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★失われる会話、増える孤独感:高齢者の難聴と介護の関係性

 現在の日本は、平均寿命が伸びて、要介護者数の割合が多くなり、超高齢化社会に突入しています。

「介護難民」「老老介護」「介護職の人材不足」などいろいろな問題が取り沙汰されています。

 今回は、難聴と介護との関連について調査した研究を題材にしたいと思います。論文の詳細を知りたい方は、この記事の一番下をご覧ください。

孤独感の増加と介護リスク:難聴の影響は?

 「耳が遠くなると、孤独感が増し、結果的に介護が必要になる可能性が高まる」

と聞いたら、皆さんはどう思いますか?

 驚く人もいるかもしれませんが、最近の研究でまさにそのような結果が明らかになっています。

 特に高齢者の間では、耳が遠くてコミュニケーションが難しくなると、それが孤独感を引き起こし、さらには介護が必要な状態へと進行する可能性が指摘されています。

耳が遠くなると何が起こる? 孤独感と介護の関係性を探る

 耳が遠くなると、何を言っているのか聞き取りづらく、当然ながら会話が難しくなります。

 その結果、人との交流が減って孤独感が増すというわけです。それがさらに介護が必要な状態へと進行する可能性があるというのが、この研究で得られた新たな知見です。

 特に、教育を受けた年数が短く、無職で一人暮らし、運動習慣のない、耳が遠い、うつ病の傾向がある男性は、孤独感を感じやすいことも分かりました。

補聴器の力:孤独感の緩和と介護リスク低減の可能性は?

 この問題に対する解決策は「耳を良くする」ことかもしれません。

 具体的には、補聴器のようなツールを使って聴覚を補助することが有効だとされています。

 補聴器を使うことで、人との会話がスムーズになり、孤独感が軽減します。そして、それが介護が必要になるリスクを下げる可能性があるというわけです。

孤独感を解消する道具としての補聴器の重要性は?

 この研究から得られた知識を活かすと、

「補聴器を使う」ことが、孤独感という心の問題を解消する一手段となる

と言えます。

 そして、それが「介護が必要な状況を避ける」ための一助となるというわけです。

 つまり、補聴器を使って、周囲の音や声を聞こえやすくすることは、ただ単に生活の質を向上させるだけでなく、社会全体としての介護需要の増大を抑制し、高齢者への支援体制を維持する上でも重要な役割を果たすことになります。
 

 なんとも思わぬつながりですよね。

 皆さんも、自分自身や大切な家族が孤独にならないために、身近なところからコミュニケーションの質を高めるための手段を探してみてはいかがでしょうか?

難聴と認知症、補聴器の効果についての別記事は以下のリンクからご覧ください。

 

↓私の上司の書いた
 「耳が遠くなると、認知症が近づく: 幸せで長生きの秘訣(一万年堂出版)」もご紹介します。

 

今回参考にした論文は、
Tomida K, et al. Association of Loneliness With the Incidence of Disability in Older Adults With Hearing Impairment in Japan. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2023; 149 (5): 439-446.
doi: 10.1001/jamaoto.2023.0309
プレスリリース:国立長寿医療研究センターHP
です。

Research Question:

 高齢者における聴覚障害と孤独感、そして障害発生率との間には関連性が存在するのか。

方法:

 デザイン:
  前向きコホート研究
 対象:
  2017年9月から2018年6月までの期間に、
  大規模コホート研究(National Center for Geriatrics and Gerontology–Study of
  Geriatric Syndromes:NCGG–SGS) に参加した、
  愛知県東海市の65歳以上の成人5,563人
 評価項目:
  聴覚障害の程度:Hearing Handicap Inventory for Elderly-Screening(HHIE-S)で評価
   →9点以上を聴力障害ありと判断。
  孤独感:UCLA孤独感尺度 第3版(University of California, Los Angeles Loneliness Scale)で評価
 層別比較:
  聴覚障害の有無により2群に分けて比較
 主要評価項目:
  Cox比例ハザードモデルを用いて、要介護状態の新規発生ハザード比を検証。
  年齢、性別、教育年数、孤独感の有無によって調整。

結果:

  • 研究参加基準を満たした対象者は、4,739人で、平均年齢は73.8±5.5歳、女性は2,622人(55.3%)であった。
  • 聴覚障害を持つ人は、947人(20.0%)であった。
  • 「孤独感を経験した」と回答した人は、聴覚障害のない群の32.0%(1,215人)、聴覚障害のある群の46.6%(441人)であった。
  • 2年後の要介護状態の新規発生率は、聴覚障害のない群が4.5%(172人)、聴覚障害のある群が8.3%(79人)であった(χ検定:p<0.05)。
  • 孤独感の有無を従属変数とした二項ロジスティック回帰分析の結果、対象者全体では、男性で、教育年数が短い、現在は働いていない、単身で生活している、運動習慣のない、聴力障害の重症度が高い、うつ傾向のある人が、孤独感を経験しやすいことが示唆された。
  • Cox比例ハザードモデルの結果
    • 聴力低下なし群:
      孤独感と要介護状態の新規発生との間には有意な関連性は認められなかった(ハザード比:1.10 [95%信頼区間:0.80-1.52])。
    • 聴力低下あり群:
      孤独感がある人は、孤独感のない人と比較して要介護状態の新規発生リスクが有意に高かった(ハザード比:1.71 [95%信頼区間:1.05-2.81])。

結論:

 聴力障害を持つ高齢者は、聴力障害を持たない高齢者と比べて要介護状態の新規発生率が高いことが確認された。特に、聴力低下を有する高齢者では、孤独感が要介護状態の新規発生と関連することが明らかになった。
 聴力障害は、老年症候群の中でも最も一般的な症状であり、多くの危険因子の中でも孤独感は、聴力障害を持つ高齢者の介護予防戦略において、重要な要素であると考えられる。

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