「イソジン(ポビドンヨード)うがいが新型コロナウイルス感染症の重症化を防げる効果がある」と、某知事が記者会見で発表し、話題になっています。
果たして本当なのでしょうか。
ポビドンヨードのCOVID-19に対する効果
今回の発表の根拠となっている研究は、「新型コロナウイルス陽性の軽症患者41人に対し、「ポビドンヨード」の成分を含むうがい薬で1日4回のうがいを実施したところ、唾液中のウイルスの陽性頻度が低下した」というもののようです。
この研究はまだ査読(第三者のチェック)を受けて論文として発表されたものではないようですし、陽性率を低下させただけで、予防できるとか重症化を防ぐということは一切示されていません。
また、この研究とは別の研究(論文となっている報告)を見てみても、ポビドンヨードうがいで新型コロナ感染症が治るとか、予防できると言えるような科学的根拠は今のところ見当たりません。
ですので、妄信的にポビドンヨードに飛びつくのはよくありません。
風邪(上気道感染症)にうがいは効果あるか
では、もう少し一般的な話に目を向けてみましょう。
新型コロナ感染症は上気道(鼻やのど)に感染を起こす上気道感染症です。平たい言葉で言えば風邪ということです。(注:「風邪」という言葉は非常に広い概念で、使う人やシチュエーションによって定義があいまいな部分もあります)
風邪(上気道感染症)の予防にうがいは効果があるのでしょうか。
下に示した論文は、ランダム化比較試験といって、健康な人を対象にランダムに水うがいをする人・ポビドンヨードうがいをする人・うがいをしない人の3つのグループに分けて、風邪を予防できるか調べたものです。
その結果、水うがいはうがいをしないのと比べて風邪予防に効果があり、風邪の発症が4割ほど減少しました。一方、ポビドンヨードうがいは、うがいをしないのと比べてあきかな差がなく効果は認められませんでした。
ポビドンヨードは悪者のウイルスや細菌に対する殺菌効果はありますが、一方で口の中に住み着いている常在細菌叢もやっつけてしまうため、口の中が丸裸の状態になってしまい、かえって感染しやすくなるのではないかという説もあります。
うがいをするなら水で十分ですし、それ以上に三つの密を避けたり、手洗いをしたほうが効果的だと思います。
今回参考にした論文は、
Satomura K, et al. Prevention of upper respiratory tract infections by gargling: a randomized trial. Am J Prev Med. 2005; 29(4): 302-307.
doi: 10.1016/j.amepre.2005.06.013
です。
Research Question:
うがいが上気道感染症の予防に効果があるか。
方法:
デザイン:
ランダム化比較試験(intention-to-treat解析)
対象者:
健康なボランティア 387名(年齢:18歳から65歳)
割り付け:
(1)水うがい、(2)ポビドンヨードうがい、(3)うがいなし(対照)
の3群に無作為に割り付けた。
(1)、(2)の被検者は水あるいはポビドンヨードで1日に少なくとも3回
うがいするように求められた。
追跡期間:
60日間
主要評価項目:
上気道炎の初回発症率
副次的評価項目:
上気道炎の重症度
結果:
- 合計130人の参加者が上気道感染症になった。
- 上気道感染症の初回発症率は以下の通り。
- 対照群:0.26エピソード/30人日
- 水うがい群:0.17エピソード/30人日
- ポビドンヨードうがい群:0.24エピソード/30人日
- 対照群に対する発症率比は以下の通り。
- 水うがい群:0.64 [0.41-0.99]
- ポビドンヨードうがい群:0.89 [0.60-1.33]
- Cox比例ハザードモデルにより,水うがいの有効性が明らかになった(ハザード比:0.60 [0.39-0.95])。
- すでに上気道感染症を発症した場合でも、水うがいは気管支症状を軽減する傾向があった(p=0.055)。
- []内は95%信頼区間。
結論:
健康な人の上気道感染症予防には、シンプルな水うがいが有効であった。
★お茶のうがいについての記事も追加しました↓
★追加:風邪に対するうがいの効果について〜緑茶はどうなの?〜 | 耳鼻咽喉科医の独り言
昨日、イソジンうがいと水うがいのどちらが風邪予防に効果があるかについて書きました。 イソジンは風邪予防に効果はなく、 水うがいのほうが予防効果がある ことを紹介しました。 その話題を外来のスタッフと話をしていたら、 「先生、お茶でうがいをしたほうがいいって聞いたことありますがどうなんですか?」 と聞かれました。……
「新型コロナ感染症は上気道(鼻やのど)に感染を起こす上気道感染症です」の認識はあやまりです。
新型コロナウイルスは、受容体と考えられている『ACE2』に結合し、ヒトの細胞へ侵入します。ACE2は肺だけでなく、体のさまざまな細胞に発現していますが、『唾液腺』にもかなり存在することが大掛かりなデータベースで判明しています。つまり、『唾液腺』にコロナがまず感染し、『唾液腺』から分泌した唾液を介して体内に拡散している可能性があるのです。
※唾液・唾液腺によるウイルス防御機構(日本医師会 COVID-19有識者会議)
https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/2170
大阪府の研究は「唾液腺」に着目した研究です。
ご指摘ありがとうございます。
仰るようにACE2受容体を介してウイルスが取り込まれますから、唾液腺にもコロナウイルスが感染していると思われますし、感染の重要な起点となっているかもしれません。
私は「上気道」とは粘膜だけでなく唾液腺も含めた概念と理解していますので、広義の「上気道感染症」と認識しています。唾液の分泌されない上気道は考えられないからです。もちろん、COVID-19は下気道感染症もひきおこし重症肺炎となることも存じております。
唾液腺に着目した大阪府の研究には大変興味をもって、期待しているところです。