この記事でわかること
Q: 睡眠時無呼吸症候群でCPAPを使っているのに、日中の眠気がなかなかとれない。何か薬はないの?
結論: 2026年9月、CPAPなどを使用中の睡眠時無呼吸症候群患者の「残留する日中の眠気」を改善する新薬・ピトリサント塩酸塩(商品名:ウエキクス®)が日本で承認されました。
詳細: 脳内の覚醒スイッチを活性化するまったく新しい仕組みの薬で、複数の臨床試験のデータをまとめたメタ解析では、眠気の指標スコア(ESS)をプラセボより約2.9点改善することが示されています。
エビデンス: Cao M, et al. Pharmacological Research. 2021(メタ解析:4つのRCT、計678例)
CPAPをしているのに、まだ眠い——それは珍しくない悩みです
睡眠時無呼吸症候群(OSA)と診断されてCPAP(シーパップ)療法を始めたのに、「日中の眠気がなかなかとれない」「仕事中についウトウトしてしまう」という悩みを抱えている方は少なくありません。
CPAPは夜間の気道閉塞を防ぎ、睡眠の質を大きく改善する治療法ですが、それだけではどうしても日中の眠気(過眠)が残ってしまう患者さんが一定数いることが知られています。

これまで、こうした「CPAP後も残る日中の眠気」に対して日本で使える薬は限られていました。ところが2026年9月、まったく新しい仕組みで働く薬が日本でも承認を受けました。ピトリサント塩酸塩(商品名:ウエキクス®)という薬です。耳鼻咽喉科医の立場で、この新薬についてわかりやすく解説します。
睡眠時無呼吸症候群と「日中の眠気」のしくみ
睡眠時無呼吸症候群とは、寝ている間に喉の奥が繰り返し塞がってしまい、そのたびに脳が「苦しい!」と感じて目覚めを繰り返す病気です。この細かな目覚めは本人には自覚がないことが多く、気づかないうちに睡眠が細切れになっています。その結果、翌日に強い眠気・集中力の低下・疲労感が現れます。
CPAPは寝る間じゅう空気を送り込み続けることで気道を広げ、この「繰り返し目覚める」状態をなくします。多くの患者さんにとってCPAPは劇的に効果がありますが、研究によると一部の方はじゅうぶんにCPAPを使っていても日中の眠気が完全には解消しません。この「残留する眠気」には、睡眠の断片化以外にも脳の覚醒システムそのものの変化が関わっている可能性があり、CPAP単独では対処しきれないことがあります。
ピトリサントが承認されたのは、まさにこの「CPAPなど(気道閉塞の治療)を行っているにもかかわらず、日中の過度の眠気が続くOSA患者さん」を対象としています。CPAP未使用の方が代わりに飲む薬ではなく、あくまでも「CPAPと組み合わせて使う薬」という点が重要です。
ピトリサントとは?——脳の「目覚めスイッチ」を入れる新しい仕組み
ピトリサントは、脳内で働くヒスタミンH3受容体というタンパク質をブロック(拮抗・逆作動)することで効果を発揮します。少し難しい言葉ですが、わかりやすく言うと次のようなしくみです。
私たちの脳には覚醒を維持する働きを担うヒスタミンという物質があります。通常は使われすぎないよう自動的にブレーキがかかるのですが、ピトリサントはそのブレーキを外すことで、脳内のヒスタミンの放出を促し、覚醒状態を保ちやすくします。

この仕組みは従来の覚醒促進薬(精神刺激薬)とはまったく異なります。従来の一部の覚醒促進薬は依存性のリスクがあるため「規制薬物」に指定されていましたが、ピトリサントはその心配がありません。
2021年に医学誌「Pharmacological Research」に掲載されたメタ解析では、ピトリサントを評価した4つのランダム化比較試験(計678例)のデータが統合されました。
その結果、ピトリサントはプラセボ(偽薬)と比べて、眠気の程度を測るエプワース眠気尺度(ESS)スコアを平均約2.9点改善したことが示されています。また、日中の覚醒状態を客観的に評価する覚醒維持検査(MWT)でも、眠りに落ちるまでの時間を約3.1分延長したことが確認されています。
(注:このメタ解析にはナルコレプシーとOSAの両方の患者さんのデータが含まれています。OSAのみを対象とした個別試験でも有効性が確認されたことが承認の根拠となっています。)
使い方と注意点——飲むなら「朝1回だけ」が鉄則
ピトリサント塩酸塩(商品名:ウエキクス®)は、成人のOSA患者さんには朝1回5mgから始め、1週間ごとに10mg、20mgと少しずつ増やしていきます。最大用量は20mg/日です(ナルコレプシーの最大用量40mgより低い設定です)。
必ず朝に飲むことが重要です。覚醒を促す薬であるため、午後に飲むと夜間の不眠を招くおそれがあります。
主な副作用は不眠・頭痛(5%以上)で、そのほか腹痛・悪心・不安感なども報告されています。また、CYP3A4という肝臓の酵素に影響するため、女性で経口避妊薬を使用中の場合はその効果が弱まる可能性があり、服薬中および服薬終了後21日間は別の避妊法を用いる必要があります。重い肝機能障害がある方への投与は禁忌です。
日中の眠気が改善されても「完全に正常な状態に戻っているわけではない」場合があります。自動車の運転など危険を伴う作業を再開するかどうかは、担当の医師とよく相談して判断してください。

まとめ
睡眠時無呼吸症候群のCPAP治療中でも日中の眠気が残る方に、2026年9月、新薬ピトリサント(ウエキクス®)が日本で承認されました。脳の覚醒システムを活性化する新しい仕組みの薬で、依存性リスクなく使えることが特長です。ご自身の眠気にお悩みの方は、まず担当の耳鼻咽喉科や睡眠専門医にご相談ください。
※本記事は最新研究を分かりやすく解説したものであり、診断・治療は専門医へご相談ください。

今回参考にした論文は、
Wang J, et al. Pitolisant versus placebo for excessive daytime sleepiness in narcolepsy and obstructive sleep apnea: A meta-analysis from randomized controlled trials. Pharmacol Res. 2021;167:105522.
doi:10.1016/j.phrs.2021.105522
です。
Research Question:
ランダム化比較試験(RCT)のメタ解析において、ピトリサントはナルコレプシーおよびOSA患者の日中過眠(EDS)・覚醒維持に対してプラセボを上回る有効性を示すか。
Methods:
- デザイン: システマティックレビュー・メタ解析(RCTを対象)
- サンプル: n=678(ナルコレプシーおよびOSA患者を対象とした4つのRCTを統合)
- 主要アウトカム: エプワース眠気尺度(ESS)スコア変化量、覚醒維持検査(MWT)睡眠潜時変化量
- 解析: ランダム効果モデルによる統合解析;平均差(MD)および95%信頼区間を算出
Results:
- 主要結果(ESS): ピトリサント群はプラセボ群と比較してESSスコアを有意に低下(MD −2.86点、95%CI −3.75〜−1.96)
- 主要結果(MWT): ピトリサント群はプラセボ群と比較してMWT睡眠潜時を有意に延長(MD +3.14分、95%CI +2.18〜+4.11)
- 備考: 本メタ解析にはナルコレプシーとOSAの両集団が含まれており、OSAのみの効果量は個別RCTを参照する必要がある
Conclusion & Implication:
- 著者結論: ピトリサントはナルコレプシーおよびOSAにおける過眠症状に対して、プラセボと比較して統計学的に有意な改善効果を示した。
- 臨床応用ポイント: 日本においては2026年9月に「気道閉塞の治療(CPAP等)を実施中のOSAに伴うEDS」に対して承認。OSAでの最大用量は20mg/日(ナルコレプシーの40mg/日より低設定)。CYP2D6 PM・重度腎機能障害(eGFR<30)・強いCYP2D6阻害薬併用・中等度肝機能障害(Child-Pugh B)では最大20mgへの制限が必要。重度肝機能障害(Child-Pugh C)は禁忌。依存性リスクなく規制薬物に分類されない点で既存の精神刺激薬と異なる。






