コロナ一色で終わったように感じられる2020年ももう終わりになりますが、年が明けて温かくなればスギ花粉症の季節になります。
スギ花粉症の人は年々増えてきており、最近の調査によれば日本人の半数近くはスギ花粉症になっていると言われています(鼻アレルギー診療ガイドライン2020)。
コロナがまだ収まっていないうちに花粉症シーズンになってしまうかもしれませんので、できるだけ花粉症の症状であるくしゃみ、鼻水を抑えたいですよね。
スギ花粉症の標準的な治療法とは
スギ花粉症に対する標準的な治療法については、推奨される治療が重症度別にガイドラインに示されていますが、おおざっぱにいうと以下の通りです。
- スギからできるだけ回避する(マスクやゴーグル着用、帰宅時に花粉を払うなど)
- 抗ヒスタミン薬などの内服治療(最近は貼り薬もあります)
- 鼻噴霧ステロイド薬などの点鼻治療
- 鼻の粘膜をレーザーで焼く治療
これらの治療は対症療法ですが、舌下免疫療法というアレルギーの体質を改善させる根本的な治療もあります。
これらの治療の詳細については、拙著「あんしん健康ナビ 花粉症・アレルギー性鼻炎」を是非ごらんください。
実は、昨年から新たに重症のスギ花粉症にできるようになった治療法がありますので、少し紹介したいと思います。
重症スギ花粉症とは
では、重症のスギ花粉症とはどのような人をいうのでしょうか。
重症度はくしゃみ、鼻水、鼻づまりの3つの症状別に、以下の表のように決められています。
3つの症状のうち、一番重症な症状を重症度に採用します。例えば、くしゃみが中等症、鼻かみが重症、鼻づまりが軽症なら、重症となります。
最重症 | 重症 | 中等症 | 軽症 | 無症状 | |
くしゃみの回数 (1日あたり) | 21回以上 | 20〜11回 | 10〜6回 | 5〜1回 | 0回 |
鼻をかむ回数 (1日あたり) | 21回以上 | 20〜11回 | 10〜6回 | 5〜1回 | 0回 |
鼻づまりの程度 | 一日中完全に つまっている | 鼻づまりがひどく、 かなりの時間口呼吸 | 鼻づまりがひどく、 ときどき口呼吸 | 鼻はつまるが、 口呼吸はない | なし |
まとめますと、重症以上のスギ花粉症は、「1日のくしゃみあるいは鼻かみの回数が11回以上」あるいは「鼻づまりがひどく1日中、あるいはかなりの時間口呼吸をしている」場合を言います。
重症スギ花粉症に対する抗体治療とは
昨年から重症のスギ花粉症に対して使うことができるようになった治療は、オマリズマブという抗体を注射する治療です。これはあくまでも対症療法です。
オマリズマブというのは抗IgE抗体といって、アレルギー症状の原因となるIgEの働きをブロックする抗体です。元々、重症の気管支喘息やじんま疹に対して使われていた薬ですが、昨年から重症のスギ花粉症にも使えるようになりました。
IgEは肥満細胞などの細胞の表面にくっつきます。さらにそこに花粉がやってくると花粉の抗原がIgEにくっつきます。すると、その刺激で肥満細胞からヒスタミンなどの化学物質が放出されます。それが花粉症の症状を引き起こすのです。
オマリズマブによってIgEの働きをブロックすれば、ヒスタミンなどの化学物質が放出されにくくなり、花粉症の症状は和らぐのです。
下に示した論文は、オマリズマブがスギ花粉症に使えるようになるきっかけとなった臨床試験です。
標準治療に追加してオマリズマブを投与することにより、重症の花粉症の症状が和らぐことが示されました。
ただし注意が必要なのは、オマリズマブは薬価の高い薬ですので、むやみやたらに使えないということです。重症でかついろいろな条件を満たした患者さんにだけ使うことができます。かかりつけの耳鼻咽喉科医にご相談ください。
詳細は当院のホームページに書きましたので、下のリンクをご参照ください。
今回参考にした論文は、
Okubo K, et al. Add-On Omalizumab for Inadequately Controlled Severe Pollinosis Despite Standard-of-Care: A Randomized Study. J Allergy Clin Immunol Pract. 2020; 8(9): 3130-3140.e2.
doi: 10.1016/j.jaip.2020.04.068.
です。
Research Question:
スギ花粉症に対して、標準治療にオマリズマブを追加した効果を検証する。
方法:
デザイン:
第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験
(年齢層、通年性アレルギー性鼻炎の併存、投与頻度、初回投与時の症状の有無による
層別ブロック無作為化)
実施期間:
2017年12月から2018年10月
対象:
東京都内および近郊の22施設における、
重症スギ花粉症のコントロールが不十分な患者(12歳以上75歳未満)
(過去2シーズンに鼻噴霧ステロイド薬と1種類以上の内服薬を併用したにもかかわらず
症状のコントロールが不十分だった患者)
介入:
介入群:標準治療+抗IgE抗体(オマリズマブ)
対象群:標準治療+プラセボ
※標準治療:抗ヒスタミン薬(フェキソフェナジン)+鼻噴霧ステロイド薬(プロピオン酸フルチカゾン)
※レスキュー薬として、塩酸トラマゾリン点鼻および塩酸レボカバスチン点眼を使用した。
評価項目:
主要評価項目:症状ピーク時の平均鼻症状スコア
副次的評価項目:平均眼症状スコア、レスキュー薬スコア、鼻症状の無症状の日数
QoL(Quality of Life:JRQLQ No.1 part IIで評価)、安全性
解析:
分散分析モデルを用いて、平均鼻症状スコアを治療群間で比較した。
結果:
- 介入群に162名、対照群に175名、計337名が無作為に割り付けられ、最終的に330名(97.9%)が治療を終えた。
- 患者のスギ花粉症の平均罹患期間は15年以上であった。
- 患者の約50%がヒノキ花粉症を合併しており、35%が通年性アレルギー性鼻炎を合併していた。また、前シーズンの重症度は、約60%が最重症、約40%が重症であった。
- 介入群では、対照群と比較して、鼻症状スコア(最小二乗平均差: -1.03、P < 0.001)および眼症状スコア(最小二乗平均差:-0.87、P < 0.001)がいずれも統計学的に有意かつ臨床的に有効な程度の改善を認めた。
- 症状ピーク時の最重症と重症の日数の合計割合は、介入群の方が対照群よりも低かった(最重症、2.4%日 vs 12.3%日;重症、10.5%日 vs 17.4%日)。
- 鼻の無症状日数の中央値も、介入群が対照群よりも長かった(15.0日 vs 10.0日)。
- 鼻症状および眼症状スコアの小項目(くしゃみ、鼻汁、鼻閉、目のかゆみ、涙目)のスコアの差もそれぞれ同様に有意な改善を認めた。
- 症状ピーク時の鼻および眼に対するレスキュー薬の平均スコアは、介入群は対照群と比較してそれぞれ減少した(最小二条平均±標準誤差 鼻:0.20±0.024 vs 0.28±0.023、眼:0.46±0.029 vs 0.54±0.027)。
- QoLスコア(JRQLQの総合スコアの平均値)においても介入群は対照群と比較して有意に改善した(最小二乗平均差[95%CI]:-0.51 [-0.69, -0.33])。
- 予期せぬ有害事象は観察されなかった。
結論:
重症スギ花粉症患者において、オマリズマブを標準治療に追加することにより、症状やQoLの改善に一貫した効果が認められ、忍容性も良好であった。
これにより、オマリズマブが重症スギ花粉症に対する有望な治療選択肢となりうることが示された。