★で始まるブログは一部医療従事者向けの内容を含みます。詳しくは「このサイトについて」をごらんください。

★血圧が高いと難聴になりやすいのか?

 普段何気なく音や声を聞いている耳ですが、聞こえにくくなると日常生活で様々な不都合が出てきます。

「最近、妻の言っていることが聞き取れなくて、ケンカばかりしています」
「家族からテレビの音が大きいって言われるんです」

 高齢になると耳が聞こえづらくなって、耳鼻咽喉科に来られる方が多くおられます。

 聞こえづらくなったのは「年のせい」だけなのでしょうか。
 大きい音を長い間聞いていると難聴になりやすいのは以前からよく知られており、騒音性難聴と言われます。
 このように原因がはっきりしている難聴もありますが、難聴の原因はまだよくわからないことばかりです。

 248人の男女をおよそ25年間追跡したアメリカで行われた研究では、中年期に血圧が高い人は、晩年に難聴になりやすいという結果でした。

 この研究の結果だけで決めつけることはできませんが、「血圧が高いと動脈硬化が進んで、耳の細かい血管の血の巡りが悪くなり、聞こえの細胞を障害し、難聴を悪化させる」と言われています。

 難聴も生活習慣病の1つと思ってもよいかもしれません。

 食生活や適度な運動に心がけて、よく聞こえる耳で長生きしましょう。

 

今回参考にした論文は、
Reed NS, et al. Association of Midlife Hypertension with Late-Life Hearing Loss. Otolaryngol Head Neck Surg. 2019;161(6):996-1003.
doi: 10.1177/0194599819868145
です。

Research Question:

 中年期の高血圧が、晩年の聴力低下に影響を与えるかを調べる。

方法:

 対象:
  メリーランド州ワシントン郡在住の67歳〜89歳(2013年時点)の男女248名
 血圧の測定:
  1987〜2013年の間に5回血圧を測定
   visit 1 (1987-1989年)、visit 2 (1990-1992年)、visit 3 (1993-1995年)、
   visit 4 (1996-1998年)、visit 5 (2011-2013年)
  高血圧の定義:
   収縮期血圧(SBP)≧140mmHgあるいは拡張期血圧(DBP)≧90mmHg
   あるいは降圧薬内服
 聴力の測定:
  2013年に測定
  中等度以上難聴の定義:良聴耳の4周波数(0.5-4kHz)平均聴力(dBHL)
   ※5周波数(0.5-8kHz)のそれぞれの聴力閾値も解析した。
 統計解析:
  ・visit 1およびvisit 5での高血圧の有無とvisit 5での中等度以上難聴の有無
   との関連を多重ロジスティック回帰分析で推定した。
  ・visitごとのSBPおよびDBP、visit 5での平均聴力との関連を重回帰分析で
   推定した。
  ・visit 5での周波数ごとの聴力閾値と高血圧との関連は線形混合モデルを
   用いて推定した。
  ・モデルは年齢、職業(騒音曝露の有無)、性別、喫煙、糖尿病の有無
   によって調整された。

結果:

  • コホート248名のうち、visit1の時に47名(19%)が高血圧、visit5の時に183名(74%)が高血圧であった。
  • 中等度以上難聴のリスクを推定するオッズ比は、「visit 1で高血圧あり」で1.67 [0.82-3.40]、「visit 5で高血圧あり」で1.81 [0.89-3.66]であった。
  • SBPと聴力閾値との間には中年期visit1〜3でのSBPにおいて正の相関があった
    SBP 10mmHgあたりの聴力閾値の上昇は
     visit 1 1.43 dBHL [0.32 – 2.53]
     visit 2 0.99 dBHL [–0.04 – 2.03]
     visit 3 1.10 dBHL [0.07 – 2.14]
     visit 4 0.44 dBHL [–0.63 – 1.52]
     visit 5 –0.43 dBHL [–1.41 – 0.55]   であった。
    DBPも同じような傾向があったが、有意ではなかった。
  • 周波数別に見ると、visit 1での高血圧は、1kHz、4kHz、8kHzの聴力閾値上昇と有意に関連していた。
    高血圧がある場合の閾値上昇は、それぞれ
     1 kHz 3.4 dBHL [0.7-6.1]
     4 kHz 7.7 dBHL [2.4-12.9]
     8 kHz 9.0 dBHL [3.1-14.9]   であった。
  • 本研究においては、「降圧薬の使用」は有意な因子ではなかった。
  • []内は95%信頼区間。
  • 本研究のlimitation
     ・単一施設の白人のみのコホートである。
     ・聴力検査をvisit 5の1回しか行っていない。
     ・高血圧の人は、コントロールと比べて早期に死亡している可能性が
      ある。

結論:

 中年期にSBPが高いことと、25年後の聴力低下には関連があった。
 中年期の血圧上昇は、高齢者の難聴の危険因子である可能性がある。

2件のピンバック

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)