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★【p値の正体:第1回】p値の落とし穴:なぜ「p<0.05」だけで判断してはいけないのか

1. p値の誤用に警鐘!ASAの声明

 医学論文を読んでいると、必ず目にする「統計的に有意(p<0.05)」という言葉。

 でも、このp値の意味を正しく理解していますか?

 実は多くの医療従事者が、p値について誤解したまま論文を読んだり、研究結果を解釈したりしています。例えば、「p値が小さいほど効果が大きい」「p<0.05なら必ず臨床的に意味がある」と思っていませんか?

 2016年、米国統計学会(ASA)は異例ともいえる公式声明を発表し、p値の誤用に警鐘を鳴らしました。

 今回から3回にわたって、この声明で示された6つの原則を通じて、p値との正しい付き合い方を学んでいきましょう。

2. なぜASAは声明を出したのか:p値への過度な依存

 なぜASAはこのような声明を出したのでしょうか。それは、p値への過度な依存が科学研究の健全性を損ねているからです。

「p<0.05なら有意」「p>0.05なら効果なし」という単純な二分法が、重要な研究結果を埋もれさせたり、再現性のない研究を生み出したりしています。

 実際、多くの医学雑誌で「統計的有意差がない研究は掲載しない」という傾向があり、これが「ファイルドロワー効果」(File-Drawer Effect)と呼ばれる問題を引き起こしています。有意な結果だけが発表され、そうでない結果は引き出しにしまわれてしまうのです。

 特に医学研究では、患者さんの治療に直結する判断にp値が使われることも多く、その誤用は深刻な問題となっています。ASAの事務局長は「p値は科学的推論の代用品になるものではない」と述べ、研究者に「p値の次の時代」を切り開くよう促しました。

 統計的有意性は科学的・臨床的意義とイコールではありません。この違いを理解することが、質の高い医療を提供する第一歩となるのです。

3. 原則の解説

【原則1】p値は「データと仮説のズレ」を示す指標

 まず、p値とは何かを正しく理解しましょう。

 p値はもし帰無仮説(差がない、効果がないという仮説)が正しいとしたら、今回のような結果が得られる確率」を表します。

 例えば、新薬の嘔吐予防効果を調べた試験で、プラセボ群100人中60人が嘔吐し、新薬群では45人だったとします。この結果のp値が0.03だった場合、「もし新薬に効果がなかったとしたら、15人もの差が偶然生じる確率は3%しかない」という意味です。

 つまり、p値は仮説とデータがどれくらい食い違っているかを示す指標に過ぎません。小さいp値は「仮説では説明しにくいデータ」を意味しますが、それ以上でも以下でもないのです。

 p値は「仮説を前提とした確率」であることを忘れないでください。

【原則2】p値は「仮説が正しい確率」ではない

 これは最もよくある誤解です。

 p=0.03だからといって、「薬が無効である確率は3%」や「今回の結果が偶然だった可能性は3%」という解釈は間違いです。

 これは、診断検査に例えると分かりやすいでしょう。

 ある検査で「健康な人が陽性になる確率(偽陽性率)」が5%だとします。では、「検査陽性の人が実際に健康である確率」は5%でしょうか?違いますよね。それは病気の有病率や検査の感度によって変わります。

 同じように、p値は「仮説が正しいと仮定した場合のデータの確率」であって、「データが得られた今、仮説が正しい確率」ではありません。

 この違いを理解することは、研究結果を正しく解釈するために不可欠です。p値から直接、治療効果がある確率を読み取ることはできないのです。

4. まとめ

 今回は、ASAが示した6つの原則のうち、最初の2つを見てきました。

 p値は統計解析の重要なツールですが、その意味を正しく理解しないと誤った判断につながります。

 次回は、「p値の閾値だけで判断することの危険性」と「完全な報告の重要性」について詳しく解説します。正しい統計の知識を身につけて、より良い医療を提供していきましょう。

参考文献

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