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★年間4000人超!食物窒息死−その主犯は正月の風物詩!

 今日で2022年も終わりになります。久しぶりに行動制限のない年末年始ということで、帰省先の実家で過ごされる方も多いのではないでしょうか。

 正月の風物詩の一つに餅つきがあります。つきたてのやわらかい餅を食べたり、焼き餅、お雑煮、おしるこなど、いろいろな餅の食べ方があり、美味しいですよね。

 ただし、餅を食べるときには注意が必要です。

意外と狭いのどの通り道

 餅はねっとりしているが故に、のどにくっつきやすい食べ物です。うまく飲み込めないと、のどにとどまって窒息してしまいます。

 こちらのツイートにも書かれていますように、私達ののどの空気の通り道(声門)思っている以上に狭いのです。大きく見積もっても2cm四方ですから、親指の先ほどしかありません。

 ですから、切り餅を1/8大に刻んでもなお、空気の通り道を塞いでしまうことになります。

日本の食物窒息事故ワースト3は、三が日!

 下に示した論文は、日本の過去10年間の政府統計(人口動態統計)を用いて、食物による窒息事故死の件数を調べた研究です。

 それによると、食物による窒息事故死が起きやすい日のワースト3は、

  • 1位1月1日
  • 2位1月2日
  • 3位1月3日

という結果でした。窒息事故死は年間平均4,000件起こっているのですが、三が日のたった3日間だけでおよそ190名も起こっているそうです(一番下にグラフがあります)。

 このことからも日本における食物窒息事故は餅が主な原因となっていることがわかります。

 年齢別にみると高齢者が多いですが、近年は餅による窒息事故に対する啓発が進んだおかげか、少しずつ減ってきているようです。また、餅の消費量が減ってきているのも影響しているかもしれません。

 都道府県別では、窒息事故死の多い県第1位は新潟県だそうです。なぜ新潟県が多いのかについて、この論文の中で考察されていましたが、餅の消費量が多い(全国8位)ことと、救急車の到着までの時間が長い(全国41位)ことが関連しているかもしれないとのことでした。全体の傾向としては、米どころの雪国に窒息事故死が多いようです。

つまらないような餅の食べ方

 ではできるだけつまらないようにするには、どうしたらよいでしょうか。

  • 餅はできるだけ小さく刻む
  • 餅はよく噛んで食べる。
  • 餅は汁物と一緒に食べる(お雑煮やおしるこなど。汁のおかげでつるんとして、のどごしが良くなります)。
  • 餅は一人で食べない(万が一詰まってもすぐに対処ができるように)。

 特に、小さいお子さんお年寄りは、のどに詰まらせやすいので、よく注意をしてください。

 詰まりにくいように餅を調理する工夫もありますので、参考になさってください。

もし詰まったらどうする?

 万が一、詰まってしまったらどうしたらいいのでしょうか。

★まずは、119番へ電話をしましょう。時間との勝負です。

★その上で、以下のリンクにあるような対処法を試みてください。

https://eonet.jp/health/article/_4101518.html

今回参考にした論文は、
Taniguchi Y, et al. Epidemiology of food choking deaths in Japan: Time trends and regional variations. J Epidemiol. 2020. Epub ahead of print.
doi: 10.2188/jea.JE20200057.
です。

Research Question:

 日本における食品窒息死の全国的な疫学を調査する。

方法:

 デザイン:
  観察研究
 対象:
  2006年〜2016年までの日本の人口動態統計の死亡データを調査
 調査内容:
  国際疾病分類コードW79(気道閉塞を引き起こす食物の吸入・摂取)との一次診断に基づいて
  食物窒息死亡を同定した。
  食物窒息死亡者の人口動態、食物窒息死亡者の年齢(全体および年齢階級別)、
  年別、日別の時間的傾向を評価した。
  標準化死亡率(SMR)を算出することにより、都道府県間の地域差を評価した。

結果:

  • 調査全体では52,366人の食物窒息死が同定された。
  • 年齢中央値は82歳(四分位範囲:74~89歳)であり、男性は53%であった。また、自宅での発生率は57%であった。
  • 発生件数が最も多かったのは1月1~3日で、最も少なかったのは6月であった。
    1月1日が最も多く、次いで1月2日、1月3日となっており、それぞれ10年間の累積で782人、611人、502人であった(下図)。
  • 年ごとの総症例数は年間約4,000件と安定していたが、75~84歳においては2006年から2016年にかけて人口10万人あたりの発症は16.2人から12.1人に減少した。また、85歳以上においては、2008年に人口10万人あたり53.5人でピークを迎え、2016年には43.6人に減少した。
  • SMRにより評価した食物窒息死の発生数は都道府県によってばらつきがあり、最も高いのは新潟県(1.38)、最も低いのは京都府(0.60)であった。
引用論文より

結論:

 日本では食物窒息死の発生件数に時間的・地域的なばらつきがあり、特に年末年始の餅の消費が原因である可能性がある。

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