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★「飲み込みにくい」が続くと、うつになりやすい?嚥下障害と心の健康の深い関係を耳鼻科医が解説

この記事でわかること

Q: 飲み込みにくい症状が続くと、うつ病になりやすくなるのでしょうか?
結論: はい。飲み込み機能が客観的に低下している患者さんでは、うつ症状が有意に多いことが最新研究で示されました。
理由: 飲み込みにくさは食事のたびに生じるストレスであり、食の楽しみや社会参加を奪い、精神的な負担を蓄積させると考えられます。
エビデンス: Ceylan BT & Gürü M., Medical Science Monitor, 2025


「食べるのがつらい」という悩み、心にも影響していませんか?

 食べ物や飲み物を飲み込むとき、「うまく飲み込めない」「のどに引っかかる感じがする」と感じたことはありますか?

 このような症状を嚥下障害(えんげしょうがい)といいます。のど・食道の働きが低下することで起こり、高齢になるほど多くなります。むせたり、食事が遅くなったりするだけでなく、肺炎(誤嚥性肺炎)や栄養不足につながることもある、見逃せない症状です。

 ところが、嚥下障害が心の健康にも影響を与えているかもしれない——そんなことはあまり知られていません。「飲み込みにくさ」と「うつ」の関係を探った最新の研究をご紹介します。


なぜ「飲み込みにくい」と心が疲れてしまうのか

 嚥下障害は、もともと身体的な問題として知られてきました。脳卒中・神経疾患・頭頸部がん・加齢による筋力低下などが主な原因です。高齢者の最大40%に影響するとも言われており、特に施設入所者ではさらに多くみられます。

 しかし、嚥下障害が心理的な負担をもたらすことは、これまで十分に研究されてきませんでした。考えてみれば、食事は単なる栄養補給ではありません。家族や友人と食卓を囲む喜び、外食の楽しみ——こうした「食の社会的な意味」が失われると、孤立感や喪失感が生まれるのは自然なことです。

 実際、嚥下障害の患者さんは次のような経験をしやすいとされています。

  • 食事中にむせたり咳き込んだりして恥ずかしい思いをする
  • 食べるものを制限され、食事が楽しめない
  • 外食を避けるようになり、社会的に孤立していく
  • 「また詰まるかも」という不安から、食事自体が怖くなる

 このような心理的ストレスが積み重なることで、うつや不安が生じやすくなると考えられています。
 


63人の患者さんで「飲み込みの機能」と「心の状態」を同時に調べた

 今回紹介するのは、トルコのガジ大学附属病院(耳鼻咽喉科)と精神科が共同で行った研究です(2025年発表)。

 嚥下障害が疑われる患者63人(女性30人・男性33人、中央値年齢58歳)を対象に、次の2つを同時に評価しました。

① 嚥下機能の客観的検査(FEES法)
 内視鏡を使って、実際に飲み込む瞬間を直接観察する検査です。飲み込みの際に食べ物や飲み物が気道に入ってしまう程度を「誤嚥スコア(PASスコア)」で数値化し、スコアが3以上を「嚥下機能低下あり(グループ1)」、2以下を「正常(グループ2)」に分類しました。

② 心理状態の評価(BDI・BAI)
「ベック抑うつ尺度(BDI)」と「ベック不安尺度(BAI)」という、信頼性の高い標準化されたアンケートでうつと不安の程度を測定しました。

 その結果、63人中38%(24人)が客観的な嚥下機能の低下ありと判定されました。


うつ症状は「飲み込みにくい人」に有意に多かった

 研究の結果、いくつかの重要な事実が明らかになりました。

うつ症状との関係
 嚥下機能が低下しているグループ(グループ1)では、うつ症状のある人(BDI≥17)が54.2%と、正常グループ(グループ2)の25.6%に比べて有意に多いことが示されました(P=0.044)。つまり、飲み込みにくい人はそうでない人の約2倍、うつ症状を持っている割合が高いという結果です。

不安症状との関係
 一方、不安については、グループ1(58.3%)とグループ2(41.0%)の間で有意な差はみられませんでした(P=0.282)。うつよりも不安の方が、嚥下障害との関連が弱い可能性が示唆されています。

年齢・性別との関係
 嚥下機能が低下している人は、有意に年齢が高く(中央値61歳 vs 56歳)、男性が多い(75% vs 38.5%)という特徴もみられました。

興味深い逆の関係
「嚥下に問題なし」と判定されたグループ2の方が、精神科診断歴(46.2% vs 12.5%)・精神科治療歴(46.2% vs 8.3%)が有意に多いという結果も出ました。このグループの患者さんは「飲み込みにくい」と訴えて受診しているにもかかわらず、内視鏡検査では嚥下機能が正常でした。精神科疾患の既往がある場合、抗精神病薬による筋肉の硬直や、抗うつ薬による口腔乾燥が嚥下困難感を引き起こすことがあります。また、精神科疾患では身体の感覚が過敏になりやすく、正常な嚥下機能を持ちながらも飲み込みにくさを強く感じることがあります。これらが、嚥下の訴えがあっても客観的には正常と判定される患者の背景として考えられます。

私たちの生活へのヒント
「飲み込みにくさ」を感じたら、身体の問題だけでなく心の状態にも目を向けることが大切です。飲み込みにくさが続いていて、気分の落ち込みや意欲の低下を感じている場合は、耳鼻咽喉科だけでなく、精神科・心療内科への相談も視野に入れてみてください。


まとめ

 嚥下障害(飲み込みにくさ)のある患者さんでは、うつ症状が有意に多いことが研究で示されました。「飲み込みにくい」という症状は、身体面だけでなく、心の健康にも影響している可能性があります。気になる症状がある場合は、専門医への受診をお勧めします。

今回参考にした論文は、
Ceylan BT, et al. Depression and Anxiety in Patients with Oropharyngeal Dysphagia Evaluated by Fiberoptic Endoscopic Evaluation of Swallowing (FEES)Med Sci Monit. 2025;31:e949150. Published 2025 Aug 2.
doi:10.12659/MSM.949150
です。

Research Question:

 嚥下内視鏡検査(FEES)で評価した口咽頭嚥下障害患者において、客観的な嚥下機能低下とうつ・不安症状の間に関連はあるか、また社会人口統計学的・臨床的因子はどのように関与するか?

Methods:

  • デザイン:横断研究(cross-sectional study)
  • サンプル:n=63(女性47.6%・男性52.4%、中央値年齢58歳[範囲24-78]、トルコ・ガジ大学病院嚥下障害センター)
  • 主要アウトカム:嚥下機能(FEESによるPASスコア)、うつ症状(BDI)、不安症状(BAI)
  • 解析:Mann-Whitney U検定(連続変数)、χ²検定・Fisher’s exact test(カテゴリ変数);有意水準α=0.05。PASスコア≥3をimpaired swallowingとして定義。

Results:

  • 主要結果:Impaired swallowing(Group 1、n=24、38%)ではBDI≥17の割合が54.2%であり、Normal swallowing(Group 2、n=39、62%)の25.6%と比べ有意に高かった(P=0.044)
  • BAI≥16はGroup 1で58.3%、Group 2で41.0%と差を認めず(P=0.282)
  • Group 1は有意に高齢(中央値61 vs 56歳、P=0.041)かつ男性優位(75% vs 38.5%、P=0.005)
  • 精神科診断歴(P=0.013)および精神科治療歴(P=0.004)はGroup 2で有意に多く、向精神薬の薬理学的機序(錐体外路症状・口腔乾燥・筋弛緩)や症状過知覚との関連が考察された

Conclusion & Implication:

  • 著者結論:口咽頭嚥下障害と抑うつ症状の間には有意な関連があり、OD患者の臨床評価に心理的評価を組み込むことが重要である。嚥下機能評価と精神医学的スクリーニングを統合した多職種アプローチが患者アウトカムの改善につながる。
  • 臨床応用ポイント:FEES所見が正常でもOD様愁訴を呈する患者では精神科疾患や向精神薬の影響を考慮する必要がある。OD患者への系統的なうつスクリーニング(BDI等)の導入は、治療方針決定に有用である可能性がある。
  • リサーチギャップ:単施設・横断デザインのため因果関係の確立には前向きコホートが必要。喫煙・飲酒の潜在的交絡、サンプルサイズによる検出力の限界が指摘されており、より大規模・多様な集団での検証が求められる。

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