野球選手が新型コロナウイルスに感染した時に、嗅覚障害や味覚障害の症状があったと報道されました。
感染が拡大しているイタリアからの報告でも、新型コロナウイルスで入院している59名の患者のうち、およそ1/3の20名が味覚あるいは嗅覚障害を自覚していたそうです。
Self-reported olfactory and taste disorders in SARS-CoV-2 patients: a cross-sectional study
Andrea Giacomelli, Laura Pezzati, Federico Conti, Dario Bernacchia, Matteo Siano, Letizia Oreni, Stefano Rusconi, Cristina Gervasoni, Anna Lisa Ridolfo, Giulian
においが分からなくなったらすぐ受診すればいいの?
「そうか、においが分からなくなったらすぐに受診しなきゃ」と思われる方もあるかもしれませんが、ちょっと待ってください!
日本耳鼻咽喉科学会からのお知らせをまずごらんください。
要約すると、以下の通りです。
- 嗅覚障害・味覚障害は、インフルエンザや他の風邪でも起こることがある。
- 新型コロナウイルス感染症による嗅覚・味覚障害は自然に治ることが多く、特効薬もない。
- 嗅覚や味覚の異常を感じても、他の症状(発熱、咳、息苦しさ、だるさ)がなければ、不要不急の外出を控えて2週間様子をみる。
- 発熱、咳、息苦しさ、だるさがあれば、帰国者・接触者相談センターへ連絡を。
- 2週間経っても、嗅覚・味覚障害が続く場合には、耳鼻咽喉科を受診。
あせって病院を受診せず、他の症状がなければ、まずは自宅で様子をみることが大事です。
風邪をひいた後の嗅覚障害
学会からのお知らせにもあるように、風邪をひいた後に嗅覚障害が続く場合もあります。
特効薬はありませんが、自然に治る場合もありますし、薬を使ったり、嗅覚トレーニングを行うことで改善する場合もあります。
下に示した論文は、嗅覚障害患者の治り具合について調べた研究です。頭を強くぶつけてケガをした後になる嗅覚障害よりも、風邪の後になる嗅覚障害のほうが治りが良いという結果でした。
においや味が分かりにくくなっても、慌てないでください。
そして、自分が新たに感染をしない、そして感染を広げないように、一人一人の冷静な対応が必要です。
今回参考にした論文は、
Reden J, et al. Recovery of olfactory function following closed head injury or infections of the upper respiratory tract. Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2006; 132(3): 265–269.
doi: 10.1001/archotol.132.3.265
です。
Research Question:
上気道感染後および頭部外傷後の嗅覚障害患者の転帰を調べる。
方法:
デザイン:
患者ベースの後方視的研究
対象患者:
ドレスデン大学病院(ドイツ)の嗅覚外来を受診した361名の患者
(女性 228名、男性 133名)
平均年齢:55.3歳(17歳〜82歳)
主要評価項目:
嗅覚機能の改善
嗅覚機能はSniffin’ Sticksを用いた検知閾値検査、識別検査、同定検査
を行いTDIスコアを測定し、スコアが6点以上増加すると改善、6点以上
低下すると悪化とした。
結果:
- 上気道感染後の患者は262名(女性187例,男性75例,平均年齢58歳)、外傷後の患者は99名(女性41例,男性58例,平均年齢48.1歳)であった。
- 嗅覚障害の出現から初診までの平均期間は、17.4カ月(1~216カ月)であった。
- 初診から最終診察までの平均期間は、13.6カ月であった。
- 全体では嗅覚機能は26%(93名/361名)の患者で改善がみられたが、6%(22名/361名)の患者では悪化した。
- 嗅覚機能の回復率には、嗅覚障害の原因が大きく影響していた。
上気道感染後の患者では32%(83名/262名)の患者で改善したが、外傷後の患者では10%(10名/99名)しか改善しなかった。 - 上気道感染後の患者では、年齢と嗅覚機能の回復の間に負の相関が認められた(r = -0.18; P = 0.003)。
- 上気道感染後の患者では、感染から初診までの期間と嗅覚機能の回復の間にも負の相関が認められた(r = -0.17; P = 0.006)。
- 受診までの年数別の比較では、感染後1年以内:31.6%、1~2年:37.5%、2~3年:36.8%、3年以降:18.8%であり、感染後3年以内では改善率はほとんど差がなかった。
- 外傷後の患者では、年齢や受診までの期間と嗅覚機能の回復の間に相関は認められなかった。
- 性別は嗅覚機能の回復に有意な影響を及ぼさなかった。
- 本研究は、標準化された検査法を用いて嗅覚障害の進行を評価した研究の中では最大規模のものである。
結論:
上気道感染後の嗅覚障害患者では、外傷後の嗅覚障害患者と比較して、嗅覚機能の改善率が有意に高いことが示された。
また嗅覚機能の回復には年齢が重要な役割を果たしていることが示唆された。
アイキャッチ画像はTomoharu photographyさんによる写真ACからの写真を使用しました。
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