに影響が出てきます。
嚥下障害は肺炎をひきおこす
ですから、脳卒中の患者さんが入院された時には、その方に嚥下障害(のみこみの障害)がないかどうかを評価することがとても重要です。
なぜなら、嚥下障害があると栄養を十分摂ることができず、身体が弱ってしまいます。治る病気も治らなくなります。
それだけではなく、食べたものをうまく飲み込めなかったり、自分の唾液さえもうまく飲み込めなかったりして、肺に入ってしまう(誤嚥してしまう)と、肺炎になってしまいます。
肺炎は、日本の死因の上位に数えられています(一時期3位になりましたが、2017年の人口動態統計では5位になっています)。
命に関わりますから、嚥下障害を早く見つけて対応し、肺炎を防止しなければなりません。
早期の嚥下障害スクリーニングで肺炎予防
下に示した論文は、早期の嚥下障害スクリーニング(嚥下障害がないかどうかを調べること)が肺炎発症にどれだけ関連があるかを調べた研究を集めてまとめたものです。
それによると、高いエビデンスではありませんが、早期に嚥下障害スクリーニングを行うことで、肺炎発症を予防できる可能性が示されました。
しかもそれは、嚥下専門医や言語聴覚士などの専門家が必ずしも行う必要はなく、訓練を受けた医師、看護師、理学療法士などが行っても効果はあるという結果も得られました。
早期に嚥下障害を発見して、肺炎を防止し、患者さんが早く元気になられるように、多職種のスタッフが協力することが大事ですね。
今回参考にした論文は、
Eltringham SA, et al. Impact of Dysphagia Assessment and Management on Risk of Stroke-Associated Pneumonia: A Systematic Review. Cerebrovasc Dis. 2018; 46(3-4): 99-107.
doi: 10.1159/000492730
です。
Research Question:
入院後72時間以内における嚥下障害のスクリーニング、評価、管理の方法は脳卒中関連肺炎(SAP)のリスクにどのように影響するか。
方法:
デザイン:
システマティックレビュー
検索・選択基準:
脳卒中で入院後72時間以内の嚥下障害のスクリーニング、評価または管理を
評価し、脳卒中関連肺炎(SAP)の頻度を記録した、査読付き英語論文に限定
した。
データベース:
2016年11月までの文献を、CINAHL、COCHRANE、EMBASE、
MEDLINE、SCOPUSによって検索し、得られた研究の参考文献もスク
リーニングした。
主要評価項目:
SAPとの関連
※SAP=脳卒中発症後7日以内に発症する肺炎
レビュー:
2名の独立した著者が適格性を確認した。両者の相違点は3人目の著者
に送られ吟味された。
統計解析:
評価者間信頼性はκ統計量を用いて分析した。
異質性はランダム効果モデルを用いて評価した。
結果:
- 虚血性および出血性脳卒中患者87,824人を対象とした12件の研究が選択された。大半は前向きの観察研究であった。
- 全体のSAP発症率は8件の研究で報告されており、0~23.6%であり、最大のコホートでは8.7%であった。
- 嚥下障害スクリーニングのプロトコルの種類は、研究間および研究内で大きく異なっていた。スクリーニングは訓練を受けた医師、看護師、理学療法士によって行われた。
- 6件の研究で嚥下障害スクリーニングとSAPとの関連が分析された。
以下のようなそれぞれの研究結果が得られた。- スクリーニングを受けなかった人は受けた人と比べてSAP発症率が有意に高かった(p < 0.0001)。
- スクリーニングで異常があった患者は異常がなかった患者と比較して肺炎(オッズ比(OR) 4.71 [3.43-6.47])および誤嚥性肺炎(OR 6.5 [4.2-9.9])を発症する可能性が高かった。
- スクリーニングの異常がSAPと関連していたが有意ではなかった(OR 2.65 [0.90-9.72];p = 0.0774)。
- 嚥下障害スクリーニングとSAPとの関連を認めなかった(OR 1.58 [0.60-4.15];p = 0.36)。
- 3件の研究で早期嚥下障害スクリーニング(EDS)のSAP発症への効果が分析された。
以下のようなそれぞれの研究結果が得られた。- STの勤務時間外に24時間365日の嚥下障害スクリーニングを行うと、嚥下障害スクリーニングまでの時間の中央値が、20時間から7時間に有意に短縮された(p = 0.001)。
- 入院から24時間以内のEDSはSAPのリスク低下と独立して関連していた(OR 0.68 [0.52-0.89])。
- スクリーニングの遅れが最も長かった患者は、第一四分位の患者と比較してSAP発症のオッズが36%高くなっていた。
- 専門家による嚥下評価についての情報は限られていた。
以下のようなそれぞれの研究結果が得られた。- STによる評価の遅れとSAP発症率との間に強い独立した関係があった。STによる評価の遅れは、最初の24時間の間に3%のSAPリスクの絶対的増加と関連し、24時間を超えるとさらに4%のSAPリスクの絶対的増加と関連していた。
- 急性期脳卒中における誤嚥のスクリーニングに嚥下造影検査(VF)をルーチンに行うことを正当化するエビデンスを見いだせなかった。
- 代替栄養は、SAPに関連してデータが分析された唯一の管理戦略であった。以下のような研究結果が得られた。
- 経管栄養をされた嚥下障害患者は、経管栄養されていない嚥下障害患者と比較して、院内肺炎のリスクが高く、抗菌薬による治療が必要となった。しかし、交絡変数を調整した後の経管栄養と肺炎との関連は統計的に有意ではなかった(OR 2.2 [0.89-5.5];p = 0.087)。
- 含まれた研究間には著しい不均一性があり、メタアナリシスの対象とはならなかった。
- []内は95%信頼区間。
結論:
早期の嚥下障害スクリーニングと専門家による嚥下評価が、SAPの発症率を低下させるのに役立つというエビデンスが増えてきている。
評価方法や管理因子(経管栄養など)の多様性がSAPと関連している可能性がある。急性期におけるSAP発症に寄与するこれらの多様性やその他の交絡因子の影響については、さらなる研究が必要である。