日本人の食卓に良く並ぶ料理といえば、魚料理ですね。焼き魚、煮魚、刺身などいろいろありますね。春の初鰹、秋の秋刀魚、冬のブリなど思い出しただけでよだれが出てきます。
しかし、魚を食べるときには気をつけねばならないことがあります。そう、骨です。油断してパクパク食べていると、「イテテ」となって、のどに骨が刺さることがあります。
ご飯の丸呑みはウソ?
骨が刺さったら、何度もごっくんごっくんとしてみても、なかなか痛みが取れずあわててしまいますよね。
よく、「ご飯を丸呑みすればよい」と言われますが、これは間違いです。運良くご飯がひっかかって骨が抜けてくれればいいのですが、逆にご飯で骨を奥へ押し込んでしまうことがあるからです。
まずは、何度かツバを飲み込んでみる、あるいはうがいをしてみるのが良いでしょう。
またそのままにしておいても自然と取れてくる場合もありますので、まずは様子を見ましょう。
良くならなければ病院へ
そして翌日になっても症状が無くならなければ、ぜひ病院を受診してください。
骨はたいていはのどに刺さっていることが多いですので、まずは耳鼻咽喉科を受診してください。そしてのどにない場合には、食道に刺さっている場合がありますので、消化器科で調べることになります。
長い間、骨が刺さった状態が続くと、膿んでしまうこともありますし、どんどん奥へ入ってしまい、周りの臓器に影響を与える場合もあります。
様子を見てものどのチクチクが取れなければ、病院を受診してください。
下に紹介した論文は、のどや食道の魚骨異物について総括した論文です。
中には料理法によって何が刺さりやすいかを調べている研究もあり、煮魚やスープが刺さりやすいのだそうです。ちょっとおもしろいですね。
今回参考にした論文は、
Kim HU. Oroesophageal Fish Bone Foreign Body. Clin Endosc. 2016; 49(4): 318–326.
doi: 10.5946/ce.2016.087
です。
概要:
魚骨の咽頭・食道異物についてレビューする。
はじめに
- 気道および食道の異物は、気管気管支、口腔咽頭、食道などに認められる異物である。
- 患者の90%では実際に異物を認めるが、残りの10%の患者では食道を通過してしまう。
- ある報告では、異物のうち咽頭・食道にある症例は86.2%、気管・気管支にある症例は13.7%であった。
- 魚骨異物(FFB)は、肉食中心の欧米諸国に対して、魚を多く食べるアジアでは最も頻度の高い食物関連異物である。
- FFBは、自然に消失する軽症から重症致死的な疾患まで、臨床症状は多岐にわたる。
疫学
- 成人の咽頭・気管食道異物は、高齢者、精神疾患のある人、発達障害のある人、酩酊状態にある人、二次的な利得を求める囚人などに多く見られる。
- 多くの報告では男性が多いことが示されているが、女性が多いという報告もある。
発生部位
- 咽喉頭のFFBは若年者に多く、食道のFFBは主に40歳以上の患者でみられることが報告されている。
- 40歳以上で食道FFBが急激に増加する理由は、加齢に伴い嚥下運動や食道生理機能の悪化が関係しているのではないかといわれている。
- FFBが頻繁に発生する部位は、口蓋扁桃、舌根部、喉頭蓋谷、梨状陥凹であり、口蓋扁桃は最も一般的な部位である。
- 穿孔、閉塞など食道FFBの主な合併症は、通常、狭窄のある部位で発生する。食道には、上部食道括約筋、大動脈弓または左主気管支の高さ、下部食道括約筋の3つの生理的狭窄部位がある。 上部食道括約筋は食道FFBの最も一般的な発生部位である。
- ある報告では、扁平または多角形のFFBは食道にとどまる傾向があるのに対し、直線状の骨は咽頭に留まる傾向にあった。
魚の種類
- FFB患者の多くは、食べた魚の種類を思い出せなかった。原因となる魚は地域や文化によって異なる。
- 魚の調理法についての調査では、食道FFBは魚の煮込み料理が最も多く、次いで焼き魚、蒸し魚、生魚の順であった。別の調査では、シチューを含むスープレシピが最も一般的であることが示されたが、これは魚の種類に依存するかもしれない。
症状
- FFBの診断は、患者の食事歴と症状に基づいて行われる。身体診察で患者の全身状態を評価し、合併症の徴候を評価する必要がある。
- FFBの症状は、異物感、咽頭痛、嚥下困難、のどの臭い、胸背部痛、嘔気、嘔吐である。異物感および限局性の疼痛は、FFBの初期の主な症状のことが多い。
- 異物感の部位は、多くの場合、異物の部位と相関しない。患者は、異物が上部食道またはそれより上に留まっていれば、正しい部位を特定することができる。しかし、これより下では症状が曖昧になり、部位の特定が困難になる。
- 合併症を発症した後には、頸部の腫脹・きしみ音、吐血、嚥下困難、呼吸困難、発熱、胸痛・腰痛などの重篤で全身的な症状が認められる。
- 異物感を訴える患者に対して、内視鏡的に異物が見つからない場合、CTが良い代替手段となり得る。異物感を訴える患者のCTで異物が検出されなかった場合、CTは陰性的中率が高い(最大97%)。
放射線学的評価
- レントゲン写真(Xp)でFFBを識別することは困難であり、FFBの検出感度は32%しかなく、偽陰性率は47%と高いと報告されている。
- 2方向Xpは有用である。頸部正面XpではFFBはほとんど検出されないが、頸部側面Xpは口腔咽頭および上部食道FFBの検出に適している。
- CTは異物の局在・同定には通常のXpよりも優れており、食道内の異物の局在には信頼性が高い。CTは高い感度(90%~100%)と特異度(93.7%~100%)を有している。CTの感度は、三次元再構成で高くなる可能性がある。CTの陽性的中率は75%、陰性的中率は97%である。
- CTは、FFBに関連する合併症を検出したり予測するために不可欠な診断モダリティである。
初期評価と治療のタイミング
- 気道や食道異物の80%以上は特別介入しなくても通過してしまうが、食道異物は内腔が狭く壁が薄いため圧力や穿孔力に弱く、心臓や血管、肺など主要臓器の中心に位置し、胃よりも内視鏡検査でアクセスしやすく、閉塞して誤嚥する可能性が高いため、食道異物は胃異物よりも緊急に治療すべきである。
- 治療が遅れると摘出成功の可能性が低下し、合併症のリスクが高まるため、食道異物は24時間以内に摘出すべきであると報告されている。FFBは、治療が24時間を超えて遅れると重篤な合併症のリスクが高くなり、他の異物と比較して出血の頻度が高い。
治療法
- 頸部の異物感を訴える患者の初期評価は、舌圧子とペンライトを用いた口腔内診察からはじめる。
- 次のステップでは軟性内視鏡検査または硬性内視鏡検査による咽喉頭の診察が行われる。
- 咽喉頭の軟性内視鏡検査は穿孔のリスクが低く成功率が高いが、硬性内視鏡検査は上部食道括約筋や下咽頭にある異物には有用である。
- 上部消化管内視鏡は広く普及しており、咽頭食道FFBの治療法の一つとなっている。内視鏡医は上部食道括約筋に入る前に口腔咽頭粘膜を注意深く評価すべきである。
- 開放性の穿孔、膿瘍形成、粘膜の深部へ異物が入り込んでいる場合、制御不能な出血や感染、隣接臓器の損傷などがある場合には、外科的治療が適応となる。
- FFBは、消化管の粘膜や壁を貫通する鋭い異物である。食道壁は小さな線状のFFBによって貫通することがあるが、貫通した穴はFFB自体によって閉鎖されていることがあるため、初期の段階では有意な空気や液体の漏出はほとんど起こらない。この場合、短期的に抗菌薬を予防的に使用することができる。しかし、重度の穿孔、裂傷、膿の排出がある場合は、縦隔膜炎として管理すべきである。
合併症
- 重篤な合併症は子供よりも大人の方が多い。
- FFBでは、咽頭食道壁の穿孔と裂傷が誘因となる。FFBでは、食道貫通または穿孔は症例の50%以上で起こると報告されており、その後、感染症や隣接臓器の損傷が発生することがある。
- 合併症のリスクは、異物の停留時間が長い(24時間以上)、骨の種類、および骨の長さが長い(3cm以上)ほど増加する。
- 咽頭FFBでは、深頸部膿瘍、硬膜外膿瘍、咽頭後壁の血腫が主な合併症であり、FFBは頸部の軟部組織を通って皮膚に移行することもある。
- 食道FFBでは、食道解離や壁内血腫、膿瘍形成の可能性がある。
- FFBが食道壁を貫通して気道に侵入すると、気管食道瘻、再発性肺炎、肺膿瘍、膿胸、または気胸を発症することがある。FFBが食道壁を完全に穿通した場合の最も一般的な合併症は、縦隔炎と膿瘍形成である。FFBが心臓まで達すると、心膜炎 、心タンポナーデ、感染性心内膜炎、および全身性空気塞栓症が発生する可能性がある。
- 食道の第二の生理的狭窄部位には大動脈が隣接しているので、鋭利なFBBが貫通すると偽動脈瘤または大動脈食道瘻が発生する可能性がある。大動脈食道瘻は食道におけるFFBの最も重篤な合併症である。