「最近、声がかすれて治らない」「声が出しにくくて疲れる」
そんな症状が続いていませんか?
単なる風邪の後遺症だと思って放置している方も多いかもしれませんが、実はその背後に深刻な病気が隠れている可能性があります。
声のかすれが長く続く場合、片側の声帯が動かなくなる「片側声帯麻痺」という状態かもしれません。
そして、この片側声帯麻痺の原因として、がんなどの重大な病気が見つかることがあるのです。早期発見により治療の選択肢が広がるため、適切な検査を受けることが重要です。
なぜ片側声帯麻痺の原因を調べることが大切なのか
声帯は、のどの奥にある2枚のひだ状の組織で、息を吐くときに振動することで声を出しています。
片側声帯麻痺とは、この声帯の片方が動かなくなってしまう状態のことです。声帯を動かす神経(反回神経)は、脳から首、胸の奥まで長い道のりを通っているため、その道筋のどこかに問題があると声帯が麻痺してしまいます。

問題となるのは、この神経の通り道に腫瘍ができたり、がんが転移したりすることがあることです。
特に肺がんや甲状腺がん、縦隔(胸の中央部)の腫瘍などは、この神経に影響を与えやすい場所にできることが知られています。
つまり、原因不明の片側声帯麻痺は、隠れたがんのサインである可能性があるのです。
早期に原因を突き止めることで、がんの早期発見・治療につながり、患者さんの命を救うことができます。また、声のかすれだけでなく、飲み込みにくさや息切れなどの症状も現れることがあり、日常生活に大きな影響を与える可能性があります。
最近の研究:原因不明の片側声帯麻痺に隠れる病気はどのくらいあるのか
台湾の研究チームが行った最新の調査によると、原因がはっきりしない片側声帯麻痺の患者さんを詳しく調べたところ、かなりの割合で実際に隠れた病気が見つかったことが分かりました。
この研究では、全体で437名の片側声帯麻痺患者さんを調査し、そのうち原因不明とされた121名の患者さんに対して、CT検査やMRI検査などの詳しい画像検査を行いました。
その結果、121名のうち48名(39.7%)の患者さんで隠れた病気が発見されました。興味深いことに、隠れた病気が見つかった患者さんの平均年齢は63.7歳で、特に病気が見つからなかった患者さん(54.0歳)よりも高い傾向がありました。また、症状の期間は隠れた病気がある患者さんの方が短く(約4.5か月 対 12.7か月)、喫煙率も高い(48%対26%)ことが分かりました。さらに、胸部で見つかった病変の87.1%が悪性腫瘍であったのに対し、首の病変では43.8%が悪性腫瘍でした。
これらの病気は、声のかすれ以外に明らかな症状がないことも多く、片側声帯麻痺の検査によって初めて発見されるケースが珍しくありません。研究者らは、原因不明の片側声帯麻痺に対しては、首から胸にかけての詳しい検査が重要であると結論づけています。
この研究結果から私たちが学べること
この研究結果は、声のかすれを軽く考えてはいけないということを教えてくれます。
特に、2週間以上続く声のかすれがある場合は、耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします。医師は内視鏡検査で声帯の動きを確認し、片側声帯麻痺が疑われる場合には、首から胸にかけてのCT検査や超音波検査を行います。
検査により約40%の方で隠れた病気が見つかるという事実は、決して脅すためのものではありません。
早期発見により治療の選択肢が増え、より良い結果が期待できるからです。また、検査で特に異常が見つからなかった場合でも、声帯麻痺に対する治療法があります。
麻痺が治らなかった場合には、注射によって声帯を膨らませる手術や、声帯の位置を調整する手術などにより、声の質を改善することができます。
大切なのは、症状を我慢せずに専門医に相談することです。早めの受診が、あなたの健康と生活の質を守る第一歩となります。
まとめ
長く続く声のかすれは、単なる風邪の後遺症ではなく、重大な病気のサインである可能性があります。最近の研究により、原因不明の片側声帯麻痺の約40%で隠れた病気が見つかることが明らかになりました。
早期の発見と治療のために、2週間以上続く声のかすれがある場合は、迷わず耳鼻咽喉科を受診しましょう。
※本記事は最新研究を分かりやすく解説したものであり、診断・治療は専門医へご相談ください。

今回参考にした論文は、
Chen HW, et al. The rate of occult lesions in unilateral vocal fold paralysis with unknown causes. J Formos Med Assoc. 2025 Jun 12:S0929-6646(25)00281-5.
DOI: 10.1016/j.jfma.2025.06.006
です。
Research Question:
原因不明の片側声帯麻痺患者において潜在的病変の検出率はどの程度か
Methods:
デザイン:
後ろ向きコホート研究
サンプル:
n=121 (台湾、原因不明の片側声帯麻痺患者、全体437例中)
主要アウトカム:
造影CT・MRIによる潜在病変の検出率
解析:
造影頸胸部CT (117例)、脳頸部MRI (4例)による病因分析、患者背景の比較
Results:
- 主要結果: 潜在病変検出率 39.7% (48/121例)
- 患者背景: 潜在病変群の平均年齢 63.7±11.1歳 vs 特発性群 54.0±16.6歳 (p<0.01)
- 有症期間: 潜在病変群 4.47±17.2か月 vs 特発性群 12.7±24.5か月 (p=0.04)
- 喫煙率: 潜在病変群 48% vs 特発性群 26% (p=0.01)
- 悪性率: 胸部病変 87.1% vs 頸部病変 43.8% (p<0.01)
Conclusion & Implication:
- 原因不明の片側声帯麻痺では39.7%で潜在病変が発見される
- 高齢、喫煙歴、短期間の症状が潜在病変のリスク因子となる
- 胸部病変の悪性腫瘍率が頸部病変より有意に高く、包括的な画像検査が重要