★で始まるブログは一部医療従事者向けの内容を含みます。詳しくは「このサイトについて」をごらんください。

★花粉症の免疫療法が効く人・効かない人——腸内細菌叢がカギを握っている?300人のデータが示したこと

この記事でわかること

Q: 花粉症の免疫療法(アレルゲン免疫療法)が効きやすい人と効きにくい人は何が違うのか?
結論: アレルギー性鼻炎の患者は健康な人に比べて腸内細菌の多様性が低く、免疫バランスも乱れていることが示された。特定の腸内細菌(プロテオバクテリア門)の存在が症状改善と関連していた。
詳細: 450人を対象とした前向きコホート研究で、アレルゲン免疫療法6か月後に鼻症状と生活の質が有意に改善。プロテオバクテリアが多い患者ほど改善幅が大きい傾向が示された。
エビデンス: Huo Z et al., Acta Microbiologica et Immunologica Hungarica, 2025. DOI: 10.1556/030.2025.02661

「腸活」が花粉症にも関係する?

「腸活」という言葉をよく耳にするようになりました。ヨーグルトや発酵食品・食物繊維を積極的に摂り、腸内環境を整えることで免疫力の向上や体調改善が期待できると広く知られています。

 しかし、「腸内細菌が花粉症にも関係しているかもしれない」という話を聞いたことはありますか?耳鼻咽喉科の視点からも注目されている、腸内細菌と花粉症(アレルギー性鼻炎)の最新研究をわかりやすく解説します。

なぜ腸の中の細菌がアレルギーに影響するのか

 腸は、体の免疫細胞の約70%が集まっている「免疫の中心地」です。腸の中には何百種類もの細菌が住んでおり、これらが免疫システムのバランスを整える上で重要な役割を果たしていることがわかってきました。

 アレルギーとは、花粉などの本来は無害な物質に対して、免疫系が過剰に反応してしまう状態です。このとき、体の中では「アレルギーを促進するTh2細胞」と「過剰な反応を抑える制御性T細胞(Treg)」のバランスが崩れています。

 腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸(SCFA)という物質は、制御性T細胞を増やして免疫の暴走を抑える働きがあることが知られています。つまり、腸内環境が乱れると免疫バランスも崩れやすくなり、アレルギー症状の悪化につながる可能性があるのです。

 一方、花粉症の根本的な治療として近年広く普及しているのがアレルゲン免疫療法(AIT)です。スギ花粉などのアレルゲンをごく少量から少しずつ体内に取り入れ、免疫系を再教育することでアレルギー反応を弱めていく治療です。舌下免疫療法として自宅で服用できる薬が登場し、多くの患者さんが取り組んでいます。

腸内細菌と免疫療法の効果を450人で調べた研究

 2025年にActa Microbiologica et Immunologica Hungarica誌に掲載された前向きコホート研究では、アレルギー性鼻炎の患者300人と健康な対照者150人の合計450人が対象となりました。患者と対照者は年齢・体重で合わせて比較されましたが、アレルギー性鼻炎グループのほうがBMI(体格指数)が有意に高いことも確認されました。

 研究では、アレルゲン免疫療法の開始前と6か月後に、血液と便のサンプルが採取されました。便サンプルは次世代シーケンシング技術(16S rRNA遺伝子解析)を用いて腸内細菌の種類と多様性を詳しく調べ、短鎖脂肪酸の量も測定しました。さらに、制御性T細胞の数やサイトカイン(IL-10・IL-4・IFN-γ)の濃度も調べられました。

 鼻の症状は鼻症状スコア(TNSS)、生活への影響は鼻炎QOL問診票(RQLQ)という標準的な指標で評価されました。

研究が示したこと——腸内環境と免疫の乱れ、そして治療後の変化

アレルギー性鼻炎患者では腸内環境が乱れていた

 アレルギー性鼻炎の患者グループは、健康な対照者と比べて腸内細菌の多様性が有意に低く、短鎖脂肪酸の量も少ない、腸内細菌叢が乱れた状態にあることが示されました。

 免疫の面でも、炎症を抑えるIL-10制御性T細胞のレベルが低い一方で、アレルギーを促進するIL-4Th2細胞の割合が高いという特徴的なパターンが確認されました。

6か月の免疫療法で症状と生活の質が改善

 6か月間のアレルゲン免疫療法後には、鼻症状スコア(TNSS)と鼻炎QOL問診票(RQLQ)のどちらも有意に改善しました。免疫療法がアレルギー症状を和らげ、日常生活への支障を減らすことをあらためて示す結果となりました。

プロテオバクテリアが多い人で症状改善の傾向

 注目すべき点として、「プロテオバクテリア門」と呼ばれる腸内細菌グループの存在量が多い患者では、免疫療法後の鼻症状スコアの低下や生活の質の改善と関連していることが示されました。著者らはプロテオバクテリアがアレルギー性鼻炎において保護的な役割を果たす可能性があると述べています。

 ただし、この研究は腸内細菌と症状改善の「関連性」を示したものです。腸活によって免疫療法の効果が高まるかどうかの因果関係については、今後のランダム化試験による検証が必要です。

まとめ

 アレルギー性鼻炎の患者は腸内細菌の多様性が低く、免疫バランスも乱れていることが300人規模のコホート研究で示されました。アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法)は6か月で症状と生活の質を有意に改善し、特定の腸内細菌(プロテオバクテリア門)との関連も示唆されています。腸内環境と花粉症治療の関係は今後さらなる研究が期待される分野です。

今回参考にした論文は、
Huo Z, et al. Gut microbiome composition and its impact on response to allergen immunotherapy in adult patients with allergic rhinitis. Acta Microbiol Immunol Hung. 2025;72(3):193-202. Published 2025 Jul 28.
doi:10.1556/030.2025.02661
です。

Research Question:

 アレルギー性鼻炎(AIT適応成人)において、腸内細菌叢の多様性・組成および免疫プロファイルは健康対照者と異なるか。また6か月のAIT後における腸内細菌叢の変化は症状改善(TNSS/RQLQ)と関連するか。

Methods:

  • デザイン: 前向きコホート研究
  • サンプル: n=450(中国・Changshu No.2 People’s Hospital; AR患者300人 + 健康対照150人, 成人, 年齢・体重マッチング)
  • 主要アウトカム: TNSS(Total Nasal Symptom Score)・RQLQ(Rhinitis Quality of Life Questionnaire)の6か月前後変化;腸内細菌多様性(16S rRNA V4領域, Illumina MiSeq, QIIME2/SILVA);SCFA定量(LC-MS/MS);Treg(フローサイトメトリー);サイトカイン IL-10, IL-4, IFN-γ(ELISA)
  • 解析: 群間比較(AR vs 対照);AIT前後比較;ProteobacteriaとTNSS/RQLQ変化の関連解析

Results:

  • 主要結果: AR患者で腸内細菌多様性↓(P=0.028),SCFA↓,IL-10↓(P<0.05),Treg↓(P<0.001),IL-4↑・Th2細胞↑(P<0.001);AIT 6か月後にTNSS・RQLQが有意改善(P<0.001)
  • 副次結果: Proteobacteria門の存在量がTNSS低下・RQLQ改善と有意に関連(P<0.05);AR患者は対照よりBMI有意高(P=0.0006)——未調整の交絡因子の可能性あり

Conclusion & Implication:

  • 著者結論: AITはAR患者の症状・QOLを改善する。Proteobacteriaがバイオマーカーまたは治療標的となる可能性がある。
  • 臨床応用ポイント/リサーチギャップ: 腸内細菌叢とAIT応答性の因果関係は未確立。BMIの群間差(P=0.0006)は未調整の交絡因子として解釈に注意が必要。プロバイオティクス・プレバイオティクス介入がAIT効果を増強するかを検証するRCTが求められる。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)