「うがいと手洗いで風邪を防ごう」
この日々の生活で口にする、あるいは耳にするこれらの言葉が、果たして科学的に証明されているのか、みなさんは考えたことはありますか?
この記事では、日本で行われた研究から、うがいや手洗いの効果を科学的に解析し、この「当たり前」の行動が、子どもたちのインフルエンザ予防に役立つことが実証された結果をお伝えします。
当たり前は証明されたか?うがいと手洗いの効果
科学的根拠を明らかにしたのは、日本の子どもたちを対象にした大規模な研究です。
研究者たちは、3歳半の子供たちがうがいや手洗いの教育がなされているかを調査し、その後の数年間でインフルエンザやその他の気道感染症の発生を追跡しました。
結果、これらの衛生習慣が、特に生活環境が厳しい低所得世帯の子どもたちのインフルエンザ予防に効果的であることが判明しました。
ただし、インフルエンザ以外の気道感染症に対しては、その効果は明確ではありませんでした。
謎の違い:インフルエンザと他の気道感染症
では、なぜうがいや手洗いはインフルエンザの予防には効果があるのに、他の気道感染症にはその効果が見られないのでしょうか?
あくまで私の推測ですが、その答えは診断方法に隠されている可能性があります。インフルエンザは抗原検査である程度確定的に診断できますが、他の気道感染症はその診断が難しいのです。
気道感染症の診断の不確定性が、うがいや手洗いの効果をぼやけさせてしまい、明確な効果を示すのを難しくしているのかもしれません。
今後の研究によって、これらの疑問が解明されることを期待したいと思います。
生活の教訓:うがいと手洗いの継続が求められる
この研究から得る教訓は、「うがい」や「手洗い」がインフルエンザ予防に有効であること、そしてそれが特に子どもたちにとって大切な防衛手段であり、コロナ禍が落ち着いてもこれらの習慣を続けるべきであるということです。
皆さんも、日々の生活の中で、うがいや手洗いを続けて、自分自身と大切な人々の健康を守りましょう。
今回参考にした論文は、
Uraguchi K, et al. Association between handwashing and gargling education for children and prevention of respiratory tract infections: a longitudinal Japanese children population-based study [published online ahead of print]. Eur J Pediatr. 2023;10.1007/s00431-023-05062-5.
doi:10.1007/s00431-023-05062-5
です。
Research Question:
日本の小児における手洗いとうがいの教育が、呼吸器感染症の予防にどの程度の効果をもたらすか。
方法:
デザイン:
縦断的研究
対象:
2010年生まれの小児38,554人
衛生教育の調査:
3歳半時に、子どもの手洗いやうがいに関する衛生教育の情報を収集した。
呼吸器感染症(RTI)発症の評価:
4歳半時と9歳時の2回に調査した。
調査前の12ヵ月間に、気道感染やインフルエンザを発症し、
医師の診察を受けて診断されたかどうかを、保護者の申告に基づいて評価した。
解析:
ロバスト分散を用いたポアソン回帰を行った。補足分析では世帯収入による層別化を行った。
結果:
- 対象者を衛生教育の内容により分類した結果、以下のようになった:
- 手洗い・うがい群:38%
- 手洗い群:29%
- うがい群:0.1%
- 教育なし群:9.7%
- 無回答群(23%)とうがい群(0.1%)は解析から除外された。
- 衛生教育は、4歳半時のインフルエンザ発症の減少と関連していた。
具体的には、以下のようになった(教育なし群との比較):- 手洗い群:調整後RR (aRR) =0.8、95%信頼区間 (CI) :0.8-0.9
- 手洗い・うがい群:aRR=0.8、95%CI:0.8-0.9
- しかし、以下は有意な結果は得られなかった。
- 4歳半時と9歳時での気道感染発症
- 9歳時でのインフルエンザ発症
- 3歳半から9歳までの入院の予防効果
- 手洗いとうがいは、低所得世帯においてインフルエンザを有意に予防することが示された(aRR = 0.7、95% CI:0.6-0.8)
結論:
日本におけるうがい教育は普及しており、その大部分は手洗い教育と併せて行われている。
特に低所得世帯において、衛生教育は4歳半時のインフルエンザ感染の予防に有意な効果を示していた。