のどが激しく痛い、口が開かない、飲み込みができない——こうした症状が急速に悪化してきたとき、扁桃周囲膿瘍(へんとうしゅういのうよう)という疾患が隠れていることがあります。
扁桃炎がこじれて扁桃の周囲に膿がたまる状態で、抗菌薬の内服だけでは治りにくく、入院して処置が必要になることが多い疾患です。
「切開するとき痛いですか?」「何日入院しますか?」——受診した患者さんから必ずといっていいほど聞かれる質問です。この記事では、症状から治療の実際まで、よくある質問をもとに耳鼻咽喉科専門医が解説します。
扁桃周囲膿瘍とは?
みなさんよく「扁桃腺」と呼んでいますが、正式には「扁桃」といい、「腺」の字はつきません。扁桃にもいくつか種類がありますが、口を開けると見えるのは口蓋扁桃です。のどちんこ(口蓋垂)の両側にあるでこぼことした出っ張りがそれです(下の写真・左)。
この口蓋扁桃に細菌やウイルスが感染して炎症が起きると扁桃炎になります。扁桃炎だけでも激しいのどの痛みが生じますが、炎症がさらに悪化して扁桃の周囲に膿がたまると、扁桃周囲膿瘍になります。

写真(右)のように、扁桃の周りに膿がたまってぱんぱんに腫れ、のどちんこが反対側に押しやられているのがわかります(黄色い点線の円の部分)。こうなると、激しいのどの痛みや発熱に加えて「口が開かない(開口障害)」という特徴的な症状が現れます。
どんな症状が出るのか?
扁桃周囲膿瘍の主な症状は以下のとおりです。
- 激しいのどの痛み:普通の扁桃炎より明らかに強く、唾を飲み込むだけでもつらく感じます。
- 高熱:38〜39℃以上の発熱が続くことが多いです。
- 口が開きにくい(開口障害):膿による腫れが周囲の筋肉に影響し、口を大きく開けようとすると痛みが出ます。
- 声がこもる:のどが腫れているため、声がくぐもったように変わることがあります。
- 片側のみの症状:ほとんどの場合、片側だけが腫れます。
これらの症状が数日以内に急速に悪化してきたときは、迷わず耳鼻咽喉科を受診してください。
治療の流れ——入院・点滴・切開処置
扁桃周囲膿瘍と診断されたら、ほとんどの場合、入院して抗菌薬の点滴による治療を行います。軽症であれば点滴だけで改善することもありますが、多くの場合は膿を外に出す処置(ドレナージ)が必要になります。
ドレナージには主に2種類あります。
① 穿刺吸引(せんしきゅういん):太めの注射針を刺して膿を吸い出す方法です。処置室でできます。
② 切開排膿(せっかいはいのう):メスで切開して膿を排出する方法です。膿が大量にたまっているときや穿刺で十分に膿が出なかったときに行います。
処置後は抗菌薬の点滴を続けながら経過をみて、飲食ができるようになれば退院となります。
放置してしまうと、膿が首の奥から胸(縦隔)へと広がる降下性縦隔炎(こうかせいじゅうかくえん)という重篤な合併症を引き起こすことがあります。こうなると胸を開いて膿を排出する手術が必要になり、致死率も上がります。のどや首の膿は、迅速な治療が必要です。
患者さんからよく受ける質問
Q. 切開するとき、痛みはありますか?
切開の前に局所麻酔を注射します。麻酔の注射自体にチクっとした痛みがありますが、切開そのものは麻酔が効いていればほとんど痛みを感じません。ただし、口の中への局所麻酔は皮膚ほど効きにくいことがあり、圧迫感や軽い痛みを感じる方もいます。多くの患者さんが「思ったより大丈夫だった」とおっしゃいますが、怖さを感じるのは当然ですので、不安なことは遠慮なく担当医に聞いてください。
Q. 入院はどのくらい必要ですか?
一般的に3〜7日程度が目安です。炎症の程度や膿の量、体の回復スピードによって異なります。点滴が終わり、自分で飲み込みができるようになれば退院の目安になります。
Q. 食事はいつから食べられますか?
入院直後は炎症と処置の影響でほとんど食べられないことが多いですが、処置後1〜2日でゼリーやプリン、スープなど柔らかいものから少しずつ食べられるようになります。退院のころには、普通食に近いものを食べられる方が多いです。
Q. 切開しなくても治ることはありますか?
軽症の場合、抗菌薬の点滴だけで膿が自然に吸収されて治ることもあります。ただし判断は容易ではなく、放置すると前述の降下性縦隔炎につながるリスクがあります。症状が強い場合や改善が遅い場合は、積極的にドレナージを行うことが重要です。
Q. 完治したあとに扁桃を取る手術が必要ですか?
全員に必要なわけではありません。ただし扁桃炎を何度も繰り返している方や、再発リスクが高いと判断された場合には、口蓋扁桃摘出術(扁桃を取る手術)が選択肢になります。どのような方が再発しやすいかは、次のセクションで詳しく解説します。
扁桃周囲膿瘍が再発しやすいのはどんな人?
下に示した論文は、台湾の3万人近くの扁桃周囲膿瘍になった患者のその後を調査した研究です。
それによると、過去に何度も扁桃炎になったことがある人が扁桃周囲膿瘍になると、一旦落ち着いてもまた再発するリスクが高くなるということが分かりました。
また、年齢が30歳未満の若い人のほうが再発しやすいことも分かりました。
扁桃炎を何回も繰り返す人は、扁桃周囲膿瘍になりやすく再発しやすい状態になっていますから、扁桃を取る手術を行うことも考慮されます。
まとめ
扁桃周囲膿瘍は、早期に適切な治療を受ければ多くの場合きちんと治る病気です。ただし進行が早く、放置すると重篤な合併症につながることもあります。
のどの激しい痛み、高熱、口が開かない——これらの症状が重なったときは、ためらわずに耳鼻咽喉科を受診してください。
【豆知識】
ところで、扁桃の語源は何だと思いますか?
扁桃はアーモンドを漢字であらわしたものなのです。口の中にある扁桃がアーモンドの種に似ていたために名付けられたそうです。


今回参考にした論文は、
Wang YP, et al. The impact of prior tonsillitis and treatment modality on the recurrence of peritonsillar abscess: a nationwide cohort study. PLoS One. 2014; 9(10): e109887.
doi: 10.1371/journal.pone.0109887
です。
Research Question:
扁桃周囲膿瘍の再発を予測する因子は何か。
方法:
デザイン:
後ろ向き症例集積研究
対象:
2001年1月から2009年12月までの間に台湾で扁桃周囲膿瘍を発症した全患者
28,937名(追跡期間は平均4.74年)
(国民健康保険請求データベースから取得)
再発の定義:
扁桃周囲膿瘍初発から30日以上経った後に再度扁桃周囲膿瘍になった
場合に「再発」とした。
解析:
人口統計学的データおよび臨床データを調整した後、
Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。
結果:
- 平均年齢は平均年齢は25.5±18.9歳であり、うち再発した患者は平均13.8±15.6歳であった。
- 19,083人(66.2%)が男性、18,907人(65.6%)が30歳未満、20,150人(69.9%)が扁桃炎の既往があった。
- すべての患者は入院で治療され、ドレナージ処置の有無にかかわらず抗菌薬の静脈内投与が行われた。
- 抗菌薬投与の期間は、平均4.5±4.4日であった。
(膿瘍穿刺吸引処置を受けた場合は4.4±3.2日、膿瘍切開排膿処置を受けた場合は4.2±2.7日、抗菌薬治療のみを受けた場合は4.8±5.8日であった)
- 扁桃周囲膿瘍の再発率は、5.15%であった。年齢別では、30歳未満の患者で6.7%、30歳以上の患者では2.1%であった(p<0.0001)。
- 再発までの平均期間は、1.16±1.28年であった。
- 再発率は、男女間で有意差は見られなかった。(女性:5.4%、男性:5.0%)。
- 扁桃炎の既往のある人は、ない人に比べて有意に再発率が高かった。
- 扁桃炎に5回以上罹患:修正ハザード比(aHR) 2.82 [2.39-3.33]
- 扁桃炎に1-4回罹患:aHR 1.59[1.38-1.82]
- 初回治療については、膿瘍穿刺吸引処置で治療された患者のaHRは、膿瘍切開排膿処置で治療された患者と比較して、1.08 [0.85-1.38]であった。
- 年齢で層別化して解析すると、
- 扁桃炎に5回以上罹患した患者のaHRは、18歳以下で2.92 [2.37-3.61]、19-29歳の患者で3.50 [2.27-5.38]に上昇した。
- 膿瘍穿刺吸引処置で治療された患者のaHRは、18歳以下で1.98 [0.99-3.97]と上昇した。
- 全体として、30歳未満で5回以上扁桃炎を繰り返している患者の再発率は13.70%(325/2,373)であったのに対し、その他の群では4.39%(1,161/26,464)であった(p<0.001)。
- 研究期間中、扁桃摘出術が行われたのは、1.48%であった。
- []内は95%信頼区間。
結論:
扁桃周囲膿瘍の再発リスクは、すべての年齢層で過去の扁桃炎の罹患回数が多いほど高かった。特に、30歳未満で5回以上扁桃炎を繰り返している患者は再発リスクが最も高かった。






