この記事でわかること
Q: 市販の耳垢取りグッズは効果があるの?そもそも耳掃除は必要?
結論: 耳掃除はそもそも不要です。市販の耳掃除グッズ(電動スパイラル・手動スパイラル・耳洗浄器)はもちろん、比較の基準とされた綿棒も含め、どのグッズを使っても約9割の使用者では耳垢の量が変わらないか、むしろ悪化しました。綿棒も耳垢を奥に押し込むリスクがあり、耳鼻科医としては推奨できません。
詳細: 2023年にミネソタ州立博覧会で行われた147名対象のランダム化比較試験(レベルII)で、4種類のグッズを耳鼻科医がビデオ耳鏡で評価した結果、グッズの種類にかかわらず客観的な改善は全体の約12%にとどまりました。
エビデンス: Kamm et al., Laryngoscope Investigative Otolaryngology, 2025
耳の掃除グッズ、気になったことはありませんか?
ドラッグストアやオンラインショップをのぞくと、「耳垢を安全に取り除く」「耳を清潔に保つ」と謳った耳掃除グッズがたくさん並んでいます。「綿棒は耳に良くない」と聞いて、もっと良いものを探している方も多いのではないでしょうか。
実は耳掃除関連グッズは、世界で約2,000億円規模の市場を形成しており、それほど多くの人が「耳をきれいにしたい」と思い、商品を求めているわけです。
でも本当に、これらのグッズは効果があるのでしょうか?耳鼻科医として患者さんから「使っていいですか?」と聞かれることもよくあります。今回、まさにその疑問に正面から答える研究が発表されましたので、詳しくご紹介します。

そもそも耳掃除は必要なの?
耳垢(耳あか)は、外耳道の皮膚が自然に新陳代謝することで生まれる分泌物と古い皮膚が混ざったものです。実は耳には「自浄作用」があり、耳垢は自然に外へ押し出される仕組みになっています。

耳鼻科医の立場からはっきりお伝えすると、ほとんどの方に耳掃除は不要です。
「耳がかゆくなる」「耳の中が気になる」という方でも、耳をいじればいじるほど外耳道の皮膚が刺激されてかゆみが増す悪循環に陥りやすいため、基本的にはそっとしておくのが正解です(耳掃除について詳しくはこちら)。
例外的に、一部の方では耳垢が溜まりすぎる耳垢栓塞(じこうせんそく)という状態になり、聞こえにくさや耳の詰まり感を引き起こすことがあります。その場合は自分でグッズを使うのではなく、耳鼻咽喉科を受診して適切に除去してもらうのが安全で確実です。
特に綿棒は、耳垢を奥に押し込んで耳垢栓塞を悪化させたり、鼓膜や外耳道を傷つけたりするリスクがあるため、耳鼻科医としても推奨できません。アメリカ耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会(AAO-HNS)のガイドラインでも、自宅での耳掃除には注意を呼びかけています。
それでも実際には、この研究の参加者の72%が綿棒を日常的に使っているというデータがあります。こうした現状を受けて、「市販のグッズを使うなら、どれが一番効果的か」を科学的に調べた研究が行われました。
147名で実施!4種類の耳掃除グッズを比べた研究
2023年のミネソタ州立博覧会の会場で、18歳以上の男女529名が参加する調査が行われました。このうち、少なくとも1つの耳に中程度〜高度の耳垢がたまっていた147名(平均年齢49歳、女性48%)が、次の4つのグループにランダムに振り分けられました。
- 綿棒(鼓膜への接触を防ぐため先を2.5cmに短く加工したもの/対照群として使用)
- 電動スパイラル型ツール(回転するシリコン製チップが耳垢をからめとる設計、市販価格約$49.99)
- 手動スパイラル型ツール(電動でないスパイラルシリコンチップ、市販価格約$24.95)
- 耳洗浄器(バルブを押して水流を外耳道に注入するタイプ、市販価格約$52.95)
参加者はメーカーの説明書を読んだうえで、自分で片耳に30秒以上使用しました。研究者や医師はサポートをせず、あくまでも「一般の人が自宅で使う」のと同じ条件で試験が行われました。耳鼻科医がビデオ耳鏡で使用前後の耳垢の量を評価し、客観的な変化を判定しています。
結果:どのグッズも「約9割は変化なし、または悪化」
結果は明確でした。4種類のグッズのどれを使っても、耳垢の除去効果に大きな差はありませんでした。
全体では147名中わずか17名(11.6%)だけが耳垢の評価グレードで改善を示し、残りの130名(88.4%)は変化なし、または悪化という結果でした。グループ間に統計的な差はありませんでした(p=0.5044)。
各グッズで改善が見られた割合は次のとおりです:
- 綿棒:11%(37名中4名)
- 電動スパイラル:6%(36名中2名)
- 手動スパイラル:16%(38名中6名)
- 耳洗浄器:14%(36名中5名)
また、使用にともなうトラブル(合併症)として、耳垢が奥に押し込まれた人が全体の17%(25名)おり、使用中の痛みや不快感が5%(7名)、外耳道の傷が1%(2名)に見られました。こちらもグループ間に有意な差はありませんでした。
気になるのは価格との兼ね合いです。参加者が希望する購入価格の中央値は$10〜$20でしたが、高価な市販品はそれをはるかに上回っており、費用対効果の面でも疑問が残ります。
なお、この研究では綿棒が「対照群(比較の基準)」として用いられていますが、綿棒も耳垢を奥へ押し込むリスクがあり、耳鼻科医としてはお勧めできません。「高価なグッズは綿棒と効果が変わらなかった」という結論は、「綿棒なら安心」を意味するものではないことに注意が必要です。
では、耳垢が気になるときはどうすればいい?
まず大前提として、耳掃除は基本的に不要です(詳しくはこちらの記事をご覧ください)。「聞こえにくくなった」「耳が詰まった感じがする」といった症状がある場合は、市販グッズで自己解決しようとせず、耳鼻咽喉科を受診してください。専門医なら安全に処置できます。

まとめ
耳掃除はそもそも不要です。市販の耳掃除グッズ(電動・手動スパイラル、耳洗浄器)はもちろん、比較の基準とした綿棒も含め、どのグッズも約9割の使用者では耳垢が改善しませんでした。綿棒も耳垢を奥に押し込むリスクがあり、お勧めできません。耳の詰まり感や聞こえにくさがある場合は、市販グッズを試す前にまず耳鼻咽喉科を受診してください。
※本記事は最新研究を分かりやすく解説したものであり、診断・治療は専門医へご相談ください。

今回参考にした論文は、
Kamm WE, et al. Efficacy of Over-the-Counter Cerumen Removal Devices: A Randomized Trial. Laryngoscope Investig Otolaryngol. 2025;10(6):e70313. Published 2025 Nov 18.
doi:10.1002/lio2.70313
です。
Research Question:
成人が市販のOTC耳垢除去デバイス(綿棒・電動スパイラル・手動スパイラル・耳洗浄器)を自己使用した場合、耳垢負担は客観的に改善されるか?また、デバイス間で有効性・安全性に差はあるか?
Methods:
- デザイン: 地域ベースの前向きランダム化比較試験(Level of Evidence II)
- サンプル: n=147(2023年ミネソタ州立博覧会参加者から採用;初期スクリーニング529名;中等度〜高度耳垢を有する成人;平均年齢49歳[SD 19]、女性48%、白人82%)
- 主要アウトカム: ビデオ耳鏡による耳垢グレードの客観的変化(外耳道横断面積の被覆割合:minimal<25%、moderate 26–50%、excessive 51–75%、impaction>75%)および観察者による耳垢除去の印象評価(デバイスまたは洗浄液への耳垢付着の有無)
- 解析: Fisher’s exact test;四群間の耳垢負担・合併症・消費者印象を比較;有意水準 p<0.05(両側)
Results:
- 主要結果: 改善(1グレード以上の低下)は17/147(11.6%)のみ;130名(88.4%)は不変または悪化。四群間に統計的有意差なし(p=0.5044)
- 副次結果・サブグループ解析:
- 観察者印象で「耳垢の一部除去あり」:綿棒30%、電動スパイラル28%、手動スパイラル47%、洗浄器50%(p=0.1023、有意差なし)
- 合併症:耳垢の奥への押し込み17%(25/147)、疼痛・不快感5%(7/147)、外耳道外傷1%(2/147);四群間に有意差なし(p=0.4559)
- 主観的改善なし:114/147(78%);四群間に有意差なし(p=0.2989)
- 再試用意向:76/147(52%);購入意向は綿棒57% vs 電動スパイラル11%(p<0.001)
- 希望価格:綿棒使用者の95%が<$10を希望;電動スパイラル・手動スパイラル・洗浄器使用者は70〜87%が$10〜$20を希望。市場価格はほぼすべてのデバイスで希望価格を上回る
Conclusion & Implication:
- 著者結論: 一般人が自己使用するOTC耳垢除去デバイスは、単回使用においては耳垢負担の有意な改善をもたらさず、綿棒に対する優位性も示されなかった。繰り返し使用や習熟による効果改善の可能性は残るが、現時点では過剰耳垢の除去目的での常用を支持するエビデンスはない。
- 臨床応用ポイント or リサーチギャップ: 患者教育において「市販の耳掃除グッズの客観的有効性は低い」ことを説明する際のエビデンスとして有用。繰り返し使用・セルメノリティック前処置・習熟度の影響を検討するRCTが今後必要。洗浄器は単回では効果が限定的だが、先行研究で繰り返し週1回使用で有効性が示されており、使用頻度と効果の関連を精査する余地がある。






