小さい頃、風邪をひくと母が、胸にスーッとする薬を塗ってくれた記憶があります。
メンソールのスーッとする感じが心地よく、あれを塗ると何か鼻の通りが良くなったり、のどの痛みが良くなったりするような気がしたものです。
そもそも風邪に対する特効薬はありませんから、症状を緩和させるのが風邪薬の目的なわけですが、では、胸に塗るこのスーッとする薬は、果たして風邪の症状を和らげる効果はあるのでしょうか。
ヴェポラッブって何でできている?
あのスーッとする軟膏はヴェポラッブといいます。実は、このブログを書くまで、「ヴェポラップ」だと思っていましたが、半濁点ではなく濁点で「ヴェポラッブ」が正しいようです。英語だと、Vapor RubとかVapoRubと言います。
ヴェポラッブは、カンフル(樟脳)、メントール、ユーカリのオイルを組み合わせた軟膏で、風邪症状を和らげる目的で、100年以上前から使用されています。
ヴェポラッブの効果は?
下に示した論文は、ヴェポラッブが風邪の症状(咳、鼻づまり、睡眠障害)を和らげるかどうかを調べた研究です。ヴェポラッブとワセリンと無治療の3つを比べました。
この研究の限界というか難しいところは、盲検化(研究に参加した患者や治療する医師が、どの薬を使っているか分からないようにすること)が完全にできないところです。
無治療の人は何も胸に塗らないわけですから、無治療だということが分かってしまいます。そうなると、「効果がないだろうな」という思いが働きます。
一方、ヴェポラッブはスーッとする香りがしますから、香りのないワセリンと区別がついてしまいます。スーッとする香りがすれば、「これは効果がありそうだ」という思いが働きます。
このように盲検化できないと、純粋な薬の効能を評価しづらくなります。この研究ではそれが少しでもなくなるように、アンケートに答えてもらう保護者でヴェポラッブとワセリンに当たった人には、子供に軟膏を塗る前に、ヴェポラッブを鼻の下に塗ってもらい、子供にヴェポラッブを塗っているのかワセリンを塗っているのか分かりづらくしたそうです。鼻の下にヴェポラッブは結構きつそう〜〜!
その結果、ヴェポラッブは咳や鼻づまり、睡眠障害のいずれの症状も和らげる効果があったそうです。特に睡眠障害が和らいだという結果でした。
一方、ヴェポラッブは少し刺激性が強かったというマイナスの面もみられました。
研究の限界もありますが、私の意見ではヴェポラッブは悪くないのではないかと思っています。参考になさってみてください。
今回参考にした論文は、
Paul IM, et al. Vapor rub, petrolatum, and no treatment for children with nocturnal cough and cold symptoms. Pediatrics. 2010; 126(6): 1092-1099.
doi: 10.1542/peds.2010-1601
です。
Research Question:
上気道感染症による夜間の咳嗽、鼻閉、睡眠障害に対して、ヴェポラッブ(VR)またはワセリンの単回塗布が無治療よりも優れているかどうかを検討する。
方法:
デザイン:
部分的二重盲検ランダム化比較試験
対象:
2008年10月から2010年2月まで
中等度以上の上気道感染症症状が7日以上持続する2~11歳の患者
(前夜にVRを含め投薬がされていない患者)
割り付け:
(1)2日連続で、就寝前にVR軟膏を小児の胸頸部に塗布
(2)2日連続で、就寝前にワセリンを小児の胸頸部に塗布
(3)対照:無治療
の3群に層別ランダム割り付け(2~5 歳と 6~11 歳に層別化)
調査法:
保護者に対するアンケート調査(7ポイントのリッカート尺度)
評価項目:
上気道感染症の症状(夜間の咳嗽、鼻閉、睡眠障害)の改善
結果:
- 2~11歳の小児138人が研究にエントリーされた。
- 平均年齢は5.8±2.8歳。51.4%が女性で、85.5%が両親が白人であった。
- 各群いずれも、2日目の夜に症状が改善した。
- 咳、鼻閉、睡眠障害に関連するアウトカムの改善に、群間の有意差が認められ、VRが一貫して最も良いスコアを示し、対照群(無治療)が最も悪いスコアを示した。
- ペアワイズ比較の結果は以下の通り。
- 鼻汁を除くすべてのアウトカムについて、VRが対照群(無治療)と比較して効果があったことが示された。
- 咳の重症度、子供と親の睡眠障害、および複合症状スコアについて、VRがワセリンと比較して効果があったことが示された。
- どのアウトカムにおいても、ワセリンは対照群(無治療)と比較して有意な効果は見られなかった。
- 刺激性の副作用は、VR治療を受けた参加者でより多くみられた。
結論:
保護者の評価によりVR塗布、ワセリン塗布、無治療を比較した結果、上気道感染による子供の夜間咳嗽、鼻閉、睡眠障害の症状緩和について、VRが最も評価が高かった。副作用として軽い刺激性が認められたが、VRは子どもの症状を緩和し、子どもとその保護者はより安らかな夜を過ごすことができた。