のどにできる癌は、癌全体の中では少ない部類に入りますので、皆さんはなじみがないかもしれません。
のどにできる癌の中で、以前は喉頭癌が一番多かったのですが最近は減ってきています。これは喉頭癌の原因であるタバコを吸う人が減ってきたことによると思われます。
一方で、中咽頭癌が増えてきました。中咽頭癌とは、扁桃腺(ほんとうは口蓋扁桃といいます)や舌の付け根などにできる癌です。
中咽頭癌も以前はお酒やタバコが主な原因だと思われてきました。それは今も間違いではありませんが、それ以外の原因として、ヒトパピローマウイルス(HPV)が注目されるようになりました。
子宮頸癌の原因としてHPVは注目を集めていますが、実は中咽頭癌にも大きな関連があります。
中咽頭癌の中にはHPVが関与しているものと、そうでないものとがあり、治療に対する反応が異なるため、今の分類では両者は別の癌のように取り扱われています(UICC第8版:HPVが関与しているものをp16陽性中咽頭癌と記載されています)
下に紹介している論文では、HPV関連中咽頭癌の再発の有無を、血液中のHPVのDNAで検出しようとしたもので、高い的中率を得ています。
HPVにはワクチンがあり予防できますので、中咽頭癌を予防できるのではないかと期待されます。
今回参考にした論文は、
Chera BS, et al. Plasma Circulating Tumor HPV DNA for the Surveillance of Cancer Recurrence in HPV-Associated Oropharyngeal Cancer. J Clin Oncol. 2020 Feb [Epub ahead of print].
です。
Research Question:
血漿中の腫瘍HPV-DNA(ctHPVDNA)のモニタリングが、HPV関連中咽頭癌治療後の再発を検出できるか。
方法:
対象:
18歳以上のHPV関連中咽頭癌患者 115名
生検で癌と確定し、p16陽性を確認した。
ステージはI〜IIIまで。
初期治療として、標準的な放射線化学療法(CRT)を行った。
(T0-2、N0-1は化学療法を行わなかった)
CRT後の経過観察:
治療後3カ月にPET/CT を行い、頸部郭清の必要性を判断した。
その後、治療後1〜2年は2〜4カ月ごと、治療後3〜5年は6カ月ごとに
診察・検査を施行した。
胸部画像診断は6カ月ごとに施行した。
ctHPVDNAの測定:
CRT治療前に測定、治療中は毎週測定、治療後は受診ごとに測定した。
再発の判定:
生検で確定をした。
結果:
- 対象患者115名のうち、再発したのは15名であった。
そのうち、再発と診断される前6カ月以内に採血できたのは11名であった(追跡期間:中央値23.7カ月)。 - CRT治療後のフォローアップ全期間で、87名(76%)でctHPVDNAが検出されず、その全員が再発しなかった(陰性的中率[NPV]:100%)。
- 同期間で、28名(24%)の患者でctHPVDNAが陽性となった。治療終了から陽性となるまでの期間は、中央値12.3カ月であった。
- ctHPVDNA陽性であった群の2年無再発生存率(RFS)は30%であり、検出されなかった群では100%であった (p<0.0001)。
- 28名のctHPVDNA陽性患者のうち、追跡できた24名の解析。
再発した15名全例において、陽性になった後の再検査でも陽性が継続した。一方、再発しなかった9名中8名は、2回目の測定で検出されなくなった。残りの1名も3回目の測定で検出されなくなった。 - 上記の結果を踏まえて、2回連続でctHPVDNAが検出されたことを陽性と定義すると、115名中99名(86%)が陰性であり、すべての患者が再発しなかった(NPV:100%)。
一方、16名(14%)の陽性患者のうち15名が再発した(陽性的中率[PPV]:94%)。
感度は100%、特異度は99%であった。
2回連続で陽性だった患者の2年RFSは5%であり、陰性だった患者は100%であった。 - 再発例15例のうち14例(93%)は無症候性であった。再発と診断される前6カ月以内に採血できた11名のうち10名は、再発と診断される前にctHPVDNAが陽性となった。
結論:
HPV関連中咽頭癌治療後の経過観察中に、2回連続してctHPVDNAが陽性であった場合、癌の再発を高いPPVおよびNPVで検出できる。
この検査を用いることによって、サルベージ治療を早期に開始できる可能性がある。
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