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★耳鳴りは朝の血圧急上昇のサイン?高血圧患者266人の研究が示したこと

耳鳴りと血圧——よく聞く組み合わせですが、何が本当のところなのでしょうか?

「キーン」「ジー」という音が耳の中で鳴り続ける耳鳴り。成人の約10〜15%が経験するとされており、加齢とともに増える傾向があります。

 原因はさまざまですが、血管や循環に関わる要因——とりわけ高血圧——との関連は以前から指摘されてきました。しかし、これまでの研究では「高血圧があると耳鳴りが起きやすい」という結果と「特に関係がない」という結果が混在しており、はっきりした結論が出ていませんでした。

 そうした中、トルコの研究チームが朝の血圧急上昇(Morning Blood Pressure Surge: MBPS)という指標に着目した研究を発表しました。通常の血圧値ではなく、朝に血圧がどれだけ急激に上がるかに注目したことが、この研究の特徴です。

「朝の血圧急上昇」とは何か、なぜ耳に関係するのでしょうか?

 血圧は一日を通じて変化しており、睡眠中は低く、目が覚めた後に急激に上昇するのが一般的です。この朝の急上昇をMBPS(Morning Blood Pressure Surge)といいます。MBPSは「目覚めてから2時間の平均収縮期血圧」から「睡眠中の最低収縮期血圧3回分の平均」を引いた値で算出されます。

 MBPSが大きいほど、早朝の交感神経(身体を緊張・活動状態にする神経)の活性化や動脈硬化の程度を反映していると考えられています。動脈が硬くなると、内耳(蝸牛)を栄養する細い血管への血流が乱れやすくなります。内耳は非常に血流変化に敏感な器官であり、この乱れが耳鳴りの一因になる可能性があります。また、頸動脈(首の太い動脈)での血流が乱流になると、それ自体が耳鳴りの原因となることもあります。

 こうした仕組みをもとに、研究チームはMBPSと耳鳴りの間に関連があるのではないかと考えて検討しました。

高血圧患者266人を対象とした研究の内容

 本研究は、トルコのアダナ市立病院で2021年4〜9月に行われた横断研究(ある時点での状態を比較する研究)です。高血圧と診断されている成人患者266人を対象として、3カ月以上続く耳鳴りのある患者86人と、耳鳴りのない患者180人を比較しました。

 血圧の測定は、診察室での測定(複数回の平均)に加えて、携帯型の装置を使った24時間の血圧モニタリング(ABPM)が全員に行われました。MBPSはこの24時間データをもとに算出されています。耳鳴りの重症度は「Tinnitus Handicap Inventory(THI)」という標準化された問診票で評価されました。

 耳の病気や難聴の既往がある患者、高血圧と診断される前から耳鳴りがあった患者、コントロール不良の高血圧や臓器障害がある患者は分析から除外されており、高血圧患者の中での比較に絞った点が研究の強みの一つです。

MBPSが高い患者ほど耳鳴りが重い傾向が示された

 最も注目すべき結果は、耳鳴りのある患者グループでMBPSが有意に高かったことです。耳鳴りグループのMBPSは平均35±9 mmHgであったのに対し、耳鳴りのないグループは26±11 mmHgで、明確な差が確認されました。

 一方、診察室での収縮期血圧や24時間平均血圧は、耳鳴りのあるグループのほうがむしろ低い傾向にありました。つまり、「普段の血圧が高いかどうか」ではなく、「朝に血圧がどれだけ急上昇するか」という変動パターンの方が、耳鳴りとより密接に関連していたことになります。

 さらに、THIで評価した耳鳴りの重症度が「軽度」から「重度」「破滅的」へと増すにつれ、MBPSも段階的に高くなることが確認されました。つまり、MBPSが高いほど耳鳴りが重い傾向があることが示されたのです。

 年齢や収縮期血圧、喫煙など複数の要因を統計的に調整した多変量解析でも、MBPSは耳鳴りの独立した予測因子として特定されました(オッズ比1.15、95%信頼区間1.08〜1.23)。同様に、収縮期血圧(OR=1.09)と喫煙(OR=3.54)も独立した予測因子として示されました。

 また、MBPS>28 mmHgというカットオフ値は、耳鳴りを感度73.3%・特異度68.3%(AUC=0.742)で識別できることが示されました。これは収縮期血圧(AUC=0.573)や拡張期血圧(AUC=0.512)、24時間収縮期血圧(AUC=0.587)といった他の血圧指標よりも優れた予測精度でした。

 ただし、この研究は横断研究であるため、MBPSの上昇が耳鳴りの「原因」であるかどうかは断定できません。耳鳴りに伴うストレスが交感神経を高め、結果的にMBPSを引き上げる「双方向の関係」も否定できないと著者らは述べています。また、睡眠障害や心理的要因などの影響も排除できていない点には注意が必要です。

 高血圧で治療中の方が耳鳴りを自覚している場合は、診察室での血圧だけでなく、24時間血圧モニタリングを含めた詳しい評価について、担当医や耳鼻咽喉科専門医にご相談されることをお勧めします。

まとめ

 高血圧患者266人を対象とした研究で、朝の血圧急上昇(MBPS)が耳鳴りの重症度と関連しており、他の血圧指標よりも優れた耳鳴り予測因子となることが示されました。耳鳴りが気になる方は、耳鼻咽喉科専門医への相談をお勧めします。

今回参考にした論文は、
Kucukcan NE, et al. Association Between Morning Blood Pressure Surge and Tinnitus in Hypertensive Patients: A Cross-Sectional Study. Medicina (Kaunas). 2026;62(3):509. Published 2026 Mar 10.
doi:10.3390/medicina62030509
です。

Research Question:

 高血圧患者において、朝の血圧急上昇(MBPS)は耳鳴りの有無および重症度(THI)と関連しているか。また、MBPSは他の血圧パラメータよりも耳鳴り予測において優れた指標となるか。

Methods:

  • デザイン: 横断研究(単一施設)
  • サンプル: n=266(耳鳴りあり86名、なし180名; トルコ・アダナ市立病院; 成人高血圧患者; 2021年4〜9月)
  • 主要アウトカム: 耳鳴りの有無(耳鳴り定義: 3カ月以上持続)、重症度(Tinnitus Handicap Inventory; THI); MBPSは24時間ABPM(起床後2時間の平均SBP-睡眠中最低SBP3回平均)
  • 解析: ロジスティック回帰(単変量・多変量)、Boruta特徴選択法(調整因子同定)、ROC曲線解析(DeLong法によるAUC比較)、5-fold交差検証ROC。調整因子: 年齢・SBP・MBPS・喫煙・高脂血症・飲酒・ヘモグロビン・尿素・利尿薬使用

Results:

  • MBPS: 耳鳴りあり 35±9 vs なし 26±11 mmHg(p<0.001);耳鳴りグループでは診察室SBP・24h SBPがむしろ低値(SBP 136±13 vs 141±18 mmHg, p=0.020; 24h SBP 121±7 vs 126±14 mmHg, p<0.001)
  • THI重症度グレードに沿ってMBPSが段階的に上昇(p<0.001)
  • 多変量解析: MBPS(OR=1.15, 95%CI 1.08–1.23, p<0.001)、SBP(OR=1.09, 95%CI 1.03–1.15, p=0.004)、喫煙(OR=3.54, 95%CI 1.09–11.61, p=0.037)、年齢(OR=0.89, 95%CI 0.82–0.96, p=0.003)が独立予測因子
  • MBPS>28 mmHg: 感度73.3%・特異度68.3%・AUC=0.742(95%CI 0.685–0.793, p<0.001)
  • AUC比較(DeLong法; all p<0.001): MBPS 0.742 > SBP 0.573 ≒ 24h SBP 0.587 > DBP 0.512 ≒ 24h DBP 0.516
  • 5-fold交差検証平均AUC: 0.735(95%CI 0.672–0.798)
  • モデル適合: 調整R²=0.59, Harrell’s C=0.907, Brier score=0.086, AIC=122.18

Conclusion & Implication:

  • 著者結論: 高血圧患者における耳鳴りはMBPSと有意に関連しており、MBPSは他の血圧パラメータよりも耳鳴りの予測精度が高い。耳鳴りを訴える高血圧患者の臨床評価においてABPMによる概日血圧モニタリングの有用性が示唆される。
  • 臨床応用ポイント: 横断研究・単施設デザインのため因果関係は不明。MBPSと耳鳴りの関係は双方向性(耳鳴り関連ストレス→交感神経亢進→MBPS上昇)の可能性を排除できない。診察室BPが良好にコントロールされている高血圧患者でも耳鳴りを訴える場合、ABPMでMBPSを評価することが有益な情報を提供し得る。薬剤の投与量・投与タイミングの影響は未評価であり、今後は多施設前向き研究での検証が求められる。

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