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★育ってきた環境でアレルギーのなりやすさが変わる!?〜衛生仮説とは〜

 SMAPの『セロリ』の歌詞に「育ってきた環境が違うから好き嫌いはイナメナイ」というフレーズがありますが、育ってきた環境によって変わるのは好き嫌いだけなのでしょうか。

 今日は「育ってきた環境が、アレルギーに影響を与えるかどうか」についてとりあげてみたいと思います。

衛生仮説とは?

 アレルギーの発症に関して『衛生仮説』という仮説が以前から言われています。1989年にStrachanが初めて報告したものです。

 衛生仮説とは、幼少期に感染する機会が少なかったり、育ってきた環境に細菌が少ないとアレルギーを発症しやすいというものです。

 もう少し平たい言葉でいうと、清潔すぎる環境で育つとアレルギーになりやすく、少々細菌と触れるような環境で育った方がアレルギーになりにくいということです。

 日本をはじめとした先進国でアレルギー患者が増えている一因として、近代化の影響で清潔な環境になってきたり、抗菌薬を使いすぎていることが挙げられるのも、この衛生仮説からです。

アメリカで行われた研究

 衛生仮説を裏付けるような研究はいろいろなされていますが、今日はアメリカで行われた研究をご紹介したいと思います(研究の詳細は最後に書かれています)。

 アメリカにはアーミッシュ(インディアナ州)とハッタライト(サウスダコタ州)という2つの集団があります。宗教的な背景がある集団のようですが、それぞれ独特の生活を送っています。

 この2つの集団は、宗教改革の時代にヨーロッパ(アーミッシュはスイス、ハッタライトはイタリア南チロル)で生まれ、アーミッシュは1700年代、ハッタライトは1800年代にアメリカに移住してきました。

 この2つの集団のライフスタイルはとても似ています。例えば、兄弟姉妹の数が多いこと、小児期のワクチン接種率が高いこと、脂肪分や塩分、生乳を多く含む食事をしていること、小児期の肥満率が低いこと、母乳保育の期間が長いこと、タバコの煙や大気汚染にさらされる機会が少ないこと、室内でのペット飼育を禁止していることなど、アレルギー疾患や喘息のリスクに影響を与えるといわれている要因のほとんどについて類似しています。

 このような似通った生活習慣をしている2つの集団で、大きく異なるのが農作業のやり方です。

  • アーミッシュは伝統的な農作業を行い、酪農場で生活し、フィールドワークや移動に馬を使います。
  • ハッタライトは高度に工業化された、大規模な共同農場で生活しています。

 そして、アーミッシュの子供は、ハッタライトの子供と比べて喘息やアレルギーになりにくいことが今までも報告されています(喘息の有病率:5.2% 対 21.3%、アレルギー感作率は7.2% 対 33.3%)

 この農業のやり方の違い(生活環境の違い)が、喘息やアレルギーの発症に関係しているかを調べたのが今回の研究です。

果たして結果は?

 結果は「関係あり」という結果でした。

 まず最初にアーミッシュとハッタライトの遺伝的背景を調べてみると、とても似ていることがわかりました。つまり今回の比較では、遺伝的な影響はほとんどないと考えられます。

 伝統的な生活をして、生活環境に存在する細菌と触れあう機会が多いアーミッシュの子供の血液を調べると、近代的な生活をしているハッタライトと比べて、細菌と闘って排除する自然免疫の働きが高くなっており、一方でアレルギーを引き起こす要因が少ないことがわかりました。

 そして、アーミッシュの家のホコリに含まれる成分を調べると、細菌の表面の成分であるエンドトキシン(リポポリサッカライド:LPS)が多く含まれており、そのホコリから抽出した成分を喘息のマウスに投与すると喘息の症状や反応が抑制されたという結果が得られました。

 アーミッシュとハッタライトの両者から子供たちの血液、家のホコリを集めて、その成分や喘息マウスへの反応を調べたところ、いずれも矛盾しない結果であり、アーミッシュの細菌に触れやすい環境は喘息やアレルギーを防ぎやすいことが分かりました。

 清潔すぎる環境は、アレルギーにおいてはあまり良くない環境ということなんですね。

 

今回参考にした論文は、
Stein MM, et al. Innate Immunity and Asthma Risk in Amish and Hutterite Farm Children. N Engl J Med. 2016; 375(5): 411-421.
doi: 10.1056/NEJMoa1508749.
です。

Research Question:

 生活環境の違いでアレルギー疾患の発症に差があらわれるか。

方法:

 対象:
  インディアナ州のアーミッシュとサウスダコタ州のハッタライト
  7〜14歳の小児それぞれ30名。
  (両群は性別の割合を一致させ、年齢も1歳以内の範囲で一致させた。
   2012年11〜12月に調査。)
 評価項目:
  児の環境曝露、遺伝的要素、免疫プロファイルを調査した。
  それぞれの家のハウスダストのアレルゲンとエンドトキシンのレベルを測定し、
  マイクロバイオーム組成を評価した。
  全血を採取し、血清IgE値、サイトカイン反応、遺伝子発現を測定し、
  フローサイトメトリーを用いて末梢血白血球の表現型を調べた。
 動物実験:
  アレルギー性喘息のモデルマウスを用いた。
  アーミッシュとハッタライトの家から得られたハウスダスト抽出物が
  免疫反応と気道反応に及ぼす影響を評価した。

結果:

  • 主成分分析を用いた家系の評価とゲノムワイドSNPsを用いたアレル頻度比較では、両者に顕著な遺伝学的類似性があることがわかった。
  • ところが喘息の有病率は、アーミッシュ0%に対しハッタライトは20%と顕著な違いがあり、アレルギー感作率も、アーミッシュが7%に対しハッタライトは30%と高かった。
  • ハウスダストの解析
    • それぞれの家から採取したハウスダストの一般的なアレルゲン(ネコ、イヌ、イエダニ、ゴキブリ)は、アーミッシュ10軒中4軒、ハッタライト10軒中1軒から検出された
    • 一方、エンドトキシンレベルは20軒すべての家のハウスダストで測定され、中央値はアーミッシュの方がハッタライトよりも有意に高く、6.8倍であった(4399EU/m2 vs. 648EU/m2、P<0.001)。
    • マイクロバイオームによる細菌の組成も異なっていた
  • 末梢血白血球の解析
    • アーミッシュの子供たちの末梢血白血球は、ハッタライトと比較して、好中球の割合が高く、好酸球の割合が低かった
    • アーミッシュの子供たちの好中球は、ハッタライトと比べてケモカイン受容体(CXCR4)接着分子(CD11b、CD11c)の発現量が少なく、骨髄から移動してきたばかりの血球である可能性が示された。
    • Treg細胞(CD3+、CD4+、FoxP3+、CD127-)の割合は、アーミッシュとハッタライトで有意な差は見られなかった(末梢血白血球の0.056±0.054% vs. 0.079±0.081%、P=0.29)。
  • リッポリサッカライド(LPS)刺激に対するサイトカインの反応
    • LPSで処理した末梢血白血球の上清には、23種類のサイトカインが検出された。これら23種類のサイトカインの中央値は、アーミッシュの子どもたちの方がハッタライトの子どもたちよりも低く、これらの分布は有意に異なっていた(P<0.001)。この結果は、喘息やアレルギーがあることがわかっている子どもを除外しても同様であった。
  • 遺伝子発現のプロファイルにも違いが見られた。
    • 最も有意な差があった遺伝子ネットワークは、微生物刺激に対する自然免疫応答の鍵となるタンパク質である腫瘍壊死因子(TNF)インターフェロン制御因子7(IRF7)をハブとするネットワークであり、アーミッシュの末梢血白血球で過剰に発現していた。
  • アレルギー性喘息のモデルマウスを用いた研究
    • アーミッシュの家庭から採取したハウスダスト抽出物を鼻腔内に投与すると、ハッタライトと比較して気道の過敏反応と好酸球増加が有意に抑制された。これらの効果は、自然免疫系のシグナル伝達に重要な分子であるMyD88Trifを欠損させたマウスでは認められなかった。

結論:

 ヒトとマウスを用いた研究の結果、アーミッシュの環境は自然免疫反応に関与し、自然免疫を形成することで喘息を予防することが示唆された。

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