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★高齢者の嗅覚障害は死亡率と関連があるのか?

 耳の聞こえや目の見え方と比べると、同じ五感なのに、においについては結構無頓着な方もあるかもしれません。

 しかし、いざにおいが分からなくなると、「こんなにも私たちはにおいに頼って生きていたのか」と思うのではないでしょうか。
 冷蔵庫の食材が腐ったかどうかは、においがわからないと判別できません。
  

 また、「風味」と言われるように、においは味の一部とも言えます。鼻をつまんで食べると味気ないですよね。においの無いカレーなんて考えられません。美味しく食事が食べられるのも、においのおかげです。
  

 においが分かりづらくなったことを「嗅覚障害」と言います。

 最近、よく言われるようになりましたが、嗅覚障害は、パーキンソン病やアルツハイマー病などの早期症状の場合があると言われています。原因がわからず、においがわかりにくい症状が続いていた人が、じつはパーキンソン病やアルツハイマー病だったということがあるということです。

 たかがにおい、されどにおいです。

 下に示した論文は、高齢者の嗅覚障害が、その後の死亡率と関連があるかを調べたものです。
 生来健康であった高齢者に嗅覚障害があった場合、嗅覚障害がない人と比べるとその10年後の死亡率は高かったそうです。
 では、その死亡率に関連のある要素は何があるかと調べてみると、大きな関連ではありませんでしたが、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患であることと、体重が減少したことの2つで関連性があったそうです。

 いい鼻で、いいにおいを嗅いで、健康な生活を送りましょう。

 もし、においで気になることがあれば、耳鼻咽喉科を受診してください。

 

今回参考にした論文は、
Liu B, et al. Relationship Between Poor Olfaction and Mortality Among Community-Dwelling Older Adults: A Cohort Study. Ann Intern Med. 2019; 170(10): 673–681.
doi: 10.7326/M18-0775
です。

Research Question:

 高齢者の死亡率と嗅覚障害との関連を評価し、潜在的な因子を調べる。

方法:

 デザイン:
  アメリカの2つの地域を対象とした後ろ向きコホート研究
 対象:
  1999年または2000年時点(ベースライン時)で71〜82歳の成人 2289名
   (内、アフリカ系アメリカ人 37.7%、女性 51.9%)
 評価項目:
  ベースライン時の簡易嗅覚検査 (Brief Smell Identification Test)
  その3年後、5年後、10年後、13年後の全原因死亡率および原因別死亡率

結果:

  • 追跡期間中、2289名中、1211人が13年目までに死亡した。
  • 嗅覚の良い群と比較して、嗅覚低下のある群は、以下の死亡累積リスクが高かった。[]内は95%信頼区間。
    • 10年目の死亡累積リスクが46%高い(リスク比:1.46 [1.27-1.67])
    • 13年目の死亡累積リスクが30%高い(リスク比:1.30 [1.18-1.42])
  • この結果は、性別や人種により違いはなかった。
  • ベースライン時に健康状態がとても良好(excellent)または良好(good)であると報告したグループでは、嗅覚の良い群と比較して、嗅覚低下のある群は死亡累積リスクが高かった。(ex.: 10年目の死亡リスク比が1.62 [1.37-1.90])
    一方、ベースライン時に健康状態がまずまず(fair)または不良(poor)であると報告したグループでは死亡累積リスクに明らかな差はなかった。(ex.: 10年目の死亡リスク比が1.06 [0.82-1.37])
  • 原因別死亡率の解析では、嗅覚の悪さは神経変性疾患および心血管疾患による死亡率の増加と関連していた。
  • 媒介分析では、嗅覚低下のある群における10年死亡率の上昇との関連を、神経変性疾患で22%、体重減少で6%説明できた。
  • Limitation: 嗅覚の変化と死亡率との関係についてのデータは収集されなかった。

結論:

 嗅覚低下は、高齢者、特にベースライン時の健康状態が良好な人の長期死亡率の上昇と関連している。
 媒介分析の結果、「神経変性疾患」と「体重減少」は死亡率の増加の一部を説明しているに過ぎない。

媒介分析については、私は不勉強なので、こちらのブログにリンクを
 はらせていただきます。

因果効果のメカニズムを検討する:媒介分析(Causal Mediation Analysis)入門①~既存の手法の問題点~ – Unboundedly

お久しぶりです。無事に博士課程の進級試験(qualifying exam)を通過しましたので、ようやく長かった二年間のコースワーク期間が終わりました。まだ口頭試験がありますが、これからやっと研究に集中できるフェーズに入ります。同時に時間にも余裕ができてきたので、ブログ活動を再開します。 さて、今回は 媒介分析(”causal” mediation analysis) …

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