「扁桃腺が腫れました。ご飯も食べられません」
そう言いながら耳鼻咽喉科の外来を受診される患者さんは、けっこう多くおられます。
その多くが咽頭炎や扁桃炎なのですが、中に扁桃周囲膿瘍という病気になっている方がおられます。
扁桃って何?
みなさんよく扁桃腺と呼んでいますが、実は正式には扁桃といって、「腺」の字は付きません。扁桃にもいろいろあるのですが、皆さんが口の中を見たときに見えるのは口蓋扁桃という扁桃です。
【豆知識】
ところで、扁桃の語源は何だと思いますか?
扁桃はアーモンドを漢字であらわしたものなのです。口の中にある扁桃がアーモンドの種に似ていたために名付けられたそうです。
口蓋扁桃は、口を開けたときにのどちんこ(口蓋垂)の両側に見えるでこぼこした出っ張りを言います(下の左側の写真)。人によって元々大きめの人もあれば、小さめの人もあります。
扁桃周囲膿瘍とは?
扁桃に細菌やウイルスがついて炎症をおこしたのが扁桃炎です。
これだけでも、かなりのどが痛くなり大変ですが、扁桃炎がもっと悪化してしまうと、扁桃周囲膿瘍になります。
上の右側の写真にあるように、扁桃の周りに膿がたまってしまい、ぱんぱんに腫れてしまいます(黄色い点線の円の部分)。それに押されてのどちんこが反対側に偏っているのもわかると思います。
このようになってしまうと、症状がもっと強くなり食事も食べられないほどになります。
扁桃周囲膿瘍になった場合、抗菌薬の点滴だけで良くなる場合もありますが、それだけでは治らないことが多く、膿のたまっている場所に針を刺したり、メスで切開したりして、膿を外に出してやらなければならなくなります。
もし膿がたまったままで改善しないと、どんどん悪化して、膿が首の筋肉と筋肉の隙間を伝って、重力に従って胸(縦隔)まで落ちてきてしまいます(降下性縦隔炎)。
こうなると、胸を開いて膿を出さなければならず、致死率も上がってしまい、重篤な病気になってしまいます。
ですから、のどや首に膿がたまったら、迅速な治療・処置が必要になります。
扁桃周囲膿瘍が再発しやすいのはどんな人?
下に示した論文は、台湾の3万人近くの扁桃周囲膿瘍になった患者のその後を調査した研究です。
それによると、過去に何度も扁桃炎になったことがある人が扁桃周囲膿瘍になると、一旦落ち着いてもまた再発するリスクが高くなるということが分かりました。
また、年齢が30歳未満の若い人のほうが再発しやすいことも分かりました。
扁桃炎を何回も繰り返す人は、扁桃周囲膿瘍になりやすく再発しやすい状態になっていますから、扁桃を取る手術を行うことも考慮されます。
のどが痛くて、どんどん悪くなる場合には、扁桃周囲膿瘍のような早く治療や処置が必要な病気が隠れている場合がありますので、耳鼻咽喉科に受診してください。
今回参考にした論文は、
Wang YP, et al. The impact of prior tonsillitis and treatment modality on the recurrence of peritonsillar abscess: a nationwide cohort study. PLoS One. 2014; 9(10): e109887.
doi: 10.1371/journal.pone.0109887
です。
Research Question:
扁桃周囲膿瘍の再発を予測する因子は何か。
方法:
デザイン:
後ろ向き症例集積研究
対象:
2001年1月から2009年12月までの間に台湾で扁桃周囲膿瘍を発症した全患者
28,937名(追跡期間は平均4.74年)
(国民健康保険請求データベースから取得)
再発の定義:
扁桃周囲膿瘍初発から30日以上経った後に再度扁桃周囲膿瘍になった
場合に「再発」とした。
解析:
人口統計学的データおよび臨床データを調整した後、
Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。
結果:
- 平均年齢は平均年齢は25.5±18.9歳であり、うち再発した患者は平均13.8±15.6歳であった。
- 19,083人(66.2%)が男性、18,907人(65.6%)が30歳未満、20,150人(69.9%)が扁桃炎の既往があった。
- すべての患者は入院で治療され、ドレナージ処置の有無にかかわらず抗菌薬の静脈内投与が行われた。
- 抗菌薬投与の期間は、平均4.5±4.4日であった。
(膿瘍穿刺吸引処置を受けた場合は4.4±3.2日、膿瘍切開排膿処置を受けた場合は4.2±2.7日、抗菌薬治療のみを受けた場合は4.8±5.8日であった)
- 扁桃周囲膿瘍の再発率は、5.15%であった。年齢別では、30歳未満の患者で6.7%、30歳以上の患者では2.1%であった(p<0.0001)。
- 再発までの平均期間は、1.16±1.28年であった。
- 再発率は、男女間で有意差は見られなかった。(女性:5.4%、男性:5.0%)。
- 扁桃炎の既往のある人は、ない人に比べて有意に再発率が高かった。
- 扁桃炎に5回以上罹患:修正ハザード比(aHR) 2.82 [2.39-3.33]
- 扁桃炎に1-4回罹患:aHR 1.59[1.38-1.82]
- 初回治療については、膿瘍穿刺吸引処置で治療された患者のaHRは、膿瘍切開排膿処置で治療された患者と比較して、1.08 [0.85-1.38]であった。
- 年齢で層別化して解析すると、
- 扁桃炎に5回以上罹患した患者のaHRは、18歳以下で2.92 [2.37-3.61]、19-29歳の患者で3.50 [2.27-5.38]に上昇した。
- 膿瘍穿刺吸引処置で治療された患者のaHRは、18歳以下で1.98 [0.99-3.97]と上昇した。
- 全体として、30歳未満で5回以上扁桃炎を繰り返している患者の再発率は13.70%(325/2,373)であったのに対し、その他の群では4.39%(1,161/26,464)であった(p<0.001)。
- 研究期間中、扁桃摘出術が行われたのは、1.48%であった。
- []内は95%信頼区間。
結論:
扁桃周囲膿瘍の再発リスクは、すべての年齢層で過去の扁桃炎の罹患回数が多いほど高かった。特に、30歳未満で5回以上扁桃炎を繰り返している患者は再発リスクが最も高かった。