朝起きたとき、男性の方ならヒゲをそると思います。女性の方はお化粧をするでしょう。
そんなとき、顔だけではなく首も触ることがあるかもしれません。そんなとき、首にコリッっとしたものが触れたらちょっとドキッとしますよね。
「癌になったのではないか、悪い病気ではないか」と心配になり、耳鼻咽喉科の外来に来られる方もおられます。
今日は、首のしこりの診断についてのお話です。
首にしこりが出来たらどうする?
首にしこりができていることに気づいたら、どうしたらよいでしょうか。
強い痛みがあればすぐに病院を受診するかもしれませんが、そうでなければまずは2〜3日様子をみるのでも大丈夫です。数日で消えてしまうしこりは問題ないことがほとんどだからです。
数日待ってもしこりが消えない場合には、耳鼻咽喉科を受診してください。
なぜ耳鼻咽喉科なのか?については、以前このブログで書きましたので、ぜひお読み下さい。
腫れているリンパ節の診断法
上記の記事にも書きましたように、首にしこりができたときに明らかに癌が疑わしい場合には、むやみやたらに切開してしこりを取るようなことはしません。癌がまわりの組織や皮膚にばらまかれてしまう恐れがあるからです。そのような場合には、針を刺して細胞を取る検査をしたりします。
もし癌ではなさそうだけど、リンパ腫だとか結核などのように放ってはおけない病気が疑われるときにはどうするのでしょうか。そのような場合には、皮膚を切開して、リンパ節の一部を切除して、顕微鏡で調べる検査(生検)を行います。
かといって、とにかく腫れている人全員に生検を行えばよいかというと、それは乱暴な判断です。
なぜなら、首のしこり(リンパ節の腫れ)の多くは、特に治療をしなくても良くなっていったり、薬を少し飲めば良くなってしまうからです。そんな人の首にわざわざメスを入れて生検をするのは、あまり薦められません。
どんな人に生検をすべきかは、医師が診察をして判断しなければなりません。
生検を行う判断基準は?
下にあげた論文は、腫れているリンパ節を診たときに、どんな人に生検を行うべきかを調べた研究です。
この論文より前に海外で行われた研究で、Zスコアというのが作られました。それによると、
- 40歳以上
- 痛みがない
- リンパ節が大きい
- 全身のかゆみがある
- 鎖骨の上のリンパが腫れている
- リンパ節が硬い
という要素があると、スコアが高くなり、生検をしたほうがよいと判断されます。
これを日本の患者にもあてはめてみたところ、海外とは若干異なることがわかりました。それは、海外と日本ではリンパ節が腫れる病気の種類や頻度が異なるからではないかと考察されています。
しかし日本においても感度は高かったので、スクリーニングには使えそうですね。つまり、Zスコアが0以下であったら、生検の必要性はかなり低そうです。
Zスコアを計算するフォームを作ってみました。試しにいじってみて下さい。
今回参考にした論文は、
Tokuda Y, et al. Assessing the validity of a model to identify patients for lymph node biopsy. Medicine (Baltimore). 2003; 82(6): 414-8.
doi: 10.1097/01.md.0000100047.15804.b6.
です。
Research Question:
リンパ節腫脹に対して生検を行うべきかを判断するスコアモデルが日本の患者にあてはまるか。
方法:
デザイン:
スコアモデルの検証
対象:
1999年から2001年の間に沖縄中部病院を受診した
触知可能なリンパ節腫脹を認めたすべての成人患者
使用するスコア(モデル):
VassilakopoulosとPangalisによる多変量モデル (感度97%、特異度91%)
Zスコアが1以上であれば生検が必要、1未満であれば生検は不要
a: 年齢 40歳以下 = 0、40歳以上 = 1
b: 触診での圧痛 無し = 0、有り = 1
c: 最大リンパ節の大きさ:<1.0cm2 = 0、1.0~3.99cm2 = 1、
4.0~8.99cm2 = 2、≧9.0cm2 = 3
d: 全身の掻痒感 無し = 0、有り = 1
e: 鎖骨上リンパ節腫脹 無し = 0、有り = 1
f: 硬さ 軟 = 0、弾性硬 = 1
診断:
患者は、病理組織学的診断または臨床診断によって、2つのグループに分類された。
非生検群:正常リンパ節、反応性リンパ節炎、非特異的炎症性リンパ節
生検群:悪性リンパ節、肉芽腫性リンパ節
猫ひっかき病(外科的治療につながる可能性があるため)
解析:
ROC曲線を作成して評価した。
結果:
- 対象の166名のうち15名はデータが欠損していたため除外し、151名のデータを用いた。
- 年齢の中央値は31歳(範囲: 15~90歳)であった。
- 生検群は39名であり、うち27人(73%)でリンパ節生検が行われた。非生検群は112名であり、うち12人(10%)でリンパ節生検が行われた。
- 36人(23.8%)は生検で悪性疾患を認めた。また肉芽腫性疾患は認められなかった。
- Zスコアモデルを当てはめ、カットオフ値を元のモデルと同じ1とした場合、感度は94.7%であったが、特異度は56.3%と相対的に低くなった。ROC曲線の曲線下面積は0.89(95%信頼区間: 0.83-0.95)であった。陽性的中率は38/87(43.7%)、陰性的中率は63/64(98.4%)であった。
(1より大きなカットオフ値を採用すると、特異度は高められたが感度は低下した。) - 非生検群112 名のうち、Zスコアモデルは 50 名(45%)を誤って生検群に割り当 てた。この50名のうち、45名は非特異的リンパ節腫脹、3名は菊池病、1名は伝染性単核球症、1名は膠原病であった。
- 一方、生検群39人のうち、Zスコアモデルが誤って非生検群に割り当てたのは1名(3%)だけであった。この患者は猫ひっかき病で、生検後は保存的治療で回復した。
結論:
沖縄の日本人集団で行われた今回の研究では、Zスコアモデルは感度は高かったが、特異度が低かった。これは、リンパ節腫脹の原因となる臨床像が元のモデルを作成した集団と異なることに関連していると考えられる。