みなさんは、風邪をひいたとき、風邪を治すために何か食べるものはありますか?
日本で伝統的に言われているのは、生姜湯や葛湯、ネギ味噌などがありますね。
欧米では古来からチキンスープが良いと言われているようです。
チキンスープは”ユダヤのペニシリン”
チキンスープは何世紀にもわたって風邪の治療食とみなされてきました。特にユダヤでは、チキンスープを「ユダヤのペニシリン」などと呼んでいるそうです。
食品の病気に対する効果を科学的に調べるというのはなかなか難しく、文献を調べてもあまり出てきません。
しかし、何世紀にも渡る経験の蓄積を、科学的根拠がないからとないがしろにはできないでしょう。
チキンスープは風邪に効くのか?
下に示した論文は、「風邪に効くといわれているチキンスープが、好中球の遊走を抑制することができるか」ということを調べた実験の結果です。
好中球の遊走というのは、例えば風邪をひいた時に身体の中に入ってきた細菌などをやっつけるために、血液の中の白血球(好中球)が細菌めがけてやってくる(走ってくる→遊走)ことを言います。
好中球が遊走することは、細菌などをやっつけるには良いことなのですが、過剰に起こると炎症が起きます。のどが赤くなって痛くなるのはそのためです。
今回の実験では、チキンスープが好中球の遊走を抑制することが示されました。
この論文のおもしろいのは、調理の過程のどの段階で効果が出るのか、あるいは具によって差があるのかを調べたり、市販のスープと比較しているところです。皆さんおなじみの日清のカップヌードルも調べたようですが、カップヌードルには好中球の遊走を抑制する効果はなかったようです。
もちろんこれは、人間の生体内でのことではなく、実験室での結果ですので、この結果からすぐに「チキンスープは風邪に効く」とは言えませんが、一つの手がかりになるかもしれません。
ちなみに今回の実験で使ったスープは、「おばあちゃんのスープ」という名前がついていて、以下のレシピで作られています。レシピもちゃんと論文に記載されているのがおもしろいところです。
“Grandma’s soup”(おばあちゃんのスープ)のレシピ
<材料>
5~6ポンドの鶏肉1羽、手羽先1パック、大きな玉ねぎ3個、大きなサツマイモ1個、パセリ3個、カブ2個、大きなニンジン11~12本、セロリ5~6本、パセリ1束、塩コショウ少々
<作り方>
・鶏肉をきれいに洗い、大きな鍋に入れ、水を入れ沸騰させる。
・手羽先、玉ねぎ、サツマイモ、パセリ、カブ、ニンジンを加え、
約1.5時間茹でる。表面に脂がたまってきたら取り除く。
・パセリとセロリを加え、さらに45分ほど煮る。
・鶏肉を取り出す。
(鶏肉はスープには戻さず、チキンパルメザンを作るのに使う)
・野菜をフードプロセッサーで細かくし、こし器を通す。
・塩コショウで味を調える。
・マツァ・ボール(マツァミールで作られたユダヤの団子)を入れる。
風邪の特効薬はありませんから、チキンスープを飲んで様子をみるのもの一つの方法かもしれません。
日本伝統の生姜湯や葛湯なども含め、自分にあった風邪ぐすりを探すのもよいかもしれませんね。
今回参考にした論文は、
Rennard BO, et al. Chicken soup inhibits neutrophil chemotaxis in vitro. Chest. 2000; 118(4): 1150-1157.
doi: 10.1378/chest.118.4.1150
です。
Research Question:
チキンスープは好中球の走化性を抑制するのか。
方法:
in vitroでの実験
使用したチキンスープ:
伝統的な”Grandma’s soup” (C. Fleischer, 1970)のレシピを用いた。
サンプル採取:
同じレシピで3回スープをつくって、それらからサンプルを採取した。
調理による変化をみるため、調理の19の段階でそれぞれサンプルを採取した。
スープが不均一の場合には、鍋の異なる場所からサンプルを採取した。
また、鶏肉や野菜などそれぞれの具を個別に煮出したエキスもサンプリングした。
比較対象:
スーパーで購入できる市販のレトルトスープをいくつか用いた。
(含む、日清のカップヌードル)
好中球の走化性アッセイ:
非喫煙者の健康なボランティアから採血し、好中球を抽出した。
ブラインドウェル技術を用いて走化性アッセイを行った。
スープから採取したサンプルを調整し、走化性を阻害するかを測定
した。陽性対照はジモサン活性化血清(ZAS)を用いた。
走化性阻害の濃度依存性を調べる時には、ZASやfMet-Leu-Phe (fMLP)を
走化性因子として使用した。
細胞毒性:
スープから採取したサンプルを調整し、Hankの平衡塩溶液(HBSS)中の
好酸球に加えて、細胞の生存率を評価した。
結果:
- 完成したチキンスープは、ZASによる好中球遊走を阻害した。
その効果は、スープを直接好中球に添加したほうがはるかに顕著であった。 - チキンスープの好中球遊走の抑制効果は濃度依存的であった。
これはZASとfMLPのいずれを走化性因子として用いても認められた。 - スープは懸濁液であり固形成分も含まれていたが、遠心分離した上清を用いても、走化性の阻害活性を保持していた。
- 調理行程の時点ごとの遊走抑制については、
最初に鶏肉だけを入れた状態では、阻害活性はなかったが、野菜を入れた
後からは、阻害活性が認められた。また調理の最終段階では若干阻害活性が低下した。 - スープの具を個別に分けて煮出して調べたが、鶏肉単独も含め、全ての具の煮出したエキスに阻害活性が認められた。
- また、チキンスープや、それぞれの具を個別に煮だしたエキスによる細胞毒性はほとんど認めず、好中球の生存率は高かった(チキンスープは95%)。野菜のみを煮出したスープはやや生存率が低かった。
- 対照として市販のレトルトスープ13種類と比較したが、うち5種類はチキンスープ”Grandma’s soup”より阻害活性が高く、2種類(日清のカップヌードルを含む)は阻害活性がなく、1種類は逆に走化性を増加させた。
結論:
今回の研究では、in vitroでチキンスープが好中球の走化性を有意に阻害した。チキンスープに潜在的な医学的価値を持つ化合物が含まれているかもしれない。
これはin vivoでの臨床試験ではないため、チキンスープで臨床的効果が得られるかどうかは未検証のままである。