緊急事態宣言も徐々に解除され、自粛も少し緩んできているかもしれませんが、第2波がやってくるかもしれず、まだ油断は出来ません。
今回は、イギリスとアメリカで行われたスマホを用いたビッグデータ研究をご紹介します。
新型コロナウイルス感染の症状
新型コロナウイルス感染の主な症状には、発熱、咳、ひどい倦怠感、呼吸困難などが挙げられています。
以前ブログでも書きましたが、嗅覚や味覚の障害も症状の一つと言われており、注目されています。
★続報:嗅覚・味覚障害と新型コロナウイルス感染との関連 | 耳鼻咽喉科医の独り言
連日報道されていますように、新型コロナウイルス感染は全国各地で拡大しており、まだ落ち着く気配をみせていません。 先日もこのブログで、 新型コロナウイルスと嗅覚・味覚障害の関連 について紹介しましたが、その続報が出てきましたのでご紹介します。…….
発症を予測する症状は?
下に示した論文は、250万人近くのイギリス人、アメリカ人からスマホアプリを利用して収集したビッグデータを用いた調査です。
アプリを利用した人の中には健康な人もいれば、新型コロナに感染した人も含まれています。
このうち、新型コロナのPCR検査を受けて陽性だった人と陰性だった人の症状の違いを解析して、新型コロナ陽性を症状から予測する式(モデル)を作成しました。
それによると、嗅覚・味覚障害が、新型コロナ陽性を予測する一番強い因子であることがわかりました。
発熱が予測因子の中に入らなかったのは、新型コロナ以外にも発熱する病気がたくさんあるからなのでしょうね。
もちろん、これはあくまで欧米のデータを用いて作られたモデルです。ですから、日本人に当てはまるかはわかりませんが、参考にはなるかもしれませんね。
今回のモデル式を計算できるように、下にフォームを作りました。試しに入力してシミュレーションしてみてください。
最後に、嗅覚・味覚障害が急に現れた場合の対処法については、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のページを是非ごらんください。
今回参考にした論文は、
Menni C, et al. Real-time tracking of self-reported symptoms to predict potential COVID-19 [published online ahead of print]. Nat Med. 2020.
doi: 10.1038/s41591-020-0916-2
です。
Research Question:
COVID-19を予測するための自己申告による症状(特に嗅覚・味覚障害)モデルを作成する。
方法:
対象:
スマートフォンアプリ「COVID Symptom Study」に回答した
2,618,862人(イギリス:2,450,569人、アメリカ:168,293人)
期間:
2020年3月24日から4月21日
データ収集:
症状のない人と症状のある人の両方からデータを収集し、症状、入院
の有無、PCR検査の結果、人口統計学的情報、既往症などの自己申告
の健康情報を毎日記録することで、リアルタイムに追跡した。
回答してもらった症状:
発熱、持続的な咳、疲労、息切れ、下痢、せん妄、食欲不振、
腹痛、胸痛、嗄声、嗅覚・味覚障害
予測モデルの作成:
症状を記入し、PCR検査を受け、その結果を受けたことを宣言した人。
嗅覚・味覚障害以外の10個の症状質問のうち少なくとも9つの質問に回答
し、嗅覚・味覚障害について回答した個人のみを対象とし、
多重ロジスティック回帰を行った。
英国のサンプルを80:20の比率でトレーニングセットとテストセットに
無作為に分割し、トレーニングセットでモデルを作成し、その後アメリカ
のデータも含めてバリデーションを行った。
→対象者
イギリス:15,368人(6,452人がPCR陽性)
アメリカ:2,037人(726人がPCR陽性)
結果:
- イギリスにおいて、789,083人(32.2%)がCOVID-19の潜在的な症状を1つ以上報告した。
- イギリスでは、PCR陽性と判定された6,452人のうち、4,178人(64.76%)が嗅覚・味覚障害を報告したが、PCR陰性と判定された9,186人のうち2,083人(22.68%)が嗅覚・味覚障害を報告した(年齢、性別、BMIを調整したオッズ比(OR):6.40 [5.96-6.87];P<0.0001)。
これはアメリカでも同様の結果であり、逆分散固定効果メタアナリシスでデータを結合した結果、OR:6.74 [6.31-7.21];P < 0.0001であった。 - COVID-19の症状予測モデルを検討したところ、最良のモデルとして、以下のものが得られた。(性別は男性が1、女性が0、症状はありが1、なしが0)
<予測モデル>
x =-1.32-(0.01×年齢)+(0.44×性別)+(1.75×嗅覚・味覚障害)+(0.31×ひどい咳嗽)+(0.49×ひどい倦怠感)+(0.39×食欲不振)
予測確率 = exp(x)/(1 + exp(x))
- この予測モデルで「予測確率>0.5を陽性」としたときに、感度:0.65 [0.62-0.67]、特異度:0.78 [0.76-0.80])、陽性的中率:0.69 [0.66-0.71]、陰性的中率:0.75 [0.73-0.77]であり、ROC曲線下面積(AUC)は0.76 [0.74-0.78]であった。
- この予測モデルは年齢や性別で層別化しても同様の結果であり、アメリカのコホートに当てはめても同様であった。
- この予測モデルでは、最も強い予測因子は嗅覚・味覚障害であり、それをモデルから除外すると、感度は低下(0.33 [0.30-0.35])したが、特異度は上昇(0.84 [0.83-0.86])した。
- PCR検査を受けていないイギリスとアメリカの症状報告者805,753人にこの予測モデルを適用したところ、140,312人 [116,400-164,224人](17.42% [14.45-20.39%])がウイルスに感染している可能性が高く、アプリへの回答者全体の5.36%を占めていることがわかった。
- []内は95%信頼区間。
結論:
本研究では、自己申告の症状からCOVID-19の発症を予測するモデルを作成した。嗅覚・味覚障害がCOVID-19のルーチンスクリーニングに用いる症状の一部として含まれていることが示唆された。