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★難聴と認知症に深い関係!両耳も片耳も要注意

耳の聞こえが悪くなると、認知症のリスクも上がる?

「最近、テレビの音が聞こえにくくなった」
「名前を呼ばれても気づかないことが増えた」

——そんな耳の聞こえの変化を、「年のせいだから仕方ない」と放置していませんか?

 実は、難聴は単に「聞こえが悪い」という問題だけでなく、認知症の発症リスクを高める可能性があることが、数多くの研究で報告されています。そして今回ご紹介する大規模研究では、これまであまり注目されてこなかった「両耳の難聴」と「片耳の難聴」の違いに着目し、それぞれの認知症リスクを7万人以上のデータで明らかにしました。

「騒がしい場所での聞こえ」が大事な理由

 難聴が認知症のリスク因子であることは、以前からある程度知られていました。しかし多くの研究では、「静かな部屋でどれくらい聞こえるか」という「純音聴力」だけを測定してきました。

 私たちの日常生活は、静かな部屋だけで過ごすわけではありません。街中の騒音、複数の人が話す食事の場、テレビの音と会話が混じった環境——こうした「騒音の中で言葉を聞き取る能力」 (英語ではSpeech-in-Noise、SINと呼ばれます)が低下すると、脳への情報入力が減り、認知機能に影響が出ると考えられています。

 また、耳の聞こえが悪くなると社会的な孤立につながりやすく、これも認知症リスクを高める要因の一つとされています。「両耳の難聴」と「片耳の難聴」では、脳への影響も異なる可能性がありますが、これまで両者を区別して大規模に比較した研究は多くありませんでした。

7万2千人を最長17年追跡した大規模研究

 今回ご紹介するのは、イギリスの大規模医療データベース「UKバイオバンク」を活用した研究です。2006年から2010年にかけて7万2,004人の参加者を集め、2023年10月まで最長17年間にわたって追跡調査を行いました。

 研究では、通常の聴力検査だけでなく「騒音の中での言葉の聞き取り能力(SINテスト)」を実施し、「両耳難聴」「片耳難聴」「正常」の3グループに分類。その後、認知症を発症したかどうかを記録し、統計的な手法を用いてそれぞれのグループの認知症リスクを比較しました。

 さらに、脳のMRI画像データを使って、難聴と脳の容積変化との関係も調べました。「認知リザーブ」——つまり教育歴などによって形成される”脳の予備力”——がリスクに与える影響についても分析しています。

 この研究の重要な特徴は、単純な聴力だけでなく、日常的な「騒音下での聞き取り能力」を評価した点にあります。「静かな環境では聞こえるが、騒がしい場所では聞き取れない」という状態も、認知症リスクに影響しうることを初めて大規模に示した研究です。

両耳難聴で1.5倍、片耳難聴でも1.18倍のリスク上昇

 研究の結果、両耳に難聴のある人では、正常な聴力の人と比べて認知症の発症リスクが約1.5倍 (HR = 1.507) に達することが明らかになりました。さらに、片耳だけに難聴のある人でも、約1.18倍 (HR = 1.181) のリスク上昇が確認されています。

 また、両耳の難聴がある人では、記憶に関わる「海馬」や聴覚処理を行う脳領域の容積が小さいことも分かりました。これは難聴による脳への慢性的な影響を示唆しています。


 一方、教育歴などによる「認知リザーブ」は、難聴と認知症リスクの関係を大きく変えるものではないことも示されました。

あなたにできること

  • 「最近、騒がしい場所で聞き取りにくい」と感じたら、耳鼻咽喉科で聴力検査を受けましょう
  • 難聴と診断された場合は、補聴器の使用を早期から検討することが認知症予防につながる可能性があります
  • 片耳だけの難聴でもリスクが上がることから、「片方だけだから大丈夫」と放置しないことが大切です

まとめ

 難聴は認知症のリスク因子であり、両耳だけでなく片耳の難聴でも認知症リスクが高まることが7万人超の大規模研究で確認されました。耳の健康管理が認知症予防につながる可能性があります。気になる方は耳鼻咽喉科へご相談ください。

今回参考にした論文は、
Lang H, Ye Z, Wang X, et al. Association of Unilateral and Bilateral Speech-In-Noise Hearing Status With Dementia. Int J Geriatr Psychiatry. 2026;41(3):e70199.
doi:10.1002/gps.70199
です。

Research Question:

 騒音下聴力(SIN)の両側・片側低下が全原因認知症リスクと関連するか、また認知リザーブ(CR)がその関連を修飾するかを、大規模集団コホートで検討する(P: 60歳以上の成人集団、I: SIN難聴あり、C: SIN正常、O: 全原因認知症発症)

Methods:

 デザイン:
  前向きコホート研究
 対象:
  n=72,004(UK Biobank、2006-2010年登録、2023年10月まで追跡)
 腫瘍アウトカム:
  全原因認知症
 解析:
  Cox比例ハザードモデル; 年齢・性別・教育歴・生活習慣等で調整; 脳容積はMRIで評価

Results:

  • 主要結果:
    • 両側SIN難聴: HR = 1.507 [95%CI 1.349–1.685]
    • 片側SIN難聴: HR = 1.181 [95%CI 1.068–1.305]
  • 副次結果:
    • 両側難聴は海馬・側坐核・中心島皮質・ヘシュル回・皮質下灰白質容積の減少と有意に関連
    • 片側難聴: 軽度は右耳優位、重度は左耳優位のパターン
    • 認知症リスクはSIN難聴の重症度とCRに応じた用量反応関係を示す
    • CRはSIN難聴と認知症リスクの関連を有意に修飾しなかった(交互作用なし)

Conclusion & Implication:

  • 著者結論: SIN聴力低下は側性・重症度に応じた認知症リスクの差異を示し、聴力保全戦略は側性と重症度を考慮すべきである
  • 臨床応用ポイント: 純音聴力検査に加えSINテストを導入することで認知症ハイリスク患者の早期同定が可能になりうる。難聴の側性(両側か片側か、左右どちらか)を含む詳細な評価が重要
  • リサーチギャップ: 補聴器介入が認知症発症率の低下に寄与するかどうかの介入研究が今後必要

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