2024年1月1日、お正月気分の私たちの前に突然やってきた能登半島地震は、私たちの生活に大きな影響を与えました。
富山県も震度5強でしたが、私は病院で救急当番をしており、医局のデスクに座っていました。突然の大きな揺れにより座っていられなくなり、本棚からバタバタと落ちてくる本を避けるために机の下にもぐり、難を逃れました。
この地震により、多くの人が心と体の不調を感じています。この記事では、特に地震の後に起こるめまいについて、その原因と対応方法を紹介します。
地震後めまい症候群って何?
大きな地震が起きた後、実際には地震が起きていないにもかかわらず、体が揺れているように感じることがあります。これを地震後めまい症候群といいます。ちょうど車酔いや船酔いに似ているので俗に地震酔いとも言われています。
一般的に、めまいがひき起こる時には、3つの感覚がミスマッチを起こして起きると言われています。
- 前庭感覚(耳の奥にある器官で身体のバランスを取る働き)
- 視覚(目で周囲の状態や動きを感じる働き)
- 体性感覚(筋肉や関節などで身体の位置や動きを感じる働き)
の3つです。地震によって大きな揺れを感じることで、これらの感覚に不具合が生じるだけでなく、心理的な不安などのストレスが原因となって地震酔いが起きると言われています。
東日本大震災の統計データ:どんな人が影響を受けやすい?
東日本大震災の時の調査では、成人の8〜9割、学童の5〜7割というかなり多くの人が地震酔いを経験したそうです。
また、地震酔いは男性よりも女性に多く、乗り物酔いの経験がない人よりもある人のほうが多かったと報告されています。一方で、めまいの病気にかかったことがあるかないかは、関連がなかったようです。
女性や乗り物酔いしやすい人が平衡感覚への刺激に敏感である可能性が高く、これがめまいの原因になっているのかもしれません。また、地震の体験による心理的ストレスも、めまいの引き金になることが考えられます。
日常生活でできる対策
めまいに対処するためには、運動をすることがおすすめです。散歩やストレッチなどが良いでしょう。
前述の調査では、地震酔いを感じるシチュエーションは、屋内で椅子などに座っている時が最も多かったそうです。身体がぐらぐらするような感覚を繰り返す場合には、室内でじっと座っておらずに広い戸外へ出て視野を広くし、身体を動かすことが大事です。
そうすることで、前庭感覚、視覚、体性感覚を鍛えることができます。
また、ニュースやSNSでの情報過多を避けることも大切です。必要以上に地震のニュースを見ると、不安やストレスが増えるかもしれません。
神経質になって地震速報を逐一確認するのではなく、コップの中の水面や、壁にぶら下げた飾りなどが動いていないことを確認し安心するのが良いかもしれません。
運動と心のケア
地震の後は、心のケアも大切です。
散歩やヨガなどの軽い運動は、心と体のバランスを取り戻すのに役立ちます。また、趣味やリラクゼーション活動を通じて心を落ち着かせることも大切です。地震の体験による心の傷は、時に見落とされがちですが、心のケアは体の健康に直結します。
また家族や友達と話すこと、趣味などでリラックスすることが、心や体の健康につながります。
専門家による治療
前述の調査では、ほとんどの人は地震酔いの症状は数週間から数ヶ月のうちに改善したそうです。ですから、まずは様子をみることも必要です。しかし、めまいが続いて日常生活に支障をきたす場合には、病院を受診するようにしてください。
病院を受診された時には、他の病気がないかどうかを診察・検査して、体のバランスを取り戻す運動(リハビリ)をしてもらったり、症状を和らげる薬を処方したりします。
まとめ
この記事では、地震後めまい症候群の原因と対処法について説明しました。
めまいがある場合は、セルフケアをまず行って、改善しなければ専門家に相談しましょう。心のケアも大切です。
この情報が、地震の影響から回復するための一歩になれば幸いです。心身ともに健康を取り戻すために、地震の経験を乗り越えるための一歩一歩を踏み出しましょう。
参考文献
野村泰之, 戸井輝夫. シンポジウム「下船病とその周辺疾患」 地震後めまい症候群. Equilibrium Res. 2014;73(3):167-173.
doi: 10.3757/jser.73.167