2020年4月に、日本耳鼻咽喉科学会と日本歯科医師会とが共同で「摂食嚥下障害診療における耳鼻咽喉科と歯科との連携」に関する提言が出されました。
摂食嚥下障害診療においては、口腔、咽頭、喉頭などの摂食嚥下器官を診療対象とする耳鼻咽喉科と、口腔などを診療対象とする歯科との役割が極めて大きい。
(中略)
両者が摂食嚥下障害診療において密接に連携・協力することは、今後、更に増加することが予想される摂食嚥下障害患者に適切に対応する上で極めて重要である。
「摂食嚥下障害診療における耳鼻咽喉科と歯科との連携」に関する提言
摂食嚥下ってどういうこと?
摂食嚥下(せっしょくえんげ)と聞くと、何か難しいことのように思いますが、皆さんが毎日何気なくやっている動作です。
皆さんが目の前にある食べ物を認識して、それを口に取り込んで、噛んで、飲み込んで、胃の中に入るまでが摂食嚥下の動作です。
この一連の動作は、あまり意識をすることなく当たり前のようにやっていますが、実はとても複雑なことをやっているのです。
もう少し詳しくみてみましょう。
まず食べ物を認識して口に入れる
まず食べ物が目の前にあることを認識しないと始まりません。
皆さんの目の前に鉄の塊があっても、それを食べようとは思わないですよね。
例えば、認知症の方が目の前にある食べ物を、食べ物と認識できなかった場合、食事は始まりません。
また、食べ物と認識できても、手がうまく動かなければ、思うように食事ができません。
さらに、飲み込みやすい姿勢がうまく保てなければ、それだけでうまく食べることができません。
例えば、口の中に食べ物を入れて、天井を向いた状態で飲み込むことができるでしょうか。きっとむせ混んでしまいます(よい子はまねしないでください)。姿勢も大事なのです。
口の中で食べ物をよく咀嚼する
食べ物が口に入ったら、それをのどに送り込めるように良く噛んでまとめなければなりません。
まず口を閉じられないとこぼれてしまいうまく噛めませんね。そして、歯がないとうまく食べ物を噛めません。入れ歯があってもグラグラで口の形と合っていなければ、またうまく噛むことが出来ません。
むせないように食べ物を食道まで持っていく
次に口の中の食べ物をのどに送らないといけません。
これがまた複雑なのです。
実は、のどの中は空気の通り道と食べ物の通り道がクロスしているんです。
ちょうど交差点みたいなものです。
その交通整理がうまくできないと事故がおきる(むせる)のです。
- まず軟口蓋(のどちんこ)が上にあがって、食べ物が鼻に逆流しないようにします。
- そして、喉頭(のどぼとけ)が上にあがって、喉頭蓋というフタが気管を塞いで気管に食べ物が入らないようになります。
- それと同時に食道の入り口が開いて、食道へ食べ物が入っていきます。
このような複雑な動きがタイミングよくできて、交通整理がうまくいってはじめて、食べ物が食道までたどり着き、胃の中に入っていくのです。
だから、歯科と耳鼻咽喉科の連携が必要
歯科医は、歯や入れ歯、かみ合わせの調子を整えて、うまく噛むことができるようにすることに長けています。
一方、耳鼻咽喉科医は、のど(咽頭や喉頭)の診察をして、のどの働きのどこが悪いかを評価し、どのような食べ方をすればよいか、どのようなリハビリをしたらよいかを判断します。また、飲み込みを改善させる手術を行うこともできます。
もちろん、摂食嚥下の訓練を行ったり、口の中のケアを行う言語聴覚士や歯科衛生士の活躍を忘れてはいけません。
このように歯科と耳鼻咽喉科、その他多職種が連携することで、よく噛んで、よく飲み込める健康な食事ができるようにサポートすることができるのです。
健康な口、のどを保って、いつまでも美味しく食事を食べましょう!
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