「ルージュの伝言(松任谷由実)」や「Rock’n Rouge(松田聖子)」など歌の題名にも出てくるルージュですが、実はフランス語で「赤色」という意味なのだそうです。
そうすると、この記事の題名にある「赤いルージュ」は「赤い赤色」になってしまうんですね。まあ、日本語では「ルージュ」=「口紅」として使われていますけど…。
それはさておき、今回は女性の皆さんが日々使っているルージュをはじめとした化粧品とアレルギーの関係について取り上げてみたいと思います。
化粧品や食品に含まれている赤色色素の正体
今回取り上げるのはコチニール色素という赤い色素です。口紅やアイシャドウなどの化粧品のみならず、食品や飲料、医薬品などの赤色色素として世界的に使われているものです。
赤色を発色させる主な成分はカルミンと言われますので、成分表にはコチニールと書かれてある場合もあれば、カルミンと書かれている場合もあります。
(カルミンは、中学校のとき顕微鏡で細胞を見る時に細胞を染めるのに使った酢酸カーミン溶液のカーミンと同じです。)
実はこのコチニール色素は、中南米原産のサボテンに寄生するコチニールカイガラムシ(Dactylopius coccus)やその仲間のメスを乾燥させて抽出したものなのです。
(*゚Д゚)エ゛ーーーー、虫なのーーーー!と思われた方も多いかもしれませんが、この虫は別名エンジムシと言われて、アステカ文明やインカ帝国の時代から養殖されて染料として使われてきた歴史の長いものなのです。
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どうやら、コチニール色素がアレルギーを引き起こす原因(抗原)は色素そのものではなく、この虫由来のタンパク質のようです。
食物アレルギーの原因は皮膚から入り込む?
ではこのコチニール色素がどのようにしてアレルギーを引き起こすのでしょうか?
それは、コチニール色素を含んだ飲食物を摂取したことによる食物アレルギーなのだそうです。しかもその食物アレルギーがとても強い反応をおこしてアナフィラキシーにまで至る例が多く報告されています。アナフィラキシーとは食物アレルギーによる腹痛や嘔吐のみならず、全身に皮疹が出たり、ゼーゼーして呼吸しづらくなったり、血圧が下がって生命に危険が及ぶような状態になることを言います。
しかし、コチニール色素を含んだ飲食物を摂取していても、アレルギーが起きる人と起きない人とがいます。
では、アレルギーが起きる人はどういうメカニズムでそのようになってしまうのでしょうか?
それは、皮膚からコチニール色素が入り込んで感作(アレルギーを起こしやすい状態になること)が起こると言われています。これを経皮感作といいます。
通常の丈夫な皮膚は、皮膚バリアがしっかりしているので、そう簡単に経皮感作はおこりませんが、アトピー性皮膚炎などで湿疹があると皮膚バリアが脆弱になり、経皮感作が起こりやすくなります。
コチニール色素アレルギーの場合でしたら、口紅などの化粧品を皮膚に塗っていたところ、何らかの理由で皮膚を通じて色素の成分が入り込み、経皮感作を起こしてしまいます。そして、そんな人がコチニール色素で着色された飲食物を食べたときに、食物アレルギーが起きてしまうのです。
日本におけるコチニール色素アレルギー
下に示した論文は、日本で報告されたコチニール色素アレルギーの症例を集めて研究したものです。
それによると、28名の患者の全員が化粧品を使う成人女性でした。これらの人がみんな皮膚バリアが脆弱なアトピー性皮膚炎だったわけではありませんが、アトピーでなくても口紅などの化粧品は皮膚と粘膜の境界付近に塗られることも多いため経皮感作しやすいのではないだろうか、とこの論文では考察されています。
では、何を食べて発症したのかというと、日本製品では主に魚肉ソーセージやイチゴミルク・イチゴジュースだったそうです。また海外製品ではカンパリ(赤いお酒)やフランス製のマカロンが多かったそうです。
このようなコチニール色素によるアレルギーが報告されるようになってからは、各国でコチニール色素に対する注意喚起がなされるようになりました。
欧州(EU)では、2000年にコチニール色素を使用したものにはアレルギーの可能性を表示することが義務づけられました。そしてカンパリへの使用は2007年に禁止されました。またアメリカでは2011年に食品や化粧品にコチニール色素が含まれているかどうか表示をするように規則が変更されました。
日本においては、2011年に消費者庁から注意喚起の文章がでました。日本の法律では、コチニール色素を食品添加物として使える量は2.2%未満に制限されており、カルミンについては化粧品や医薬品には使用出来ますが、食品添加物としては使用できなくなっています。
また最近は、コチニール色素をアレルギーが起こしにくいように処理を施したものを使用したり、別の色素で代替するようになってきています。
女性の皆さんは化粧品を選ぶとき、ぜひ一度は成分表を見てみられることをお勧めします。
今回参考にした論文は、
Takeo N, et al. Cochineal dye-induced immediate allergy: Review of Japanese cases and proposed new diagnostic chart. Allergol Int. 2018; 67(4): 496-505.
doi: 10.1016/j.alit.2018.02.012
です。
Research Question:
日本におけるコチニール色素による即時型アレルギー症例を分析し、診断法について調査する。
方法:
デザイン:
症例集積研究
対象:
過去の報告例
18年間(1999~2016年)に報告されたコチニール色素による即時型アレルギーの
日本人全症例を、医中誌およびPubMedから抽出した。
新規症例
2014年〜2016年にレジストリーに登録されたコチニール色素による即時型アレルギー症例
検討した検査法:
新規症例に対して、皮膚プリックテスト(SPT)、コチニールエキスおよびカルミン特異的IgE測定を行った。
それで診断が付かない場合にはコチニール色素含有食物の経口負荷試験を行った。
抗原蛋白の検出法:
二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D-PAGE)およびウェスタンブロッティング
結果:
- 過去の報告例は22例であり、全例が女性であった。
- 新規症例は7例であり、うち女性が6例であった。
- 過去の報告例において検査法が検討できたのは5例であった。
- 5例中4例でSPTが行われ、3例が陽性であった。
- 5例中5例で特異的IgEがclass2以上(陽性)であった。
- 新規症例7例でも検査法を検討した。
- 7例中6例でSPTが行われ、5例が陽性であった。
- 7例中4例で特異的IgEがclass2以上(陽性)であった。
- 特異的IgEが陰性で、SPT陽性例が1例あった。
- 特異的IgEが陽性で、SPT陰性例が1例あり、経口負荷試験を行ったが陰性であったため、この症例についてはコチニール色素アレルギーとは診断されなかった(唯一の男性症例)。
- 結果的にコチニール色素アレルギーと診断されたのは7例中6例でありすべて女性であった。
- 健常者ボランティア10名の結果は以下の通り。
- SPTは全員陰性であった。
- 特異的IgEは9名が陰性で、1名のみclass2であった。
- コチニール色素アレルギーと診断されたのは全例成人女性(20〜60歳代)で、3例を除きアナフィラキシーを呈した。13例は化粧品使用による局所症状の既往を有していた。
- 症例のうち10例はアレルギー性疾患の既往があり、うち5例はアトピー性皮膚炎の既往があった。
- 主なアレルゲンは、日本のイチゴジュース、魚肉ソーセージ、ヨーロッパの加工食品や飲料(特にフランス製のマカロン)であった。
- 2Dウェスタンブロッティングにより、患者のIgEは主に38kDaタンパク質に反応することが示された。健常者の血清もこれらの蛋白と弱く反応した。
結論:
日本におけるコチニール色素アレルギー患者を解析した。それを元に診断のフローチャートを作成した(下図)。