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★続報:嗅覚・味覚障害と新型コロナウイルス感染との関連

 連日報道されていますように、新型コロナウイルス感染は全国各地で拡大しており、まだ落ち着く気配をみせていません。
 先日もこのブログで、新型コロナウイルスと嗅覚・味覚障害の関連について紹介しましたが、その続報が出てきましたのでご紹介します。

 その前に、念を押しておきます。

嗅覚・味覚障害が出てもあわてない

 においが分かりづらい、味がわかりづらいという症状が出ても、焦って病院に受診する必要はありません。
 余計に感染を広げてしまい、自分も周りの人も損をしてしまいます。

 詳しいことは先日のブログ記事をごらんください。

★においが分からなくなったら新型コロナ感染なの? | 耳鼻咽喉科医の独り言

野球選手が新型コロナウイルスに感染した時に、 嗅覚障害や味覚障害の症状があったと報道されました。 感染が拡大しているイタリアからの 報告でも、新型コロナウイルスで入院している59名の患者のうち、 およそ1/3の20名が味覚あるいは嗅覚障害 を自覚していたそうです。 ……

新型コロナウイルス感染症の嗅覚・味覚障害の特徴

 下に紹介した論文は、ヨーロッパの5カ国、13施設の共同研究です。

 新型コロナウイルス感染症と判明した患者のうち、急性の感染症状(発熱、咳など)がなかった患者は65%もいたそうです。一方、嗅覚障害や味覚障害はそれぞれ8割以上の患者で認められました。
 また全身症状が出る前に嗅覚・味覚障害があった患者は12%ありました。
 つまり、嗅覚・味覚障害が新型コロナウイルスの初期症状であったり、単独の症状の場合もあるということです。

 それらの嗅覚障害は、その他の全身症状が落ち着いた後も続くことが多いですが、そのおよそ7割は全身症状が落ち着いた後8日以内に治まったそうです。

 また、嗅覚・味覚障害は、単ににおいや味が分かりづらくなる症状だけでなく、中にはにおいや味がおかしい(違ったにおいや味に感じる)という症状もあるようです。

 繰り返しますが、においが分かりづらい、味がわかりづらいという症状が出ても、焦って病院に受診する必要はありません。
 冷静な受診行動をお願いいたします。

 

今回参考にした論文は、
Lechien JR, et al. Olfactory and Gustatory Dysfunctions as a Clinical Presentation of Mild to Moderate forms of the Coronavirus Disease (COVID-19): A Multicenter European Study. accepted for publication in Eur Arch Otorhinolaryngol
PDFはこちら
です。

Research Question:

 COVID-19患者の症状としてあらわれる嗅覚・味覚障害の特徴を調査する。

方法:

 デザイン:
  後ろ向きコホート研究
 対象:
  PCRでCOVID-19感染が確認された患者
  (18歳以上、軽症・中等症で集中治療を必要としない患者)
  ベルギー、フランス、スペイン、イタリア、ドイツの13施設多施設研究
 調査法:
  直接診察、あるいは自宅安静者にはオンラインアンケートや電話を用いた。
  アンケートの内容は「国際耳鼻咽喉科学会連合会の若手耳鼻咽喉科医
  (YO-IFOS)のCOVID-19タスクフォース」が作成した。
  アンケートは
   ・4つの一般質問(年齢、性別、民族、診断日)
   ・3つの一般臨床質問(COVID-19感染に伴う合併症、一般症状、
    耳鼻咽喉科症状)
   ・嗅覚機能に関する7つの質問
   ・味覚機能に関する4つの質問
   ・COVID-19感染症の治療に関する1つの質問
  から構成されている。
  Questionnaire of Olfactory Disorders-Negative Statements (sQOD-NS)
  にも回答してもらった。
 症状の評価:
  嗅覚の回復期間を1-4日、5-8日、9-14日、15日以上の4段階で評価した。
  短期嗅覚非回復率は「発症して14日以上経っている」あるいは
  「全身状態が無くなっている」状態で嗅覚が改善していない率とした。

結果:

  • 患者は417名(女性 263名、男性 154名)。
    平均年齢は36.9±11.4歳(範囲:19〜77歳)。
    民族はヨーロッパが93%を占め、南米、北アフリカ、サハラ以南のアフリカ、アジア、北米も含まれた。
  • COVID-19発症から評価までの平均時間は9.2±6.2日であり、評価時点で34.5%がCOVID-19の急性症状があり、それ以外は全身症状を呈していなかった。
  • 嗅覚障害
    • 嗅覚障害は375例(85.6%)。そのうち、嗅覚脱失は284例、嗅覚低下は73例
    • 経過中、異臭症が12.6%、錯臭症が32.4%で認められた。
    • 嗅覚障害の出現時期は、全身症状や他の耳鼻咽喉科症状が出現する前が11.8%、出現後が65.4%、出現と同時が22.8%であった。
    • 臨床的に感染が治癒した(全身症状および他の耳鼻咽喉科症状がない)247例において、治癒後も嗅覚障害は63.0%で持続していた。
    • 臨床的に感染が治癒した59例で評価した短期嗅覚回復率は44.0%であった。嗅覚機能の回復を報告した患者の72.6%が、臨床的に感染が治癒した後8日以内に嗅覚機能が回復した。
    • 鼻閉や鼻漏を発症しなかった例は76例(18.2%)であった。そのうち、嗅覚障害を認めなかったのは20.3%で、嗅覚脱失は66.2%、嗅覚低下は13.5%であった。
    • 評価時に嗅覚脱失を自覚している患者は、嗅覚低下および正常嗅覚の患者と比較して、sQOD-NSスコアが有意に低かった(p=0.001)。
  • 味覚障害
    • 味覚障害は342 例(88.8%)
    • 味覚患者のうち、78.9%は味覚低下・味覚脱失、21.1%は異味症であった。
    • 味覚障害のない43人のうち、嗅覚障害のない患者は19人(44.2%)であったが、嗅覚機能障害のある患者は20人であった。
  • 嗅覚障害および味覚障害は、72.8%の患者では症状に変化がなかったのに対し、23.4%の患者では変動していた。
  • 臨床的に感染が治癒した患者で、嗅覚や味覚障害が残存していた患者のうち、53.9%が嗅覚障害のみ、22.5%が味覚障害のみ、23.6%が嗅覚・味覚障害を有していた
  • 嗅覚障害と味覚障害との関連
    • 既往・合併症と嗅覚・味覚機能障害の発現との間には有意な関連はなかった。
    • 嗅覚障害は鼻漏や鼻閉と有意な関連はなかった。
    • 嗅覚障害と味覚障害の間には有意な正の関連が認められた(p<0.001)。
    • 発熱と嗅覚障害発生との間に有意な関連が認められた(p=0.014)。
    • 女性は男性に比べて嗅覚障害の影響を受けていた(p<0.001)。味覚障害についても同様の結果が得られた(p=0.001)。

結論:

 嗅覚障害、味覚障害のいずれもCOVID-19の臨床症状として、他の症状がなくても起こりうる。
 突然の嗅覚・味覚異常はCOVID-19の重要な症状として認識されるべきである。

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