データの誤解が生む不安
SNSを見ていると、「ワクチン接種率が高い地域ほど、死亡率が高い」という投稿を目にすることがあります。この投稿では、各都道府県のワクチン接種率と全死亡率(コロナ死だけではなくすべての死亡を含む)とを比較したグラフが使われています。
↓各県毎のワクチン接種率を横軸に、10万人あたりの全死亡者数を縦軸にしたこのような図です。
グラフを見ると、確かにワクチン接種率が高い都道府県ほど、全死亡率も高くなっているように見えます。ちなみにこの図は、私が以下のサイトからデータを拾ってきて作成しなおしたものなので、データに間違いはありません。
<データソース>
(1) e-Stat 政府統計の総合窓口「人口動態調査」
(2) 厚生労働省 新型コロナワクチンの接種回数について(令和6年4月1日公表))
でも、これは本当にワクチンが原因で死亡率が上がっているのでしょうか?
実は、このデータの解釈には大きな落とし穴があります。
データの裏に隠れている事実
このグラフが示しているのは「相関関係」です。
相関関係とは、2つの事柄に何らかの関連性があることを示すものです。
例えば、「アイスクリームの売り上げ」と「熱中症の患者数」にも相関関係があります。両者は夏に増加し、冬に減少するからです。でも、アイスクリームを食べたから熱中症になるわけではありませんよね。
同じように、ワクチン接種率と全死亡率の関係も、実は別の要因が影響しているのです。
年齢という重要な要素
ワクチン接種に関して、重要な背景があります。それは「高齢者ほどワクチンを積極的に接種している」ということです。これは当然のことで、高齢者は重症化しやすいため、優先的にワクチン接種が勧められてきました。
一方で、高齢者は若い人に比べて、おのずと亡くなる確率が高くなります。これは、ワクチン接種とは関係のない、人間の寿命に関わる自然な現象です。
つまり、全死亡率の高い高齢者ほど、ワクチンを多く接種しているという背景を考慮しないといけません。
「高齢者が多い地域では、ワクチン接種率が高くなる」
「高齢者が多い地域では、おのずと死亡率も高くなる」
この2つの事実が重なって、「ワクチン接種率が高い地域は死亡率も高い」という見かけの関係が生まれているのです。
年齢層別に見ると見えてくる真実
この考えが正しいことを確認するため、同じデータを「20-40歳代」「50-70歳代」「80歳代以上」の3つの年齢層別に分けて分析してみましょう。
すると、それぞれの年齢層の中で比較した場合、ワクチン接種率と死亡率の間には明確な関係が見られないことが分かります。
これは、先ほどの推測が正しかったことを示しています。ワクチン接種率と死亡率の関係は、年齢という要因によって見かけ上生まれていた関係だったのです。
(1) 20-40歳代
(2) 50-70歳代
(3) 80歳代以上
データを読むときの大切なポイント
これらのことから、データを読むときの重要なポイントが見えてきます。
まず、2つの事柄に関連性(相関関係)があったとしても、必ずしも一方が他方の原因(因果関係)とは限りません。
また、データを見るときは、その背景にある要因についても考える必要があります。今回の例では「年齢」という要因が重要でした。
さらに、できるだけ細かく分析してみることも大切です。全体では見えなかった真実が、データを細かく分けることで見えてくることがあります。
まとめ:データを正しく理解するために
私たちの周りには、様々なデータや統計情報があふれています。それらは時として誤解を招く形で提示されることもあります。
大切なのは、データを鵜呑みにせず、「本当にそうなのか?」「他の説明ができないか?」と、じっくり考えてみることです。
また、分からないことがあれば、信頼できる専門家の意見を参考にすることも重要です。一人で判断するのが難しい場合は、複数の情報源にあたって、慎重に判断することをお勧めします。
このように、データを正しく読み解く力は、現代社会を生きる私たちにとって、とても大切なスキルとなっています。
★コロナ禍の最中にも似たようなことがあり、以下の記事を投稿したことがあります。これも参考にしてみてください。