★で始まるブログは一部医療従事者向けの内容を含みます。詳しくは「このサイトについて」をごらんください。

★感謝の気持ちは、医療従事者のパフォーマンスをアップさせる

 先日、新型コロナと闘っている医療従事者への応援のために、東京の空にブルーインパルスが飛行し、多くの医療従事者が元気をもらいました。

 他にも、医療従事者に対する感謝の気持ちがいろいろな形であらわされています。

 一方で、医療従事者に対する誹謗中傷も残念ながらあるようです。

感謝や誹謗中傷が医療者に与える影響

 最近の調査では、医療における社会的相互作用(感謝や誹謗中傷など)が医療チームとそのメンバーのパフォーマンスに影響を与えることが明らかになっています。

 例えば、医療者に対する無礼や不作法な態度は、医療者個人やチームの診断と治療のパフォーマンスの両方に悪い影響を及ぼすと言われており、その程度は、電子カルテによるオーダーシステムが無い(手書きのオーダーしかできない)状態や、睡眠不足の状態などがパフォーマンスに与える影響よりも大きいという報告もあります。

 逆に、医療者が感謝を受けることは、医療チームの業務プロセスを良くする可能性があります。その理由として大きく2つあると言われます。

 1つには、個人が特定の行為に対して他者から感謝されると、自らの社会的価値を感じ、それに恩返しをしようと感じるようになり、その結果、さらにその行為をしっかりと行おうとする良い動機付けとなります 。

 2つには、感謝がチームに向けられると、チームメンバーは自分たちが集団として他人の生活にプラスの変化をもたらしたことを感じ、それによってメンバー同士の絆が深まり、チームに対する誇りと献身の感覚が強まると言われています 。

感謝は大きな力になる

 下に示した論文は、NICU(乳幼児の集中治療部門)で働く人達を対象にした研究で、患者の母親から感謝の言葉をかけられると、仕事のパフォーマンスはどのように変化するかを調べた研究です。

 それによると、患者の母親から感謝を表明されると、仕事のパフォーマンス(特に治療に対するパフォーマンス)が向上することがわかりました。

 しかもそれは、医療者間あるいは医療者と患者・家族とのコミュニケーションを向上させることを介してひきおこされることがわかりました。

 患者やその家族からの感謝の言葉は、医療者と患者・家族とのコミュニケーションを良好にして、その結果、治療のパフォーマンスが向上するということです。

 この論文の中で著者も述べていましたが、この結果から「医療者が患者・家族から感謝の気持ちを引き出すことを求めるべき」ということは言うべきではないですが、「医療者が患者・家族とのコミュニケーションに時間をかけて、患者・家族の経験やケアに対する感情的な反応を知ることは、結果的にチームのパフォーマンス向上につながる」ということが言えると思います。

 医療者も患者・家族も、お互いを思いやる心をもって、感謝の心で接することが、よりよい医療をもたらすのだということでしょう。

 

今回参考にした論文は、
Riskin A, et al. Expressions of Gratitude and Medical Team Performance. Pediatrics. 2019; 143(4): e20182043.
doi: 10.1542/peds.2018-2043
です。

Research Question:

 感謝の表明を受けた後のNICUチームのパフォーマンスは変化するか。

方法:

 デザイン:
  無作為割り付け試験
 対象:
  急性期医療シミュレーションのトレーニングワークショップに参加した
  43組のNICUチーム(1組の構成は医師2名、看護師2名;イスラエル)
 割り付け:
  以下の4つの条件に無作為に割り付けられ、シミュレーションを行った。
  模擬母親役は俳優が行った。
  シミュレーションの一連のシナリオが始まる前に、割り付けに基づいて、
  感謝の言葉や中立的発言がなげかけられた。
  (1)母親の感謝
   早産児の母親が我が子を治療してくれたチームに感謝の意を表明する
  (2)専門家の感謝
   医師の専門家がチームに感謝の意を表明する
  (3)母親の感謝と専門家の感謝の併用
  (4)コントロール
   (1)〜(3)と同じ人が中立的な発言をする
 評価:
  構造化された質問票を用いて、割り付けについて盲検化された2名の判定員
  によって評価された。
  質問票は5段階のリッカート尺度を用いた(点数が高いほど優れている)。
  チームのパフォーマンスを診断治療(処置)に分けて評価した。
  また、そのパフォーマンスに影響を与える効果として、情報共有仕事量
  共有
の2つの相乗的なチームプロセスを検討した。
 解析:
  多変量解析は、間接効果の大きさと有意性をパスモデルで検定した。
  間接効果は分布に偏りがあるため、モンテカルロ法を用いて推定した。

結果:

  • 手技に与える影響を検討すると、母親の感謝の影響は有意であったが(母親の感謝:4.8 ± 0.4 vs コントロール:4.5 ± 0.6; P < 0.001)、専門家の感謝の影響に関しては有意ではなかった(P > 0.10)。また双方の感謝を受けている群においても母親の感謝のみが影響を与えていた。
    そこで、以下母親の感謝の効果にのみ焦点を当てて解析した。
  • 母親の感謝は、チームの治療(処置)的パフォーマンスに正の影響を与えた(母親の感謝:3.9 ± 0.9 vs コントロール:3.6 ± 1.0; P = 0.04)。
    この効果の大部分は、「チームの情報共有に対する感謝」への正の影響によって説明された(4.3 ± 0.8 vs 4.0 ± 0.8; P = 0.03)。
    一方、母親の感謝は診断的パフォーマンスには影響はなかった。
  • 感謝を受けたグループでは、感謝を受けた直後の最初のシミュレーションで、特に高いパフォーマンスが得られた。
  • 情報共有を介した感謝の間接的効果は有意であり、診断パフォーマンスについての間接効果は0.209(95%CI:0.018~0.395;P = 0.03)であり、治療(処置)パフォーマンスについての間接効果は0.197(95%CI = 0.017~0.385;P = 0.04)であった。
  • チームの情報共有における分散の40%は、母親の感謝によって説明された。
  • 情報共有はチームのパフォーマンスの結果を予測し、診断パフォーマンスの分散の33%と治療パフォーマンスの分散の41%を説明した。
    一方、仕事量の共有を介した感謝の間接的効果は有意ではなかった。

結論:

 患者やその家族が表現した感謝の気持ちは医療チームのパフォーマンスを有意に向上させ、この効果の多くは情報共有の強化によって説明された。

1件のピンバック

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です